シックハウス症候群と化学物質過敏症の理解のために


20021114

CSN #249

2000年の厚生省(現、厚生労働省)の報告書[1]によると、シックハウス症候群及びシックビルディング症候群とは、「住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装材の使用等により、新築・改築後の住宅やビルにおいて、化学物質による室内空気汚染等により、居住者の様々な体調不良が生じている状態が、数多く報告されている。症状が多様で、症状発生の仕組みをはじめ、未解明な部分が多く、また様々な複合要因が考えられることから、シックハウス症候群と呼ばれる。」と理解するよう示されています。

また、これらの症候群の主原因である室内空気中の化学物質汚染によって、高濃度のホルムアルデヒドや殺虫剤などの有害性の高い化学物質に曝露した場合、化学物質過敏症の病態になるケースがあります。そして前述の報告書[1]によると、化学物質過敏症とは、「最初にある程度の量の化学物質に曝露されるか、あるいは低濃度の化学物質に長期間反復曝露されて、一旦過敏状態になると、その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来す者があり、化学物質過敏症と呼ばれている。化学物質との因果関係や発生機序については未解明な部分が多く、今後の研究の進展が期待される。」と理解するよう示されています。

シックハウス症候群は、体調不良を引き起こしている建物から外へでると症状が軽減あるいは消失し、さらにその中へ戻ると症状が再発します。つまり、建物内に何らかの汚染源が存在し、それを取り除くことによって対処することが可能です。しかしながら、化学物質過敏症の場合、症状の重さの程度や反応する化学物質に対する個人差によりますが、香水、化粧品、整髪料、たばこ煙、自動車排気ガス、ビニール製の配線など、多種多様の商品や化学物質に対して反応する場合があることから、逆に外出できないケースが多いのです。

そのため、シックハウス症候群と比べて化学物質過敏症は対策が難しいことから、原因が建物内であることが明確なシックハウス症候群に対して取り組んでいるのが日本の関係省庁の現況です。

また、厚生労働省の研究班が、シックハウス症候群の病態解明や診断治療法に関する研究を進めています[2]が、シックハウス症候群も化学物質過敏症も、その発生機序のメカニズムが未解明であることから診断治療が難しく、正式には病気として認められておりません。そのため、体調不良を生じた生活環境の経緯や建物の状況や各種検査によりシックハウス症候群や化学物質過敏症と医師の判断で診断されても健康保険が適用されません。

特に化学物質過敏症は、症状が重くなるにつれて、衣服や飲食物も含めた身の回りの多種多様な商品や化学物質に反応することから、そのような反応を示す人たちに対する周囲の理解が進まず、気のせいだと思われることが多いのが現状です。

しかしながら、発生機序のメカニズムが未解明で病気として正式に認められていなくても、何らかの原因があるため反応していると考えるべきであり、これらの病態を訴えている人たちのことをよく理解する必要があります。

特に化学物質過敏症を訴える人たちは、外に出ても体調が思わしくないため仕事にでることができず、さらに有害な化学物質の曝露を避けるために生活環境を改善しなければならないため生活面でさまざまな制約を受け、不安を抱えながら生活しています。また、化学物質過敏症を訴える子供たちの場合、新品の教科書のインクや塗り替え後の床のワックスに反応するため学校に通うことができず、学校で勉強したくても勉強できない子供たちもいるのです。

シックハウス症候群や化学物質過敏症は、利便性や効率を追求した化学産業の発達の中で、化学物質のリスク評価が十分に行われないまま、生活環境中にさまざまな化学物質が入り込んできたことに対する重要な警告として受け止める必要があります。これらの病態の発生機序のメカニズムが未解明で病気の概念が不安定であったとしても、現実に、シックハウス症候群や化学物質過敏症の症状を訴える人たちが我が国にも多数存在することは、公衆衛生上の重要な問題として認識すべきであり、産官学民が一体となってこれら問題の重要性を認識し、それぞれの立場に基づいた対策に取り組む必要があるでしょう。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1]厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室,「室内空気汚染問題に関する検討会中間報告書−第1回〜第3回のまとめ」, June 26, 2000
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1206/h0629-2_13.html

[2]平成12年度厚生科学研究費補助金生活安全総合研究事業:シックハウス症候群の病態解明と診断治療法に関する研究,平成133


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