EUの予防原則と欧州裁判所の判決


2002915

CSN #246

2002911日、欧州裁判所の第1審裁判所は、動物の飼料用添加物として使用されている4種類の抗生物質(バージニアマイシン、亜鉛バシトラシン、スピラマイシン、チロシンフォスフェイト)の使用禁止に関する欧州議会の決定を支持すると発表しました[1][2]

この決定は、これらの抗生物質を家畜用飼料に使用すると、これらの抗生物質および関連する医薬品に対する人体の抵抗力が増すため、その飼料が使用された肉を食べる人間に抗生物質に対する耐性が生じ、いざという場合に抗生物質が効かなくなる可能性があるという理由から、19981217日に欧州議会規則として採択されました[1][3]

そして、バージニアマイシンの製造会社であるファイザー・アニマル・ヘルス社と、亜鉛バシトラシンの製造会社であるアルファーマ社が、この決定に対して訴訟を起こしていましたが、今回の判決によって、これらの製造会社による訴えは退けられました。

これらの判決は、20002月に欧州委員会(EC)が発表した予防原則の指針[4]に基づいており、EU関係筋は、国際的に予防原則の普及を促進しようと取り組むEUの権限をさらに強化することにもなるであろうと述べています[2]

今回の判決の中で、環境または健康リスク削減への取り組みにおいて予防原則/予防的措置を適用するための指針が裁判所によって示されましたが[2]、これは予防原則の歴史において非常に重要な判例であり、EUが示す予防原則が司法による支持を受けたことは、国際的にも大きな影響を及ぼすと考えられます。

昨今、シックハウス症候群や化学物質過敏症など、医学的に説明が困難とされる環境汚染化学物質が関連するさまざまな健康リスクが明らかとなっており、公衆衛生上の観点からこのような健康リスクへの取り組みを行うにあたり、予防原則/予防的措置の考え方[5]は非常に重要です。今後もこのような考え方に基づいたリスク削減政策は、EUを中心に広がっていくことでしょう。

Author: Kenichi Azuma

<参考資料>

[1] European Court of Justice, Press and Information Division: "Pfizer Animal Health SA v Council and Alpharma Inc. v Council", Judgments of the Court of First Instance in Cases T-13/99 and T-70/99, PRESS RELEASE No 71/02,11 September 2002
http://www.curia.eu.int/en/cp/aff/cp0271en.htm

[2] 欧州環境ニュース: "EU's precautionary principle wins court backing", Environment Daily (ENDS) 1285, 12 September, 2002

*「化学物質と予防原則の会」のサイトで訳文を掲載
http://www.ne.jp/asahi/chemicals/precautionary/kaigainews/ecj.htm

[3] 農林水産省 総合食料局 国際部 国際調整課 貿易・情報室: 新抗生物質の飼料への使用を禁止, 海外農業情報, Sub: EU, 22 October, 1999
http://www.maff.go.jp/soshiki/keizai/kokusai/kikaku/main.htm

[4] Commission of the European Communities: COMMUNICATION FROM THE COMMISSION on the precautionary principle, COM (2000) 1 final, Brussels, 2 February
http://europa.eu.int/eur-lex/en/com/cnc/2000/com2000_0001en01.pdf

[5]「化学物質と予防原則の会」のサイトをご参考下さい
http://www.ne.jp/asahi/chemicals/precautionary/index.html


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