微生物揮発性有機化合物(MVOC)
2000年12月4日
CSN #164
室内空気質(IAQ)などで取り上げられている揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)といえば、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンなどがよく知られています。そして最近では、MVOC (Microbial Volatile Organic Compounds)、つまり微生物揮発性有機化合物という化学物質が研究されています。これは、細菌やカビなどの微生物によって放出される揮発性有機化合物です。例えば、表1に示すMVOCがあります[1]。
表1 MVOCの例([1]をもとに作成)
化学物質名称(英語) |
化学物質名称(日本語) |
CAS No. |
3-methylfuran |
3-メチルフラン |
930-27-8 |
3-methylbutan-1-ol |
3-メチルブタン-1-オール |
123-51-3 |
3-methylbutan-2-ol |
3-メチルブタン-2-オール |
598-75-4 |
Pentan-2-ol |
ペンタン-2-オール |
6032-29-7 |
Hexan-2-one |
ヘキサン-2-オン |
591-78-6 |
Heptan-2-one |
ヘプタン-2-オン |
110-43-0 |
Octan-3-one |
オクタン-3-オン |
106-68-3 |
Octan-3-ol |
オクタン-3-オール |
589-98-0 |
Oct-1-en-3-ol |
オクト-1-エン-3-オール |
3391-86-4 |
Oct-2-en-1-ol |
オクト-2-エン-1-オール |
18409-17-1 |
Geosmin |
ジェオスミン |
23333-91-7 |
Dimethyl disulfide |
二硫化ジメチル |
624-92-0 |
Butan-1-ol |
ブタン-1-オール |
71-36-3 |
2-Methylpropan-1-ol |
2-メチルプロパン-1-オール |
78-83-1 |
Ethyl isobutyrate |
エチル イソブチレート |
97-62-1 |
Thujopsene |
ツジョプセン |
470-40-6 |
Karveol |
カルベオール |
− |
Terpineol |
テルピネオール |
8006-39-1 |
Endoborneol |
エンドボルネオール |
464-43-7 |
Fenchone |
フェンコン |
1195-79-5 |
Nonan-2-one |
ノナン-2-オン |
821-55-6 |
2-Pentylfuran |
2-ペンチルフラン |
3777-69-3 |
4-Methylheptan-3-one |
4-メチルヘプタン-3-オン |
6137-11-7 |
MVOCに関する研究報告はまだ少なく、どのような微生物からどのようなMVOCが発生しているかということや、その分析技術に関する研究が中心です。しかしホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンなど、建材や家庭用品などから放出される化学物質問題の次のステップとして、細菌やカビなどの微生物が関連する室内空気質(IAQ)が重要になると考えられています。その1つとして、MVOCに関する研究が進められているのです。
MVOCと室内空気質(IAQ)に関連した報告として、スウェーデンでシックビルディング症候群(SBS)が発生している建物の室内と屋外のMVOCを測定した研究報告があります[1]。その研究報告によると、表1に示すMVOCを1996年1月-2月までの2ヶ月間連続測定した結果、表2及び図1の結果が得られています。
表2 MVOCの室内外濃度[1]
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表2,図1から明らかなように、シックビルディング症候群(SBS)が発生している建物において、室内の方が屋外よりもMVOC濃度がかなり高くなっていることがわかります。
MVOCの研究は、まだ分析技術に課題が多く、研究が始まったばかりです。しかし今後は、建材や家庭用品などから放散する化学物質による室内空気質(IAQ)問題以外にも、微生物が起因するMVOCが重要となる可能性があります。特に湿気が多い建物は要注意で、湿気が多い建物内は「カビ臭い」と感じられることがありますが、MVOCによる臭いが起因している可能性が考えられます。今後の研究動向に、注目したいと思います。
Author:東 賢一
<参考文献>
[1] Bengt Wessen et al., Analyst, Vol. 121, No. 9, pp1203-1205, 1996