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産経新聞の北京常駐特派員復活

 産経新聞の北京常駐特派員が31年ぶりに復活することが報じられました(産経新聞7月22日朝刊)。記事の中の産経新聞社住田常務の話を読むと重大な懸念が生じます。「『一つの中国』の原則と日中共同声明・日中平和友好条約の精神に沿って建設的な日中関係を築いてゆくという枠組みの中で、常駐記者問題解決の基本合意に達した。北京には中国総局を設置し複数の記者を派遣する。台北支局は存続する」と説明していますが、日本の新聞社は海外に記者を常駐させる度に相手国政府に対して、このような誓約をしているのでしょうか。中国に記者を常駐させている各国の新聞社は同じような合意の下に記者を常駐させているのでしょうか。このような条件を受け入れることは、普遍的な原理である言論、報道の自由の放棄になるのではないでしょうか。

 「一つの中国の原則」に合致しているかどうか、「日中共同声明・日中平和友好条約の精神」に沿っているかどうかは誰が判断するのでしょうか。
合意に反したときはどうなるのでしょうか。日本の有力な新聞社の記者を正当な理由もなく追放し、支局の設置を31年間拒んで日本国民の報道の自由を妨げてきた行為こそ、日本国民に対する非友好的な行為の最たるものではないのでしょうか。日本にとって日中友好以上に重要な他の原則があって、その原則と、日中友好の原則が相容れないときは産経新聞社はどうするのでしょうか。

 中国の新聞記者は何の条件もなく日本に常駐することが許され、日本の新聞記者のみがこのような制約を課されるのは、相互不干渉、互恵、平等の原則を定めた、日中共同声明、日中平和友好条約に反することは明白です。

 これは結局、産経新聞社が中国の前に膝を屈したことになるのではないでしょうか。現在産経新聞以外の新聞社が、日中友好の原則を守ることを新聞業界として、誓約して支局を開設しているのと同じ事ではないのでしょうか。その誓約が呪縛となって日本の新聞の中国報道がゆがめられ、日本の国益を損なっている事は明白です。

 私は決して産経新聞社を責めるものではありません。31年もの間、中国の圧力に屈する事を潔しとせず、同業者の裏切り行為の中でよく頑張ってきたと思います。日本の新聞の中で唯一中国の干渉を受けない新聞として、日本の誇りだとも思ってきました。それだけに今回の合意は残念に思います。なぜ日本の新聞社だけがこのような屈辱的な条件をのまざるを得ないのでしょうか。本来このような交渉は国家間の問題として、外務省が行うべき問題です。

 基本合意の内容はすべて読者の前に明らかにする必要があります。この問題は一新聞社の問題ではなく、日本国民が中国の不当な干渉を受けるか、拒絶できるかの問題なのです。公表を拒む理由はないはずです。台湾のメディアは「中国総局」、「台北支局」の名称に敏感に反応していますが、31年間閉鎖されていた支局が支局としてではなく、総局として復活するというのは唐突で疑問を感じます。もし「中国総局、台北支局」が中国により強いられたものであるならば、その事実は読者に公表されるべきものであると思います。
 柴田穂記者がもし生きていて、今回の合意を聞いたら何と言うでしょうか。決して喜びはしないと思います。

平成10年7月25日        ご意見・ご感想は こちらへ      トップへ戻る    A目次へ