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朝日新聞の“慰安婦誤報”は、読者対してだけ「取り消し・訂正」すれば済むことか

 8月5日以降、朝日新聞は“慰安婦問題”に関して、以下のように報じていました。
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「済州島で連行」証言 裏付け得られず虚偽と判断
2014年8月5日05時00分
http://www.asahi.com/articles/ASG7L71S2G7LUTIL05N.html

 〈疑問〉日本の植民地だった朝鮮で戦争中、慰安婦にするため女性を暴力を使って無理やり連れ出したと著書や集会で証言した男性がいました。朝日新聞は80年代から90年代初めに記事で男性を取り上げましたが、証言は虚偽という指摘があります。

特集:慰安婦問題を考える

 男性は吉田清治氏。著書などでは日雇い労働者らを統制する組織である山口県労務報国会下関支部で動員部長をしていたと語っていた。

(中略)

読者のみなさまへ

 吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした。済州島を再取材しましたが、証言を裏付ける話は得られませんでした。研究者への取材でも証言の核心部分についての矛盾がいくつも明らかになりました。

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 注@ 吉見義明・川田文子編「『従軍慰安婦』をめぐる30のウソと真実」(大月書店、1997年)
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「挺身隊」との混同 当時は研究が乏しく同一視
2014年8月5日05時00分
http://www.asahi.com/articles/ASG7M01HKG7LUTIL067.html

 〈疑問〉朝鮮半島出身の慰安婦について朝日新聞が1990年代初めに書いた記事の一部に、「女子挺身(ていしん)隊」の名で戦場に動員された、という表現がありました。今では慰安婦と女子挺身隊が別だということは明らかですが、なぜ間違ったのですか。

特集:慰安婦問題を考える

(中略)

読者のみなさまへ

 女子挺身隊は、戦時下で女性を軍需工場などに動員した「女子勤労挺身隊」を指し、慰安婦とはまったく別です。当時は、慰安婦問題に関する研究が進んでおらず、記者が参考にした資料などにも慰安婦と挺身隊の混同がみられたことから、誤用しました。

     ◇

 注@ 高崎宗司「『半島女子勤労挺身隊』について」デジタル記念館「慰安婦問題とアジア女性基金」

 注A 藤永壮「戦時期朝鮮における『慰安婦』動員の『流言』『造言』をめぐって」松田利彦ほか編「地域社会から見る帝国日本と植民地 朝鮮・台湾・満洲」(思文閣出版、2013)
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読者の皆様におわびし、説明します 池上彰さんの連載掲載見合わせ
2014年9月6日05時00分
http://www.asahi.com/articles/DA3S11336075.html

 ジャーナリスト・池上彰さんの連載「新聞ななめ読み」の掲載をいったん見合わせた後、4日付で掲載したことについて、読者の皆様から本社に疑問や批判の声が寄せられています。掲載見合わせは、多様な言論を大切にする朝日新聞として間違った判断であり、
読者の本紙に対する信頼を損なう結果になりました。改めておわびし、経緯を説明します。

(中略)

 しかし、9月1日夜、この間の本社と池上さんのやりとりが
外部に伝わったのを機に、「不掲載」「論評を封殺」との批判を受けました。本社は池上さんとの話し合いの途上だったため「連載中止を決めたわけではない」とコメントしましたが、読者から経緯に関する疑問や批判の声が寄せられました。

 私たちは3日、いったん掲載を見合わせた判断は間違いであり、読者の信頼を少しでも取り戻すためには池上さんの原稿を掲載しなければならないと判断し、出張中の池上さんの了解を得ました。その際、池上さんの意向も踏まえ、簡単な経緯を含めた双方のコメントを添え、4日付「慰安婦報道検証/訂正、遅きに失したのでは」の見出しで掲載しました。

 池上さんとはこれからも誠意を持って話し合いを続け、対応と結果については改めてお知らせします。

 池上さんの「新聞ななめ読み」は2007年4月、週1回の連載として始まりました。2010年4月から月1回、「
読者にとって分かりやすいか」を切り口に、鋭い新聞批評を展開してきました。

 本紙への厳しい批判、注文も何度となくありましたが、すべてを掲載してきました。批判や異論を載せてこそ
読者の信頼を得られると考えたからです。今回の過ちを大きな反省として、原点に立ち返り、本紙で多様な言論を大切にしていきます。

 (東京本社報道局長・市川速水)
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 一連の記事を通じて注目すべき点があります。それは、お詫びや謝罪の対象を朝日新聞の「読者」に限定していて、それ以外の「日本国民」を除外していることです。「世間をお騒がせした」ことには何の挨拶もないのです。それと一切
記者会見をしていないことです。そんなことが許されるのでしょうか。

 朝日新聞の誤報(虚報)の被害者は
読者だけでしょうか。マスコミの情報は瞬く間に他のメディアを通じて、あるいはその他の手段で拡散します。その人達は「読者」ではないかもしれませんが、いわば“二次的な被害者”です。今回の“誤報は長年にわたりきわめて広範囲に浸透し国民に甚大な被害をもたらしました。その人達には何の挨拶もなしで良いのでしょうか。

 一般に、企業が製品不良その他で“世間をお騒がせした”時は、謝罪の対象は商品を購入したりした直接の顧客だけに限らず、
企業の社会的責任が追求されるのが普通です。商品によっては別の企業で更に加工されたり、組み立てられたりして新たな別の商品として、別の顧客に販売されていくケースもありますから、その人達も当然被害者です。また、場合によっては業界全体の混乱、信用喪失による被害も無視できません。直接の取引先だけに謝罪すれば良いというものではないことは常識です。

 今回の朝日新聞の謝罪は、各方面からの非難・攻撃を回避するために、
対象は「読者」だけであることをあえて強調しているように見受けられ、はなはだ不誠実と言わざるを得ません。

 さらに一般的には新聞報道されるような、不良品・欠陥商品を製造・販売した場合は、社長以下の責任者が
記者会見を開いて、“顧客に迷惑をかけたこと”と並んで、“世間をお騒がせしたこと”を謝罪するのが通常です。そのような会見の時は朝日新聞の記者も当然出席し、当然のごとく“企業の社会的責任”を厳しく追及する急先鋒をつとめていたはずです。

 しかるに今回の事件では、朝日新聞は一度も記者会見をしていません。朝日新聞は
自分が取材対象者の時と、取材する側の時とでは、行動基準が極端に異なる「ダブル・スタンダード」の典型です。

平成26年9月10日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ