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世論調査、日本とアメリカの違い

 少し前のクリントン大統領の弾劾問題の時も、今回のユーゴスラビアへの軍事介入の問題でも、アメリカのマスコミは頻繁に、かつタイムリーに世論調査を行なっています。そして、その調査結果はアメリカの政治、外交に大きな影響を与え、国民の多数意見を政治に反映させる原動力になっています。クリントン大統領を議会による弾劾から救ったのは、世論調査の結果に他なりません。マスコミの世論調査が、健全な民主主義の政治を支えていると言えます。

 我が国の新聞も世論調査を行っていますか、その内容や調査方法がアメリカと大分違っていて、国民の多数意見を政治に反映させる役には立っていないと思います。

 アメリカの世論調査がどういう内容で行われているか、詳しいことは判りませんが、日本の新聞で報道されている内容を見る限りでは、質問の内容、回答の選択肢がいずれも、極めて単純、明快のようです。4月10日の産経新聞に「コソボ問題 米世論に劇的変化」と言う見出しの記事がありますが、アメリカが地上軍を派遣することの是非について、ニューヨークタイムズとCBSの4月8日の調査結果が賛成46%、反対48%であったことと、同日のCNNの調査で、空爆が効果的でなかった場合の地上軍の派遣について、賛成47%、反対47%で、3月25日時点のの賛成31%、反対65%、3月31日時点の賛成39%、反対57%に比べて賛成が急増していることが報じられています。 質問に対する回答は、イエス、ノーのいずれかのようです。質問の内容、回答の選択肢が単純、明快であるということは、質問そのものが回答をある方向へ誘導したりする恐れがなく、回答結果が様々に解釈される余地もありません。

 これに対して、我が国の新聞の世論調査は、4月9日の読売新聞に掲載された「3月30,21日実施の全国世論調査」や、3月19日の朝日新聞に掲載された「3月14,15日実施の全国世論調査」を見ても判るように大きな違いがあります。
 まず言えることは、一回の調査での質問の数が多く、内容が複雑で、しかも相互に関連する質問があるので、調査票全体を見て、考えてからでないと答えられないということです(調査票というより試験問題という感じです)。そして、一つ一つの質問(質問の文章)そのものが、解説つきで極めて長くなっており、調査票全体が、質問者の意志や意向を反映する構成になっています。

 また、回答の選択肢がイエス、ノーの単純なものでなく、複数ある選択肢から選ぶものが普通です。選択肢そのものが既に質問者の意向が反映された内容になっています。そして、その選択肢の中には、「ある程度」とか、「どちらかと言えば」とか、曖昧な表現が多く含まれています。

朝日新聞の質問と回答の選択肢の例を2つ紹介します。
1.
「ガイドライン関連法案は、周辺事態で出動したアメリカ軍に、日本側がどのように協力するか定めています。たとえば、地方自治体が管理する港や空港をアメリカ軍に使わせることや、病院への負傷者の受け入れなどです。あなたは政府がそういう協力を地方自治体に求めた場合、地方自治体はどうすべきだと思いますか。」という質問に対して回答の選択肢が4つあります。
1.協力すべきだ                (回答率 17%)
2.協力の内容次第だ             (回答率 64%)
3.協力する必要はない            (回答率 10%)
4.その他・答えない              (回答率  9%)

「協力の内容次第」という回答では世論調査の意味がありません。

2.
「自衛隊のアメリカ軍への協力について、政府は直接の戦闘がなさそうな場所に限ると説明しています。協力の例として、政府の法案では自衛隊は日本の海だけでなく、その外側の公海に出て、アメリカ軍に人員や武器・弾薬を含む物資を輸送できるとされています。こうした、公海での輸送協力について、あなたの考えはどれに一番近いですか」
と言う質問に対して、次の4つの回答選択肢があります。
1.何を運んでも良い。               (回答率13%)
2.武器・弾薬以外なら良い。           (回答率49%)
3.輸送協力はすべてやるべきではない。   (回答率29%)
4.その他・答えない。                (回答率 9%)

ここで、もし「防衛に必要なものは認めるべきだ」、と言う選択肢を加えたら、答えはどうなるでしょうか。結果は変わってくると思います。この朝日新聞の質問と回答の選択肢は、「武器・弾薬の輸送は認めない」という結論を導き出すために作られた質問と選択肢であると考えられます。

 4月9日の読売新聞の世論調査の中の、憲法に関する最初の質問では、「今の日本の憲法のどんな点に関心をもっていますか。・・・」、と問うていますが、この質問に対する回答の選択肢は全部で17もあり、しかも選択の数に制限がありません。そして、憲法に関係した6番目の質問、「あなたが(憲法)を改正する方がよいと思う理由は何ですか」という質問では「アメリカに押しつけられた憲法だから」、「国の自衛権、自衛隊の存在を明文化するため」以下全部で6つの選択肢が用意されていますが、この回答の選択肢も、作る人の意図が反映していて、調査結果を左右します。朝日新聞が作ったら、全く別の選択肢を用意して、違う結論を導き出すと思います。質問そのものだけでなく、選択肢の内容にも、意図的な要素が含まれていて、調査の中立性、客観性に疑問があります。

 このように、我が国の新聞社の世論調査は質問と、回答の選択肢が単純、明快、客観的ではないため、調査結果を集計しても、明確な形で国民の多数意見が浮かび上がってきません。その結果、新聞社が集計結果を様々に解釈をする余地が生まれてきます。そして、彼らがこのような世論調査をする目的は、そこにあるのだと思います。世論調査結果を報じる新聞を見ると、調査結果そのものより、解説(解釈)記事の方が、はるかに大きなスペースを占めているのはそのためだと思います。

 新聞社は単純、明快な質問では自分たちの意に沿う結果が出にくいことが分かっているので、質問と回答の選択肢を工夫し、自分たちに都合の良い解釈をする余地を残しておくために、「単純で、明快」でない、苦心して作った質問をしているのだと思います。
 こうして考えてくると、我が国の新聞社の世論調査の目的は、アメリカのマスコミとは異なり、国民の多数意見を政治に反映することではなくて、自分たち(新聞社)の意見を政治に反映することであり、彼らはそのために世論調査を悪用しているに過ぎないと言えると思います。

平成11年4月11日    ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ