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大新聞と権力の癒着

 
6月12日付「フライデー」が報じたところによると、新聞各紙が年中行事のように毎年報道している「高額所得番付」は、国税庁が作って事前に記者クラブに配布したリストを、あたかも自分たちが取材したかのように記事にしたものであり、今年、そのリストを国税庁の指定した解禁日前に外部に漏らした日本経済新聞の記者が解雇されたとのことです。

 新聞は他人に対してはいつも「開かれた〇〇〇」であることを要求し続けていますが、自分たちのしていることは「取材源の秘匿」を口実に秘密にしています。今回のフライデーのスクープで、彼らが取材源を秘密にしている本当の理由が分かりました。日経新聞は記者の処分を公表し、処分理由を明らかにしたのでしょうか。新聞は「公共的使命」を負っているのですから、一般企業以上に開かれた存在でなければなりません。

 大新聞社は国や自治体、大企業に情報公開を迫っている一方で、自分たちは閉鎖的な記者クラブで、そこで得た情報の独占と隠匿を図っていた事が明らかになりました。排他的な記者クラブの存在は、明らかに独占禁止法に違反する、不公正な商取引慣行に該当すると思います。公務員が特定のものだけに情報を提供し、便宜を図っていたことは、国民が全て法の下に平等であり、公務員が国民全体の奉仕者であって一部の者の奉仕者ではないと定めた憲法に違反するものです。このような、限られた少数の者に対する不明朗な情報提供は、大蔵省の銀行業界に対する癒着と軌を一にするもので、権力が情報操作をすることを容易にするものです。

 役所から資料をもらって、各社申し合わせて役所の指示通りに秘密を守ったり、役所の広報課長の見守る中で、各社で取材の分担を決めるなどと言うことは、談合そのものです。新聞記者に建設業界の談合体質を批判する資格はありません。それだけで読者に対する背信行為であり、役所に対して弱みを持つことになります。そればかりか、役所の資料をもらってそのまま報道しているだけなのに、あたかも独自の取材であるかのように報道していたことは、読者にうそをついていたことになります。
日本の新聞記者は経済記事でも企業のニュースリリースをそのまま記事にすることが多く、記者クラブに頼って楽な取材をしているので、本当の取材能力はあまりないのです。

 このような癒着が国税庁に限らず、記者クラブの存在する全官公庁、自治体、議会、裁判所、団体に及んでいる事が情報の自由な流れを妨げています。神戸の少年事件で新聞が読者の求める事実の報道よりも、隠蔽の方に熱心であったことは、このような癒着体質と無関係ではないと思います。この場合は癒着の対象が裁判所、日弁連、法務省であったということです。彼らが日常していることは、真実を報道するというよりも情報を管制下に置いたり、コントロールすることです。

 また、大蔵省、日銀の接待汚職(たかり)に対する追及が不徹底に終わるのも癒着に原因があります。大蔵省記者クラブの記者は大蔵官僚が接待漬けになっている実態を知っていたと思います。それにも関わらず報道しなかったのは、大蔵省の水に浸かりきっていて、これを異常であると思う感覚が全くなかったからであると思います。

 大蔵省は接待汚職をたたかれた後、外部からの提言を求めると称して“有識者”をメンバーに指名して「懇談会」を作りました。今回の一連の不祥事で明らかになった大蔵省、大蔵官僚の問題点を考えれば、これは被疑者、被告人が陪審員を指名して裁判を行うようなものだと思いますが、そのメンバーには朝日新聞を除く、読売、毎日、産経、日経の各社の社長が含まれています。官僚に指名された委員によって構成されている各種の審議会が、結局いつも官僚の意にそう答申をしていることから考えても、彼らは大蔵省の「ガス抜き作業」に協力しているだけだと言えます。

 以前、朝日、毎日、読売の本社ビルの敷地はいずれも国から払い下げを受けたもので、その経緯、価格は不透明なものがあるという記事を読んだことがあります。新聞社と権力の癒着の根は深いと思います。

  平成10年5月30日     ご意見・ご感想は   こちらへ    トップページへ   A目次へ