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韓国人元日本兵の補償裁判
 

 8月4日の読売新聞「解説と提言」で「韓国人元兵士らへの戦後補償判決」「司法も相次ぎ注文 望まれる立法救済」を読みましたが、この主張は次の点で大きな誤りであると思います。

 その第一は、ご存じのとおり韓国人の請求権問題は、1965年に日韓両国によって結ばれた、「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」で、日本が無償3億ドル、有償2億ドルを支払うことにより、同協定第2条で、「両締約国は両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されるものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」とされているのです。

 その上この協定について合意された議事録の中には、「協定第2条に関し同条1に言う完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には、日韓会談において韓国側から提出された『韓国の対日請求権要綱』(いわゆる8項目で、その中に戦争による被徴用の被害に対する補償、韓国人の対日本政府請求恩給関係その他が含まれることが明記されている)の範囲に属する全ての請求が含まれており、従って同対日請求要綱に関してはいかなる主張もなしえないこととなることが確認され」と明記されているのです。裁判では国は当然この「協定」の存在を主張したことだと思います。

 従って補償をしないのは韓国政府の怠慢、あるいは差別であって日本政府の問題ではないのです。もしこの上日本政府が何らかの補償をすればそれは完全な二重取りになります。このような個人の請求が正当化されるのであれば、日本国民が戦後朝鮮で没収された財産に対して、日本国民は個人として当然“請求権”がある事になります。日本国民が韓国の裁判所に提訴したら、韓国政府は補償してくれるのでしょうか。

 韓国人が日韓併合の継続を拒否して独立し、韓国人となった以上、その日以降すべての待遇が日本人と同じである保証は当然ありません。日本人の元軍人と、韓国人の元軍人の経済的格差は両国の経済格差からいってある意味で当然でもあるのです。米軍の一員として戦ったフィリピン人の傷痍軍人は、フィリピン独立後の今もアメリカ政府からアメリカ人兵士と同じ処遇を受けているのでしょうか。英軍の一員として戦って犠牲となったインド兵の遺族は、インド独立後の今なおイギリス政府からイギリス人兵士の遺族と同額の経済的な保護を受けているのでしょうか。日本人と比較して、待遇が見劣りすることが「不利益」で「立法措置が必要」などと言うことにはならないと思います。

 同じ韓国内で朝鮮戦争やベトナム戦争で負傷した傷痍軍人より旧日本軍人の傷痍軍人の方が高い補償を受け取ったら、かえって不公平になるのではないでしょうか。戦争の問題に限りません。旧ソ連は15の独立国家に分かれましたが、チェルノブイリの原発事故の被害者の処遇は今後国籍によって格差が出てくるものと思います。だからといってウクライナ共和国の国民が旧ソ連の継承国であるロシアに補償を求められる問題ではないと思います。

 もう一つは裁判所の問題です。裁判所は原告の請求を棄却しました。裁判所は棄却した理由だけ言えばいいのだと思います。裁判所は争われていること、求められていることに答えを出せばいいのです。救済の必要があるかどうかは裁判所の判断する問題でしょうか。
裁判官は政治家ではありません。法廷は裁判官の演説会場ではありません。「立法府に注文を付ける」のは裁判所の役割ではありません。裁判の当事者でない立法府に立法を促すのは裁判所の役割りの範囲を超えた、立法権に対する干渉になると思います。総理大臣が「三浦和義の無罪判決は誤りである」というようなものだと思います。

 もう一つ付け加えると、台湾と朝鮮を同列に論じるのは誤りです。台湾(中華民国)は朝鮮と同じ日本の植民地でしたが戦後処理に当たっては、戦勝国、中華民国として位置づけられ、賠償請求権を放棄した国です。財産請求権の問題については後日の問題とされ、双方請求のないまま今日に至っています。そしてさらに大きな違いは台湾の人たちは決して日本を非難したり、謝罪と償いを求めたりはしなかったと言うことです。日本政府が支払ったのは補償金ではなくて弔慰金です。金額的にも日本人と同じ水準ではありません。外交関係が途絶えている事は何の関係もありません。

 この種の裁判に当たって国が当事者、被告となっているにもかかわらず「法廷で争われている問題なのでコメントを控える」とか、「韓国に請求権がないことは、韓国人個人に訴訟を提起する権利がないことを意味しない」という曖昧というよりも誤解を招く対応に終始してきたこともこの種の訴訟が続発する原因だと思います。また、“従軍慰安婦”の訴訟のように日本人の“篤志家弁護士”が韓国へ行って原告を募集していると言った実態はないのでしょうか。

 このような重要な点を無視した主張は全くの誤りだと思います。韓国人の際限のない、けじめのない要求にはうんざりします。韓国人の理不尽な要求に屈しないのが「正義」であると思います。

平成10年8月8日     ご意見・ご感想は   こちらへ     トップページへ戻る   D目次へ