KCN-Netpressアーカイブス

もの創りの心と手

人間、太陽、全ての生命への讃歌としての彫刻

彫刻家 栄 利秋 さん


奄美大島の海と太陽が 育てた感性

 学園中五丁目にある自宅とアトリエの周辺は、かつて雑木林だったという面影を玄関前の一角に留める閑静な住宅地です。


ロッジ風の書斎前にて

傾斜地を利用したアトリエには、制作中の大きな作品が横たわり、27年ぶりの個展へ向けての仕事が進められています。お話を伺ったのは、趣味で集めたというシタール、リュート、三線などの楽器が並ぶロッジ風の書斎。 作品でもある大きな樹脂の照明が暖かな雰囲気を醸しています。

「僕は奄美大島諸島の周囲24kmという請島が故郷なんです。泳いだり潜ったり、水平線を見ながら育ちました。 ミヨチョン岳(標高400m)に登ると周囲のすべては海。地球の丸さが実感できるんです。太陽も海から上る。船はまずマストから見えてくる。小さな島だから、かえって大きな地球や宇宙のイメージが湧くのでしょうね」


「EXPO`70」西ロゲート展示後の搬出時のスナップ プラスチックの作品を発表し「朝日ジャーナル」の表紙を飾っていた頃

栄さんの作品のスケールは大きくダイナミックです。奄美大島の太陽や海といった雄大な自然がイメージの源泉なら当然なのかも知れません。子供の頃から絵が好きだったのは、三線を弾き、墨絵を描いていたという趣味人の父からの影響でしょうか。
彫刻の最初の作品は、野球をするために作ったバット。戦後、物の無い時代の遊びは道具作りから始めていたそうです。栄さんの鋭くも大きな感性を育てた小学校には、百周年記念のモニュメントが建っています。


想を練り、思案を深める 書斎で美喜子夫人と「石に内在するエネルギーを引き出したい」と語る栄さん

「当時1学年28名前後だった生徒は現在13名ほどになっていました。
現在連絡の取れる卒業生は数百人なんですが、モニュメント建設の寄付を呼びかけたら予定額をはるかに上回って倍ほど集まったんです。嬉しかったですよ」母校に作品が建つ幸せ、先輩の作品を日々見ることができる幸せ。二つの幸せが奄美大島の風景に包まれています。

 

木から樹脂へそして石へ

 絵が好きだった栄さんは、大阪学芸大学(現教育大学)で美術学科に進みました。卒業後、京都市立美術大学の美術専攻科で彫刻を学びます。
それは「油絵よりも体を動かして作りあげる彫刻の方が性に合っていたから」卒業作品展では優秀賞を受賞、彫刻家としてのデビューでした。
その時の作品は曲線が美しい木彫「カナ」。カナとは奄美大島の言葉で大切な人、恋人、我が子という意味だそうです。
一連の木彫作品の中にやがて樹脂を取り入れるようになり、やがて樹脂だけの作品を作るようになります。樹脂は透明感があって形が自由になる、直接色が入れられるなど、表現手段としての魅力から。

「新しい未知の素材でしたが万能のイメージでしたね。空間に対してどんな形にもなるし、塗装ではなく、樹脂の中に色が入れられるから透明感のある作品もできる」レンズを使って内部をのぞかせたり、穴を開けて手が入れられるようにし、触覚でも鑑賞できるようにしたりして見る側も作品に参加できるという作品を発表、注目を集めました。透明な樹脂でできた乳房形のオブジェは、石原慎太郎東京都知事もその頃買ったとか。
野外の作品も樹脂で作りましたが、やがて風化の問題が起こりました。「風化によって、作品の意図が伝わらなくなってしまうんです。作った時が最高。その点、石は、作った時どんなに斬新でも時間の経過によって自然になっていく。馴染むんですね。
存在そのものの強さもある。飛鳥で亀形石が発掘されましたが、千年経っても当時の思いが伝わってくるでしょう。だから野外の作品は石でつくるようになりました」栄さんはいつも挑戦していきます。樹脂にも石にも。まず、作りたいイメージがあって、作りますから、折々専門家からはできないと断言されることもあるそうです。
「いつも素材に対しては素人なんです。作りたいという想いだけがある。そのために道具を作り、どうしたらできるかを考えます。想うから、深く想うからできていくのではないでしょうか」

「コロコロ」木一九六五年作。 W(幅)60/D(奥行)55/H(高さ)70cm 「ニライ・カナイ(時空を超えた無限なるかなたへ…)」  一九八五年作。黒御影石 山口大学構内 W 3.5/D1.0/H3.5m 「華」奈良市中央公民館前 一九九一年作 ブロンズ W1.8/D1.8/H3.8m
宇宙(天と地と太陽)と名づけられたJR平城駅前の日時計。 1992年作 花崗岩 W30/D20//H5m

個 展 5月26日(金)〜6月7日(水)11時〜19時 ABCギャラリー(上本町近鉄ビル)
栄さんの初期からの作品30点余りが展示 6月1日(木)は定休日

栄 利秋 プロフィール
1937鹿児島県(奄美大島)生まれ
1963大阪学芸大学学芸学部美術学科卒業
1965京都市立美術大学美術専攻科(彫刻)修了

個展(抜粋)
1965モダン・アート・センターオブ・ジャパン(東京)

グループ展・他(抜粋)
1966現代美術の動向(京都国立近代美術館)
1969第3回現代日本彫刻展(宇部市屋外彫刻美術館)
1976アートナウ76(兵庫県立近代美術館)
1992第13回神戸須磨離宮公園現代彫刻展

パブリック・コレクション(抜粋)
山口大学(山口市)
奈良市中央公民館前(奈良市)
六甲アイランド(兵庫県神戸市)
JR平城山駅前(奈良市)
兵庫県赤穂市


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