
10月は実りの月。9月の残暑もさすがに影をひそめ、日1日と秋を深めていきます。街路樹も赤や黄、茶に彩られ、春とは違う彩りで目を楽しませてくれるものです。南京はぜの緑から赤への見事なグラデーション、銀杏の黄金色、花水木の赤い実などしのび寄る冬の足音に耳をそばだてながらの最後の饗宴といったところでしょうか。
さて、我々の饗宴は、秋の実りに感謝しながら、しっかりと味わいましょう。日本のように明確な四季を持つ地域というのは世界的にみても随分少ないようです。特に季節の変わり目の微妙な変化といのは、日本ならではの宝物。夏の中にふと秋の風が流れ、油蝉から法師蝉へ、そして蜩。蜩の中に虫の音が混ざり、いつの間にかすだく虫の音。透き通るオーガンジーを重ねていくように深まる秋への移り変わり。繊細な心根と文化を育んできたのは、そんな季節に負うところが大きいのだろうと思います。良くも悪くも。

食卓にも秋をふんだんに並べてみましょうか。つるべ落としの秋の日は暮れると思いがけなく肌寒いことがあります。そんな時には食卓に火を持ち出してはいかがでしょう。炭火の赤い火は心まで温めてくれるもの。季節の茸や野菜を焼いていただくとほっこりおいしいものです。牛肉は朴葉焼。炭のはぜる音と匂い、焼ける間を待つのもご馳走のうち。
吹き寄せのような豆皿、栗や柿の箸置などの食器は、秋を演出する名脇役。室内には野原で刈ってきたススキに秋の草花を添えて思い切り大きくいけてみました。まるで秋の野原を切り取ってきたみたいに。普段は玄関先で傘立てとして使っている壷が大活躍。ホームセンターで手に入れたザルに石榴とサンキライの葉、菊を生けて床の間に。ザルに柿渋を塗ると風情が出ます。公園や庭の落ち葉を拾ってきて、工夫してみましょう。
奈良の味覚といえば柿が思い浮かびます。西吉野の柿山は日本有数の生産高。一面の柿山はそれは見事です。柿膾、柿を器にして和え物を盛るなど食材としても楽しいものです。牛肉は大和牛。神戸や伊賀牛の影に隠れていますが、なかなかの美味しさなのです。味噌味で焼くと香ばしく、ついつい箸が進んでしまします。そして、新米。コシヒカリや秋田こまちなど東北の米どころについ目がいきますが、奈良のヒノヒカリだって本当においしいお米です。青垣と称されるように奈良県は四方を山に囲まれ、太古から稲作が行われてきた米どころ。奈良盆地を中心に作られているお米はヒノヒカリ。

コシヒカリを父に黄金晴を母にして生まれたヒノヒカリは適度な歯ごたえと粘り、豊かで深い甘味が特徴です。普段でもおいしいお米がこの季節には新米としていただけるのですから、ぜひ一度地元奈良のお米を試してみてはいかがでしょう。
今、スローフードが注目されていますが、これは、地元で頑張っている生産者を応援すること、子どもたちの食生活を教育すること、できるだけ地元の食材をいただくことなど食の原点を見直そうという活動です。世界中の食材が手に入る時代ですが、流通にかけるコストやエネルギー消費、環境のことを考えるとやはり地元の食材で間に合うものは、できるだけ地元のものを使いたいものです。しかもおいしいのですから、使わない手はありませんね。
おいしい新米をよりおいしく!というので土鍋の登場です。今回使ったのは3合炊きですが、思っていたより楽々炊くことができて、びっくり。噴きこぼれてレンジ回りがべとべとなんて心配は無用でした。説明書通りに水の分量と時間を守ればとびきりの新米ご飯の炊きあがり。おこげもほどよくできました。まあ、これだけご飯がおいしければ、あとはお漬物があるだけで十分というのが感想です。水にもちょとこだわって、奈良の名水を使いましたから、これも影響したかもしれません。とすると奈良って案外おいしい所なのですね。見直しました。
秋の実りをふんだんに取り合わせてあなたならではの秋の食卓を演出してみましょう。