ピネンとリモネンの安全性について


I035

ご質問

木材に含まれている「木の香り」のもとのα-ピネンとリモネンが国の室内空気汚染ガイドライン等の中で、他の化学物質と同様に規制の対象にされる可能性が強いのですが、何故でしょうか。

 

回答

まず、毒性というものについて、考えなければなりません。毒性に、自然由来の化学物質(以下、天然化学物質)と人工由来の合成化学物質(以下、合成化学物質)の区分けはありません。天然化学物質でも、高い毒性のものはたくさんあります。だから、天然化学物質だからといって、必ずしも安全とは言えません。ピネンやリモネンは、木に含まれる化学物質ですが、大気中には、太陽光によって大気中の成分から合成されたホルムアルデヒドがわずかに含まれています。

次に、考えなければならないのは、毒性発現に対する用量/反応の関係です。いかなる化学物質であっても、何らかの毒性を持っています。お酒にはエチルアルコールが含まれていますが、急激にお酒を大量に飲むと、急性アルコール中毒を起こします。お酒のアルコールは、肝臓の酵素の働きによって、アセトアルデヒドに変化します。そしてさらに酵素の働きによって、酢酸へと変化し、水と二酸化炭素に分解されます。

この時のアセトアルデヒドが、顔面紅潮、頭痛、動機などの健康影響を引き起こす原因となります。そしてその関係は、飲む量と比例関係にあります。飲む量が多ければ、死に至ることもありますが、飲む量が少なければ、健康への影響リスクが少なくなります。この関係を、用量/反応の関係といいます。

この用量/反応の関係の中に、ある発がん性物質を除いて、閾値が存在します。一定量までは毒性を示さないという考え方のことを「閾値(いきち、あるいは、しきいち)がある」といい、閾値のある化学物質の場合、ある一定量(閾値)を超えて用量が低くなると毒性を示さなくなります。

ピネンやリモネンは、粘膜刺激性を有する化学物質です。ですから、粘膜への刺激性という毒性影響から、用量/反応の関係に基づいて、閾値が存在するはずです。これは、一般的には動物実験や労働現場の疫学調査結果に基づいて確認または推定されます。そしてこの閾値に基づいて、ガイドラインや指針値が策定されるのです。この方法は、これまで室内濃度指針値が策定された全ての化学物質において共通の方法です。

ピネンやリモネンは、化学物質分類では、テルペン類に分類されます。以前、世界保健機関(WHO)の専門家委員会のメンバーだったザイフェルト博士が、総揮発性有機化合物(TVOC)のガイドラインを作成していますが、テルペン類には0.03mg/立方メートルのガイドラインが提示されています。

今後、厚生労働省が策定するピネンやリモネンの室内濃度指針値は、動物実験や労働現場の疫学調査結果から閾値を確認または推定し、作成されます。厚生労働省は、平成10年度に行った室内空気中の揮発性有機化合物実態調査結果や、世界保健機関(WHO)がすでに作成しているガイドラインをもとに、影響の高いと思われる化学物質から順次室内濃度指針値を策定しています。

最終的には、約50種類の化学物質に対して、室内濃度指針値が策定される予定なっています。その中に、実態調査で高い濃度が検出された、ピネンやリモネンが含まれるのは妥当な考えです。実態調査結果では、高い濃度の順で、パラジクロロベンゼン(第1位)、トルエン、ピネン、リモネン、m,p-キシレン(第5位)の順です。

昔の住宅は、隙間が多く気密性が低いため、ピネンやリモネンが木材から放散されても、問題は少なかったと思われますが、昨今の住宅は、戦前の住宅に対して気密性が約10倍にもなっています。そのため、高い濃度のピネンやリモネンが検出されるようになったと考えられています。だからといって、ピネンやリモネンによって健康影響が生じているという確証が得られているわけではございません。高い室内濃度が検出されているので、動物実験や労働現場での疫学調査結果による毒性評価を行い、室内濃度指針値を策定し、問題がないレベルを明確にしようというものです。 

万が一、策定されたピネンやリモネンの室内濃度指針値よりも高い室内濃度を有する住宅があれば、その住宅は、居住者に対して健康影響を生じるリスクが大きいと言えるのです。この考え方に、天然化学物質と合成化学物質の区別はありません。


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