ダイオキシンの社会問題


E003

ご質問 

ダイオキシンが、なぜこんなにも社会問題として注目されるようになったのですか。また、経済的、行政的、社会的にダイオキシンを減らすことは今後可能ですか。もし可能ならば、ゼロもしくはゼロ近くまで減らすことはできますか。

 

回答 

ダイオキシンの毒性は非常に強く、土壌や大気などの環境中や、人間や動物などの生体内において安定で、分解しにくい化学物質です。そのため、残留性有機化合物や難分解生体蓄積性化学物質にも分類されています。毒性の強さをおおまかに表すと、グリコ森永事件で飲料水中に混入された青酸カリの1,000倍以上、松本サリン事件で使われたサリンの2倍以上の毒性があるとされています。また、残留性の観点からは、人間では体脂肪組織中の半減期が2年から6年とされています。つまり、2年から6年たたないと、体脂肪組織中のダイオキシン濃度が半分にならないということです。 

このような毒性と残留性から、ダイオキシンを人工的に合成して化学産業などで利用することはありません。工業的に有用性がないため、これまでの産業の歴史の中で、ダイオキシンを工業的に利用するため合成されはことはありませんでした。ダイオキシンは、有機塩素系農薬製造過程、有機塩素系漂白剤を用いる紙パルプ製造過程、様々な廃棄物の焼却過程における副生成物として検出され、その存在が明らかとなりました。つまり、ダイオキシンは、意図的に作ろうとして生成されるのではなく、様々な製造過程で副生成物として生成されるので、非意図的生成物と呼ばれます。 

また、ダイオキシンの環境中での残留状況を分析すると、有機塩素系化学物質の製造が増加した1950年代頃から急激に残留濃度が増えています。 

ダイオキシンは、その毒性などから1日耐用摂取量(TDI)(一生涯摂取し続けても体に有害な影響が現れない量)が定められています。このTDIの値が、日本では4pgTEQ/kg/day(1日当たり、体重1kg当たり、4TEQピコグラム:1兆分の1グラム)となっており、世界保健機関(WHO)では、1から4pgTEQ/kg/dayとなっています。 

厚生省が試算した日本人の平均摂取量が、2.6pgTEQ/kg/dayですので、国内のTDIでは外れていますが、WHOTDIでは、灰色であると言えます。そのため、ダイオキシンが社会的に問題視されるのです。WHOTDIを検討した研究班は、先進工業国では何らかの健康影響が出ている可能性を否定できないと述べています。つまり、現在の先進工業国では、ダイオキシンの排出量を削減しなければならないと考えるべきなのです。 

次に、ダイオキシンの排出量を減らす可能性ですが、減らすことは充分にできると思います。ただ、ゼロにはできないと考えられます、なぜならダイオキシンの基本的な生成機構は、炭素、塩素、空気(酸素)、触媒が数秒間以上高温で共存することだからです。 

現在、ダイオキシン排出量の大部分は、都市ごみ焼却炉からの排出ガスや残灰だと試算されています。つまり、私たちが日常排出する家庭ごみの焼却によるものです。家庭ごみには、食事の残りに含まれる塩分、水道水中の殺菌用塩素、塩ビなど塩素を含んだのプラスチックが含まれています。ですから、それらを焼却するとダイオキシンが生成される可能性があります。実際に国立環境研究所の実験によると、食塩と新聞紙を一緒に燃やすと新聞単独で燃やすよりも大量にダイオキシンが発生しています。 

ダイオキシンの生成温度は、300度付近がピークです。高性能な焼却炉では、ダイオキシンが生成しにくい温度コントロール装置や生成したダイオキシンが含まれる灰を除去するフィルターが使用されていますが、そのような焼却炉はまだ少ないのです。 

しかし、世界中で最大である日本のダイオキシン排出量と、現在の日本人の平均摂取量を考えると、日本は特に削減しなければなりません。日本政府は、1997年度比で、2002年までにダイオキシン排出量を9割削減する目標を設定し、大気、土壌、水質、焼却炉の排出ガス基準などを設定する作業を行っています。今後はこの基準をベースに、廃棄物の削減、、焼却炉の性能向上などにより、ダイオキシンの削減を行うことは可能だと思います。 

しかし、ダイオキシンの発生をゼロにすることは難しいと思います。私たち人間は、調理や暖房のために、わずかですが太古の昔から火を使って生きてきました。ですから、畑の野焼きなども関連し、古代の人々などから僅かですがダイオキシンが検出されています。現在のように、大量生産/大量消費を行い、排出される廃棄物をどんどん焼却するようになって、ダイオキシンの発生量が大きくなり、問題視されるのです。 

今後は先進諸国を中心に対策を行い、私たちの健康影響を心配しなくても良いレベルまでダイオキシン排出量を削減するようにしなければなりませんし、経済的、社会的、行政的にも可能だと思います。すでにヨーロッパでは、かなり削減できています。ただ、行政や産業界に任せるのではなく、私たち一般市民も、家庭ごみの削減などにより協力を行うことが大切だと思います。 


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