尿道下裂と環境ホルモン


 

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ご質問

環境ホルモンを摂取すると尿道下裂になりやすいと書いてありましたが、母親が取るとなるのか、父親の摂取も関係あるのか教えて下さい。

 

ご回答

 

私がホームページに記載しました尿道下裂の件は、アメリカで1940年代後半から1970年代にかけて、流産防止のために妊婦に投与された合成女性ホルモン剤DES(ジエチルスチルベストロール)によって確認された事例です。この化学物質は、アメリカで1971年に流産防止としての使用が禁止され、1979年には家畜用飼料の添加物としての使用も禁止されました。日本でも同時期に使用されており、厚生省が197112月に流産防止用などで妊娠中に使用しないよう通知しました。また国内メーカーは、最大で1973年まで製造販売を続けていました。しかし現在では使用されていない化学物質です。

 

DESによる影響は、妊娠中の母親がDESを摂取すると、産まれた子供が成長したときに、生殖器に異常が発生するというものでした。以下に観察例を示します。

分類

症例

確立されている事実

膣の明細胞がん(DES娘)

膣上皮の変化(DES娘)

生殖器の奇形(DES娘)

早産(DES娘)

乳がん(DES母)

たぶん多いであろう

子宮外妊娠(DES娘)

不妊(DES娘)

生殖器の異常(DES息子)、*停留精巣、尿道下裂が含まれます

統計的に可能性がある

頸部過形成上皮内がん(DES娘)

自己免疫疾患(DES娘)

不妊(DES息子)

精巣がん(DES息子)

理論的に考え得る

乳がん(DES娘)

心理的な性の異常(DES娘、DES息子)

前立腺肥大、前立腺がん(DES息子)

出典:武田玲子ほか「環境ホルモンとは何か2」藤原書店、1998

 

DESによる影響は、母親が妊娠中に摂取したことが原因です。流産防止用の薬ですから、父親は摂取していないと思われます。また、子宮内で胎児が発育する段階で、胎児がDESに曝露することが問題ですので、父親の摂取は関係ないと考えられます。悪性腫瘍の発生に関しては、DESの影響はマウスによる動物実験で、孫の代まで影響することが報告されています。

 

もし母親が妊娠中に合成女性ホルモン剤を服用していた記憶をもっているのであれば、一般の人よりも、これらの影響が現れる危険性が増大します。

 

私たちが日常摂取する可能性がある環境ホルモンは、他にもたくさんあります。しかしヒトへの影響に関して明確になっているものは、DESの他にはカネミ油症事件のダイオキシン類による脳神経系や皮膚の色素沈着などの影響、水俣病のメチル水銀による知覚障害や言語障害や手足のまひ等の中枢神経系への影響などです。

 

尿道下裂などヒトの子供の男性生殖器に対する影響は、まだ明らかにされていません。しかしながら、1998年日本の厚生省の報告や、1995年アメリカ環境庁による北欧諸国のデータによると、尿道下裂の発生率が、ここ20年から30年少しずつ増加しています。ただ環境ホルモンだけでなく、ストレスなども関連してくるので、因果関係は現在のところわかっておらず、今後さらに研究が必要とされています。


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