環境ホルモン文献紹介

環境ホルモンに関連した文献を紹介します。またこの訳文は、私が個人会員となっている環境ホルモン学会のニュースレターから抜粋したものです。

この文献では、環境ホルモン物質の1つであるDESが、次世代にわたって悪性腫瘍の発症率をあげる影響を及ぼす可能性を示唆しています。DESは以前日本でも使用されており、数十年経過した現在でも、その影響が子孫にまで影響している可能性があると想定されます。

環境ホルモン物質が、人間に対して世代を越えた影響を及ぼす可能性があることは以前から示唆されていますが、その研究成果が明確になるには時間がかかります。私達は例え動物実験で得られた結果であっても真剣に受け止める必要があると思います。 


Increased tumors but uncompromised fertility in the female descendants of mice exposed developmentally to diethylstilbestrol.

周産期にDESに曝露されたマウスのF3世代での腫瘍の増加

 Newbold, R.R. et al. Carcinogenesis 19, 1655-1663, 1998.


 ジエチルスチルベストロール(DES)は、かつて流産防止用に用いられた合成エストロジェンで、これを服用した妊婦の子供に膣癌をはじめとする生殖障害が見いだされた。このことは、ヒトにおいても胎児期のホルモンや内分泌攪乱物質への曝露によって、生殖障害が起こりうることの根拠とされている。

 DESは、in vitroの系(試験管での実験)でシリアンハムスターの胎仔細胞に形質転換を引き起こし、その割合がDNA付加体の形成によるDNA障害と関連していたこと、さらにDESの遺伝的、後天的影響などから、胎生期のDES曝露による変化は次世代に伝えられるこ可能性が示唆されている。

 そこでDESによる異常が後世代に伝わるのか、またそのメカニズムを探る目的で、周産期の3つの異なる時期にDESに曝露された子の子孫の繁殖力、腫瘍の発症率を検討した。

 CD−1マウスに発生の異なるステージにDESを投与した。

グループT

器官形成期である妊娠9−16日に2.5、 5、 10μg/kg母親体重を投与

グループU

出生直前の妊娠18日に1000μg/kg母親体重を1回投与

グループV

生後1−5日に1匹当たり1日0.002μgを投与

それぞれのグループのメス(F1:第1世代)は、性成熟後コントロールの雄と交配した。

これまで報告されていた通り、DES曝露されたF1メスの繁殖力は全てのグループで低下していた。これらの交配から得られたF2(次世代)メスは成熟後、コントロール雄と20週間同居させた。これらのマウスの繁殖力にはDESの影響は見られなかった。

F2メスとコントロール雄との交配から得られたF3マウスは17−19ヶ月、22−24ヶ月後に死亡させた。子宮のアデノカルシノーマを含む悪性腫瘍の発症率の増加が見られ、その頻度と範囲は加齢とともに増加した。子宮のアデノカルシーマは、全てのグループで見られたので、全ての時期がDESに感受性があると考えられた。

以上の結果は、DES F1メスで見られた繁殖力の低下は次世代には伝わらなかったが、腫瘍形成の感受性の増加は次世代に伝えられていた。

交配にはコントロール雄を用いているので、ここで見られたDESの影響は、母親及び生殖細胞と関連していると考えられる。単純な優性遺伝、遺伝子刷り込み(genomicinpriting)マイクロサテライトの不安定性などが考えられるが、今後の検討が必要であるとしている。


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