EUによる食品中のダイオキシン濃度の基準値
2002年4月15日
CSN #233
ダイオキシン類は、工業的に生産されるベンゼンやメタノールなどの化学物質ではなく、塩素を含む化合物を、炭素を含む化合物と一緒に300度付近の温度で燃焼することによって生成される非意図的生成物質であり、主に廃棄物の焼却によって環境中に放出されています。
日本におけるダイオキシン類の耐容一日摂取量(TDI)は4 pg-TEQ/kg体重/dayで、世界保健機関(WHO)欧州事務局によるTDIは1〜4 pg-TEQ/kg体重/dayと定められています。日本における平成12年度の調査結果によると、環境省等の政府機関及び地方公共団体が行った調査結果から推計した人の総曝露量は2.3pg-TEQ/kg体重/dayとなり、食事からの摂取が約9割を占めていました[1]。つまり、WHOのTDIと比較すると、現在の日本人のダイオキシン類摂取量は、健康影響の可能性が灰色の領域(グレーゾーン)であるといえます。
また、国連食糧農業機関(FAO)とWHOの合同専門委員会である食品添加物合同専門家委員会(JECFA)は、2001年6月の会合で、ダイオキシン類の耐容月間摂取量(TMI)を70 pg-TEQ/kg体重/月と提案しており、さらに欧州連合(EU)のSCF(食品科学委員会)は、2001年5月30日に、ダイオキシン類の耐容週間摂取量(TWI)を14 pg-TEQ /kg体重/週と提案しました[2]。このように、ダイオキシン類の耐容摂取量は、日間変動を考慮し、月間または週間の摂取量に対しても耐容摂取量を定めており、より厳密な対応が提案されています。
前述のように、ダイオキシン類の摂取は食事からが約9割を占めています。そのため、食品中のダイオキシン類を減らすことは、最優先課題です。ダイオキシン類は脂溶性化学物質であり、食品の中でも脂質分の多い食品に蓄積されやすい化学物質です。
そこでSCFは、2001年12月6日、特定の食品中におけるダイオキシン類の最大濃度を発表しました[2]。これは、私たちが直接摂取する食品中のダイオキシン類の最大濃度を定めることによって、ダイオキシン類に高度に汚染された食品や家畜用飼料の市場における流通を防止しようとするもので、これに該当するEC規則 No. 466/2001が次のように改正される予定です。
表1 EC規則 No. 466/2001への追加項目(以下をAnnex Iのsection 5に追加)
商品 |
最大濃度 (PCDD + PCDF) |
5.1.1.食肉、食肉製品
5.1.2.肝臓、肝臓由来の製品 |
3 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat 6 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat |
5.2.魚介類の脂肪のない肉 (muscle meat)、その製品 |
4 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fresh weight |
5.3.ミルク、乳製品 (バター脂肪含む) |
3 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat |
5.4.鶏卵、卵製品 |
3 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat |
5.5.油、脂肪 1) 動物性脂肪 ・ 反芻動物 ・ 鶏肉、飼養肉 ・ 豚肉 ・ 混合動物性油脂 2) 植物油 3) 食用魚油 |
3 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat 2 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat 1 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat 2 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat 0.75 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat 2 pg WHO-PCDD/F-TEQ/g fat |
*注意
ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾダイオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、コプラナーポリ塩化ビフェニール(Co-PCBs)の総称です。表1の最大濃度は、PCDDs + PCDFsです。ただし、TWIやTDIの値は、PCDD s+ PCDFs+Co-PCBsです。ですから表1の最大濃度には、全てのダイオキシン類が含まれていないことに注意する必要があります。
表1に関連したその他の改正内容としては、2006年12月31日までスウェーデンとフィンランドは、バルト海から獲れる魚をスウェーデンとフィンランド領内で消費する場合については、表1の5.2.が適用されない移行期間とする特例措置があります。また、潜在的なリスクを避けるために、消費者に対して、特に影響を受けやすい人たちに対するバルト海の魚の消費制限に関する情報が提供されるシステムが設置されます。また、スウェーデンとフィンランドには、毎年12月31日までにバルト海で獲れる魚のダイオキシン濃度のモニタリング結果をSCFに報告する義務が与えられます。
また、表1の注意書きに関連することですが、SCFは2004年12月31日までに、表1の最大濃度を再評価し、特にCo-PCBsの最大濃度を含めること、そしてさらに、2006年12月31日までに、他の食品の最大濃度を策定するために再評価を行うこととされています。
今回の改正は、2002年7月1日から適用されます。最大濃度を超える食料品は、他の食品の製造に使用しない、または混合しないと定められており、食物連鎖の頂点における重要な規制となります。
Author: Kenichi Azuma
<参考資料>
[1]ダイオキシン類の野生生物における蓄積状況及び人における暴露量調査の結果について−平成12年度調査結果−,環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課, 21 February, 2002
http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=3160
[2]Official Journal of the European Communities:amending
Commission Regulation (EC) No 466/2001 setting maximum levels for certain contaminants
in foodstuffs,COUNCIL REGULATION (EC) No 2375/2001, 6 December, 2001
http://europa.eu.int/eur-lex/