健康的な子どもの環境
―世界保健機関(WHO)―
2002年8月19日
CSN #245
2002年8月26日から9月4日まで、南アフリカのヨハネスブルグで「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」(以下、ヨハネスブルグサミット)が開催されます。世界保健機関(WHO)は、健康的な子どもの環境に関する世界の先導者として、その概要をヨハネスブルグサミットで発表する予定です[1]。
世界的にみて、子どもの健康と環境に関する懸念事項としては、不衛生な飲料水、空気汚染、感染症の問題があり、これらの問題から子どもたちの生活環境を守らねばなりません。WHOは、ヨハネスブルグサミットに先駆け2002年8月9日に、これらの問題に関連した「健康的な子どもの環境:Healthy Environments for Children」というタイトルのパンフレットを発表しました。
このパンフレットによると、世界中で2000年に470万人以上の5歳以下の子どもたちが、不健康な環境によって悪化した病気で亡くなっていると試算しています。また、世界中の病気の25-33%が環境汚染に起因しており、特に5歳以下の子どもたちの場合では、それが40%以上にもおよんでいると試算しています。以下に、その概要を示します[1]。
1) 危険な食物や水、不衛生な習慣による下痢性疾患で亡くなった子どもたちは130万人
2) 室内空気汚染で悪化した急性呼吸器感染症(ARI)によって亡くなった子どもたちは2百万人
3) マラリア、デング熱、リーシュマニア症、日本脳炎、肝炎、他の環境関連の感染症や動物によって媒介される病気によって亡くなった子どもたちは百万人
4) 交通事故、水害、火災、中毒によって亡くなった子どもたちは40万人
5) 発展途上国で亡くなった子どもたちの5%は有害物質による中毒
このような環境要因による子どもたちの健康リスクについて、WHOのパンフレットでは、BASIC(基本的な)リスク、MODERN(近代的な)リスク、EMERGING(新たな)リスクとに分類しています。その概要を表1に示します。
表1 環境要因による子どもたちの健康リスクの概要([1]をもとに作成)
リスクの分類 |
概要 |
BASICリスク |
危険な水、劣悪な下水設備、室内空気汚染、劣悪な食品衛生、ひどい住宅、不適切な廃棄物処理、衛生害虫による感染症 |
MODERNリスク |
空気、水、土壌、食物に存在する天然あるいは人工合成による有害化学物質(不適切な有害廃棄物処理、家庭用品や玩具) |
EMERGINGリスク |
地球の気候変動、オゾン層の破壊、電磁放射線、残留性有機汚染物質(POPs)による汚染、内分泌攪乱化学物質(EDCs:環境ホルモン) |
子どもたちの体は、大人と比べると小さいですが、体重あたりで考えると、呼吸する空気の量と摂食する飲食物の量は大人と比べて多いこと、子どもたちの体の機能(中枢神経、免疫、消化器系、生殖系)は大人と比べて傷つきやすいこと、乳幼児の場合は手を口に入れる行為によって手に付着した物を口から取り込みやすいことなどのため、子どもは大人よりも環境汚染に対してより一層の注意が必要です。
このような背景からも、環境要因による健康リスクから子どもたちを守るために、子どもたちの生活環境を改善するためのより効果的な手段と戦略が必要とされています。WHOのパンフレットから、子どもの健康に対するリスク因子と改善手段を抜粋してまとめたものを表2に示します。
表2 子どもの健康に対するリスク因子と改善手段([1]をもとに作成)
因子 |
子どもの健康に対するリスク |
健康的な環境にするために |
空気 |
細菌、室内及び大気汚染(有害化学物質、受動喫煙、農薬)、衛生害虫(感染症) |
化石燃料の代替、交通及び産業による排出物の削減、受動喫煙の削減、病気の子どもたちの治療 |
水 |
細菌、有害化学物質と農薬、衛生害虫(感染症) |
水質の改善と維持、衛生害虫の繁殖場所の削減、母乳と十分な栄養をとる習慣の促進、病気の子どもたちの治療 |
食物 |
化学物質汚染、天然毒、細菌 |
食物連鎖に侵入する汚染物の防止、衛生、母乳と十分な栄養をとる習慣の促進、病気の子どもたちの治療 |
土壌 |
有害廃棄物、細菌、寄生虫(感染症) |
有害廃棄物の安全な廃棄の促進、衛生的な習慣の促進、病気の子どもたちの治療 |
不健康な行動 |
不衛生、不十分な清掃、危険な物質を使った遊び、栄養不足 |
衛生害虫からの保護、母乳と十分な栄養をとる習慣の促進、清潔な環境で遊ぶこと |
WHOのパンフレットでは、これらのリスクと手段について、政府、NGO、市民グループがさらなる調査と情報の共有化を行い、共同で健康的な環境を構築できるよう力を合わせて活動する必要があると述べています。国と地域によって、課題となる健康リスクとその優先度は少しずつ異なりますが、表2に示す健康リスクは、子どもたちが生きていくうえで基本となる重要な因子に関するものです。私たちの生活環境が、子どもたちにとってより健康的な環境になるよう、あらためて私たちの生活環境を見直し、できることから少しずつ改善していきましょう。
Author: Kenichi Azuma
<参考資料>
[1] WHO Sustainable Development and Healthy
Environments: “Healthy
Environments for Children –An Alliance to shape the future of life– “, Geneva, 9
August 2002
http://www.who.int/en/