多種化学物質過敏症に対するワシントン州の支援状況
2002年2月11日
CSN #224
最初にある程度の化学物質に曝露されるか、あるいは低濃度の化学物質に長期間反復曝露されて、一旦過敏状態になると、その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を示す病態があり、化学物質過敏症(CS)と呼ばれています。またさらに、多種類の化学物質に反応するようになった場合、多種化学物質過敏症(MCS)と呼ばれています。この病態は、近代工業化社会が産み出した環境病(Environmental Illness)と言われていますが、その原因や発病機構が十分解明されていないことから、現在でも研究が継続されています。
日本では、環境省の研究グループが、この病態が化学物質によって誘発されるか否かに関して、ホルムアルデヒドとトルエンを用い、患者を含めた検査対象者に対する二重盲検法(原因物質と思われるガスの濃度を変えて曝露室内の人に曝露し、症状等の変化が濃度と相関するか否かを調査する疫学的調査手法で、被験者及び試験者にはガスの成分と濃度は知らされない。)や動物実験を行った結果、症例数の少なさから明確な判断ができておりませんが、およそ次の結果が得られており、今後は二重盲検法による検査対象者数を増やし、さらに調査研究を行う予定と報告されています[1]。
1) 非患者群と比べて患者群で自覚症状の変動が大きくなったが、患者群についてみると濃度が高度になるに従って症状が悪化するものから、濃度と関係なく症状の変動がみられるものまで、各人によって自覚症状に様々な傾向を示し、共通したパターンは得られなかった。
2) 動物実験では、2,000又は400ppbで神経系、内分泌系、免疫系に多少の変化がみられたが、極低濃度(80ppb)では明らかな変化はみられなかった。
化学物質過敏症や多種化学物質過敏症(MCS)に対して日本では、NPO法人 化学物質過敏症支援センターが中心となって患者の支援を行っており、2000年に北海道の旭川に一時転地住宅の建設を行いました。また今後は、2002年内に中伊豆に保養施設を建設する計画が進められており、国内では活発な支援活動が続けられています。
化学物質過敏症の診療に対応する国内の医療機関は、東京都内にある北里研究所病院が検査設備などの施設が整った医療機関だったのですが、国立療養所 南福岡病院、国立療養所 南岡山病院でも診療が対応可能となり、国立相模原病院では検査設備などの対応設備の準備が進められています。
一方、化学物質過敏症や多種化学物質過敏症(MCS)の病態が1960年代初めから取り上げられているアメリカでは、1999年に6月に、アメリカ政府とアメリカ医学アカデミーによる「多種化学物質過敏症(MCS)に関する同意事項:1999」が発表されました。MCSの臨床定義及び規約については、1989年に多数の臨床経験と視点を持つ臨床医師及び研究者89名によって、5つの合意基準が提唱されましたが、喘息や偏頭痛などの単一器官の疾患と区別するために、1999年の同意事項では、さらに「症状が多種類の器官にわたること」という6つめの合意基準が追加されました[2]。表1にMCSのための6つの合意基準を示します。
表1 MCSのための合意基準
No. |
合意基準 |
1. |
化学物質への曝露を繰り返した場合、症状が再現性をもって現れること。 |
2. |
健康障害が慢性的であること。 |
3. |
過去に経験した曝露や、一般的には耐えられる曝露よりも低い濃度の曝露に対して反応を示すこと。 |
4. |
原因物質を除去することによって、症状が改善または治癒すること。 |
5. |
関連性のない多種類の化学物質に対して反応が生じること。 |
6. |
症状が多種類の器官にわたること。 |
*上記MCS診断のための合意基準は、Nethercottらの研究(アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、アメリカ国立環境衛生科学研究所(NIEHS)からの補助金の一部からの研究費)から抽出された。
アメリカにおけるMCS患者に対するサポートは、化学傷害情報ネットワーク(CIIN)、ノースカロライナ化学傷害ネットワーク(NCCIN)、環境衛生ネットワーク(EHN)、ワシントン州多種化学物質過敏症ネットワーク(WSMCSN)などの市民グループや、医療機関であるダラス環境衛生センター(EHC)など多数存在します。
その中から、ワシントン州多種化学物質過敏症ネットワーク(WSMCSN) [3]が提供しているWebサイトの情報をもとに、ワシントン州におけるMCS患者の支援状況を以下に紹介します。
1. MCS患者の支援者リストとその連絡先
2. MCS患者に対するワシントン州政府の対応
以上のように、ワシントン州では、医療、建築、法律の専門家による支援先が公開されているだけでなく、ワシントン州政府への申請によって、MCS患者として認められ、ガソリンの揮発ガスや農薬散布から保護することができます。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] 環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課:平成12年度 本態性多種化学物質過敏状態の調査研究報告書, August 24, 2001
http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=2804
[2] Multiple chimical sensitivity: a 1999 consensus, Archives of Environmental Health (AEH), Vol.54(3), pp147-149,1999 May-Jun.
http://www.heldref.org/html/body_aeh.html
[3] Washington State Multiple Chemical Sensitivity Network website (in
February 11, 2002)
http://www.homestead.com/wsmcsn/index.html