ECによる内分泌攪乱化学物質のコミュニティ戦略

―人や野生動物のホルモンシステムを障害する疑いのある物質の範囲―


200217

CSN #219

19991220日、欧州委員会(EC)は「内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)へのコミュニティ戦略におけるコミュニケーション―人や野生動物のホルモンシステムを障害する疑いのある物質の範囲:Communication on a Community Strategy for Endocrine Disrupters - a range of substances suspected of interfering with the hormone systems of humans and wild life」を採択しました[1]。この戦略は、発がん・行動変化・生殖系等への影響を及ぼす可能性のある人工合成化学物質と合成/天然ホルモンに焦点をあて、内分泌攪乱問題(原因と結果)と、その問題に対して素早く効果的に対応するために、予防原則に基づいた政策的措置を見極めることを目的としています。そして、この問題に関するさらなる研究、国際協力、公衆とのコミュニケーション、適正な政策的措置を要望しました。

2001614日にECから発表された、このコミュニティ戦略のフォローアップ・ドキュメント[2]によると、コミュニティ戦略の短期的戦略としては、これまで得られた科学的知見から内分泌攪乱に関してさらに評価すべき優先物質リストを作成することであり、2000年内にその候補物質として553の人工合成化学物質と、9つの合成/天然ホルモンが選定されました[3]

そして2001618 -20日にかけて、欧州委員会(EC)、スウェーデン環境省、スウェーデン国立化学検査官室(KEMI)、経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)、欧州環境庁(EEA)を後援とした内分泌攪乱化学物質に関するワークショップがスウェーデンで開催され、その報告書が10月に発表されました[4]。このワークショップには、欧州だけでなく、日本やアメリカからも専門家が参加し、コミュニティ戦略において重要な課題である、1)情報交換と国際協力、2)研究開発、3)試験方法及び試験戦略の開発、4)モニタリングプログラムの確立について討議されました。

以下に、ワークショップの結論を要約して示します。詳細については原文(参考文献[4])をご覧下さい。

 

1) 情報交換と国際協力

内分泌攪乱化学物質に関する情報や進行中の研究プロジェクトに関して、定期的に更新され、容易に入手できるデータベースが必要であること、また、一般大衆向けと研究者向けに分類した文献情報データベースが必要で、これらのデータベースにはインターネットを通じて容易にアクセスできる必要があると述べています。また、それらに基づいたグローバルな内分泌攪乱アセスメント報告書(GAED)が必要であること、OECD活動に従事する国家の研究者や代表者間の情報やデータ交換が必要であると述べています。

 

2) 研究開発

人への影響

さらに研究する必要のある課題として、(1)特に副腎機能やステロイド合成など全てのターゲット組織における人への影響に関する研究、(2)内分泌攪乱化学物質への曝露と人に対する既知の影響との関連性に関する研究、(3)人への曝露ルートに関するアセスメント、(4)疫学研究におけるリスク要因などがあげられています。

野生生物への影響

さらに研究する必要のある課題として、(1)両生類・は虫類・鳥類に対する影響に関する研究、(2)無脊椎動物を評価する試験方法の開発があげられています。

・内分泌攪乱のメカニズム

今後の課題として、(1)エストロゲン(女性ホルモン)に関する影響だけでなく、アンドロゲン(男性ホルモン)、甲状腺、副腎への影響にも焦点をあてる必要性があること、(2)免疫システム、行動や神経発達に対する影響に取り組むべきであること、(3)ゲノミクス(遺伝子研究)、プロテオミクス(生体内タンパク質の構造と機能に関する研究)、メタボノミクス(代謝研究)等の手法を取り入れるべきであることなどが述べられています。

・その他

今後の課題として、(1)環境要因に対する地域的な違いの確認、(2)内分泌攪乱化学物質への曝露を評価する分析手順の開発(堆積物中の微量分析、食物連鎖における無脊椎動物の役割)、(3)感受性の違いの影響、(4)従来の用量/応答曲線では表現できない低用量曝露の影響や、混合物の相互作用による影響に関する研究、(5)寿命の長い生物への影響に関する研究や、内分泌攪乱化学物質により生じた環境変化に対する規制行動の必要性などがあげられています。

 

3) 試験方法及び試験戦略の開発

哺乳類、魚類、鳥類に対するエストロゲン、アンドロゲン、甲状腺影響を評価する既存のOECD評価法があるが、それ以外に、内分泌攪乱化学物質の影響を受ける可能性のある全ての種に対する評価方法、生殖発達への影響に焦点をあてた評価方法、哺乳類に対する慢性毒性影響の評価方法、試験する組織の生涯を考慮したエンドポイントの選定、ホルモン影響に対する評価方法などを検討する必要があると述べています。

また、副腎システム、フェロモン信号、神経−内分泌−免疫システムに対する影響の評価方法、無脊椎動物を使用した評価方法、構造活性相関(SARs)in vitro(生体外)試験などの代替評価方法を開発する必要があること、さまざまな種に対する甲状腺影響を比較する必要があること、これらの評価の優先性を判断する時は、生産量だけでなく、残留性、生体蓄積性、毒性、環境中における曝露傾向を考慮する必要があると述べています。

 

4) モニタリングプログラムの確立

胎児から成人までの各々の人の成長期において、生殖機能の変化と先天性異常に関する大規模な疫学研究が必要であること、そのために登録簿を使用する必要があること、広範囲にわたる調査が必要であるが、費用対効果を考慮したモニタリングシステムを確立する必要のあることが述べられています。

また、バックグランドデータの必要性、影響が想定される地域を予想するために、生産量や消費パターンとともに適正なモデリング手法が使用されるべきであること、行政と工業界は共同で作業を行うべきであることなどが述べられています。

 

以上がワークショップの報告書の概要です。その中で述べられているように、内分泌攪乱化学物質において重要な課題の1つは、試験方法の開発です。OECDは、1998年に内分泌攪乱化学物質の試験方法の開発に着手しており、人の健康影響に関する試験方法は2002年までに、環境影響に関する試験方法は2003年から2005年までに開発を終える予定としています[2]

今後のコミュニティ戦略において、中期計画は、EC及びEU加盟各国が、OECDが開発している試験方法や、コミュニティ戦略の課題であるEU試験戦略の開発を支援するために十分な資源を提供すること、前述の研究開発プログラムを強化し、内分泌攪乱化学物質による影響が懸念される物質の代替や排除を検討するために、代替物質の確認や自主的に行動を起こすことが重要になると述べています[1]

そして長期計画は、内分泌攪乱化学物質による影響から健康と環境を保護するために、必要に応じて既存の法律の改正提案が検討されるであろうと述べています[1]

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] The European Commission, “COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE COUNCIL AND THE EUROPEAN PARLIAMENT Community Strategy for Endocrine Disrupters”, COM (1999) 706, December 17 1999
http://europa.eu.int/comm/environment/docum/99706sm.htm

[2] The European Commission, “COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE COUNCIL AND THE EUROPEAN PARLIAMENT on the implementation of the Community Strategy for Endocrine Disrupters – a range of substances suspected of interfering with the hormone systems of humans and wild”, COM (2001) 262, June 14 2001
http://europa.eu.int/comm/environment/docum/01262_en.htm

[3]EUROPEAN COMMISSION DG ENV, “Towards the establishment of a priority list of substances for further evaluation of their role in endocrine disruption- preparation of a candidate list of substances as a basis for priority setting”,M0355008/1786Q/10/11/00, June 21, 2001

[4]European Commission, Environment DG, “European Workshop on Endocrine Disrupters 18-20 June 2001 Aronsborg (Balsta) Sweden –Workshop Report”, October 2001
http://europa.eu.int/comm/environment/docum/01262_en.htm


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