殺虫剤ジクロルボスに対する規制強化

−イギリス環境・食糧・農村地域省(DEFRA)


2002121

CSN #221

20011211日、イギリス環境・食糧・農村地域省(DEFRA)は、農業用や家庭用殺虫剤として使用されている有機リン系殺虫剤ジクロルボス(DDVPりん酸ジメチル=2,2-ジクロロビニル)を含む製品に対して、その販売と使用に関する承認を一時取り消すと発表しました[1]

ジクロルボスは、乳剤(褐色透明可乳化液体)、燻煙剤(淡褐色ペースト状、類白色燃焼性粉缶詰)として、殺虫用の燻蒸剤やエアゾール剤に使用されています。

有機リン系及びカーバメート系の殺虫剤は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素アセチルコリンエステラーゼを阻害することによって、昆虫や人を含む哺乳動物に対し、中枢神経症状(ノイローゼ、興奮、不眠、頭痛、うつ病など)、気道症状(胸痛、呼吸困難など)、胃腸症状(食欲不振、吐き気や嘔吐など)など、さまざまな毒性を示します[2]

そこでイギリス保健省(DH)の健康安全局(HSE)DEFRAは、コリンエステラーゼを阻害する化学物質の再評価を進めています。1985年の食品環境保護法のもと、イギリスには殺虫剤諮問委員会(ACP)が設立されており、殺虫剤の安全性に関する提言を健康や農業に関連する政府機関に対して行っています。そしてジクロルボスに対しては、1994年からACPが中心となって承認に対する再評価を行ってきました。

200145日に開催されたACPの会合において、HSEからジクロルボスの変異原性や発がん性に関するデータが提出されことから、変異原性に関する専門家グループで構成されるイギリス保健省(DH)の変異原性委員会(COM)がさらに追加情報を集めて検討を行っていました。そしてCOMは、2001426日と2001723日の会合を経た結果、ジクロルボスは皮膚などの接触部位に対して変異原性を生じる物質であると評価されるべきであり、そのメカニズムに関する十分なデータは不足しているが、予防的アプローチが採択されるべきで、変異原性及び発がん性に関する閾値は想定されないとの結論に達しました[3]

COMの結論を受けてACP20017月に、ジクロルボスを長期間使用するする人々において、わずかではあるが発がんリスクを増加させることから、ジクロロボスを含む製品の販売・供給・使用は、予防的アプローチにより取り消されるべきであるとDEFRAに勧告しました。

この勧告を受けて、DEFRAが規制決定の判断を行いましたが、その決定に対してジクロルボスを製造・販売している化学メーカーが、1)反論する十分な時間が与えられなかった、2)政府が予防原則(PP)やヨーロッパ人権条約(ECHR)を適切に評価していない、などの理由でDEFRAに対して訴訟を起こしました。しかし2001123日、裁判所はそのメーカーの提案の大半を却下する判決を下しました。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] Department for Environment, Food & Rural Affairs (DEFRA): REVIEW OF DICHLORVOS: JUDICIAL REVIEW OF REGISTRATION PROCEDURES, News Release, December 11, 2001
http://www.defra.gov.uk/news/2001/011211b.htm

[2]植村振作 et al., :農薬毒性の事典,三省堂

[3] Department of Health, Committee on Mutagenicity:Statement on Mutagenicity of Dichlorvos, Statement - COM/01/S4 -, July 2001
http://www.doh.gov.uk/com/dichlorvos.htm


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