子供の健康と環境

−世界保健機関(WHO)、欧州環境庁(EEA)共同報告書


200263

CSN #239

2002415日、世界保健機関(WHO)欧州事務局と欧州環境庁(EEA)は、「子供の健康と環境:証拠の再検討 (Childrens health and environment: A review of evidence)」(以下、WHOEEA報告書)というタイトルの共同報告書を発表しました[1][2]

この報告書では、環境因子が関連する世界全体の疾病負荷のうち、40%以上が5歳以下の子供にふりかかっていると試算しました。そして、発達段階の子供は環境汚染の影響を特に受けやすいため、早い年齢における環境中の化学物質への曝露によって、子供は長期間の影響を受ける可能性があること、子供はある種の化学物質に対して特有の感受性を持っていること、子供はものをつかんで口に入れる習慣があるため、土壌やおもちゃなどを通じて直接的に環境中の化学物質に曝露する可能性があること、子供は大人よりも体重あたりの呼吸量と飲食量が多いため、大人よりも有害化学物質を多く摂取することを指摘しています。

そして、環境因子から子供がうける主なリスクとして、喘息、負傷、神経発達障害、発がん、食品や飲料水起因の疾病をあげています。以下に、その概要を示します。

1)    喘息

      欧州地域では過去数十年にわたり、喘息やアレルギー疾患が増えてきており、特に第3子のほとんどが喘息症状に苦しんでいる。

      西欧は東欧に比べて喘息の罹患率が10倍以上であり、西欧の生活様式が子供のアレルギー疾患の発生に関係している可能性がある。

      間接喫煙(ETS)と空気汚染が呼吸器系疾患の主な原因。

      交通量が多い道路の近くに住む子供は、そうではないところに住む子供に対して呼吸器系疾患が2倍。大きな騒音に曝されると、読解力、注意力、問題解決能力に欠陥が生じる。間接喫煙や妊婦の喫煙によって、子供の出生体重の低下、乳幼児突然死、呼吸器感染、中耳炎、肺機能障害のリスクが増加。(20007月、WHO報告書)

2)    負傷

      欧州地域では、10人のうち3人から4人の子供(1歳から14)が負傷により死亡。溺死、中毒、火事、落下が主な原因であり、旧ソ連からの独立国家で特に死亡率が高く、西欧地域の8倍以上。

      欧州の北西地域では、交通事故が主な原因で、25歳以下の子供たちの3人に1人が交通事故で負傷。

3)    神経発達障害

      早い年齢の段階において、発達中の神経システムは、鉛、メチル水銀、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)などの有害汚染化学物質への曝露による影響を特に受けやすい。

      アメリカ環境保護庁の試算によると、食品に存在する鉛の吸収率は、大人が10%であるのに対して子供は50%5倍。

      これらの化学物質への曝露は、肉体の形成、知覚、感覚、言語などの発達障害に関連。早い年齢でこれらの化学物質に曝露すると、これらの障害は回復不可能になる可能性があり、子供たちの生涯に大きな影響を与える可能性がある。

4)    発がん

      子供の発がんはまれであり、欧州地域では15歳以下の子供の500人に1人が、がんと診断されている。

      環境因子による子供の発がんへの影響は限定されているが、過度の紫外線曝露による皮膚黒色種など、子供のうちに発がん物質へ曝露すると、後に大人に成長してからの発がんに結びつく。

5)    食品や飲料水起因の疾病

      10歳以下の子供は食品や飲料水由来の疾病に対して最も感受性が高く、環境中、食品中、水中に存在する残留農薬や化学物質への曝露によって、免疫系、内分泌系、神経毒性障害、発がんなどの影響を受けやすい。

      WHOの調査によると、欧州地域において食品や飲料水起因による疾病の約36%は一般家庭で、約6%が幼稚園や学校の食堂。

 

これらの環境因子によって子供たちがうけるリスクに対し、どのような政策的対応をとるべきかについて、WHOEEA報告書では「予防原則」をあげています。

予防原則は、健康に対して生じた危害と環境因子との関連性を示す科学的証拠が十分ではなく不確実性が存在する場合であったとしても、不可逆的で深刻な危害が生じるリスクがある時は、リスクマネイジメントにおいて予防的アプローチを考慮する場合のあることを意味しており、特にこの報告書では、1999年に行われた「WHOによる環境と健康に関する第3回首脳会合:WHO Third Ministerial Conference on Environment and Health」での声明を引用し、予防原則は、子供など特に影響を受けやすい集団を対象とした環境保健政策に取り入れるべきだと報告しています。

そしてリスク評価過程においては、消費者や工業界などの利害関係者(Stakeholder)による政策決定への参加を保証することが重要であり、特に子供の感受性に対して注意を払うべきだと報告しています。

WHOや欧州環境庁などのさまざまな国際機関はこの方向へと進んでおり、2004年には「WHOによる環境と健康に関する第4回首脳会合:WHO Fourth Ministerial Conference on Environment and Health」がブタペストで開催され、持続可能な開発のために子供と将来世代の人たちの健康に焦点が当てられる予定とされています。

Author; Kenichi Azuma

参考文献

[1] “Contaminated environment jeopardizes our children’s health”,Press release EURO 08/02, theWorld Health Organization Regional Office for Europe and the European Environment Agency,Copenhagen and Brussels, 15 April, 2002
http://www.who.dk/eprise/main/WHO/MediaCentre/PR/20020415_1

[2] Giorgio Tamburlini et al.,: “Childrens health and environment: A review of evidence”,A joint report from the European Environment Agency and the WHO Regional Office for Europe,EEA, Copenhagen, Environmental issue report No 29,ISBN 92-9167-412-5, 2002


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