医療器具に使用されるDEHPの安全性に対する勧告

―カナダ保健省―


2002610

CSN #240

フタル酸エステル類の1つであるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は、塩化ビニル樹脂の可塑剤(塩化ビニル樹脂を柔らかくする材料)として、子供用玩具、医療器具、建築材料、自動車用内装材などに幅広く利用されています。

このうち医療器具に関しては、アメリカ国家毒性計画(NTP)のヒューマン・リプロダクション評価センター(CERHR)やアメリカ食品医薬品局(FDA)が、重病(危篤状態)にある、あるいは長期間DEHPを含む医療用軟質塩ビ器具に曝露した男性新生児に対する影響を非常に懸念していることをはじめ、子供に対するリスクの増大などを懸念するリスクアセスメントの報告書を発表しました[1] [2]

そしてさらに2002111日、カナダ保健省(HC)は、CERHRFDAと同様に、医療器具で使用されるDEHPの安全性評価に関する最終報告書を発表しました[3]。これは、近年の動物実験による研究結果から、DEHPの健康影響リスクの焦点が発がん性から生殖系に向けられたことから、カナダ保健省の専門委員会が設立され、医療器具におけるDEHPの安全性に関して最近報告された、CERHRFDAの報告書を含む13のリスクアセスメント結果を評価したものでした。以下に、得られた勧告の概要を示します。

 

カナダ保健省の専門委員会による医療器具に使用されるDEHPに対する勧告

   成人に対するリスクは小さいが、胎児、新生児、乳幼児、病気の子供、相対的にDEHPに対して高い曝露を受ける集団に対しては、論理的に高いリスクが生じることから、新生児や乳幼児に使用される膜型人工肺(ECMO)においては、DEHP代替物質へ置き換えること。

   特に乳幼児や子供に対して脂溶性の高い薬剤を投与するために使用されるチューブや保存袋に対しては、DEHPが含まれないこと。

   新生児や幼児に対して静脈注射により投与される栄養液(TPN)は、DEHPを含まない製品によって行われること。

   これらの集団を保護するための代替手段ができる限り速く導入されること。

 

この報告書の中で委員会は、この問題に対する人のデータが非常に限定されており、人に対する実際のリスク水準を緊急に確認する必要があるとしながらも、人に対するデータが不完全で決定的でなかったとしても、カナダ保健省が全ての医療器具の規制に関して「予防原則の適用」を明言することを支持すると報告しました。そして予防原則の適用に関しては、例えば、全ての医療器具に対するリスク便益解析は、「乳幼児や子供のリスクに対する不均衡性を常に考慮すべきである」といった記述を予防原則適用の観点から含めるべきだと報告しました。

CSN #239で紹介した世界保健機関(WHO)と欧州環境庁(EEA)の報告書にもあるように、子供など特に影響を受けやすい集団を対象とした環境保健政策に対しては、科学的不確実性の大きさと影響の深刻さの観点から、予防原則を取り入れる動きがより活発化してきました。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] NTP-CERHR EXPERT PANEL REPORT, DEHP (DI (2-ETHYLHEXYL) PHTHALATE), October 2000
http://cerhr.niehs.nih.gov/news/index.html

[2] Center for Devices and Radiological Health, U.S. Food and Drug Administration (FDA), “Safety Assessment of Di(2-ethylhexyl)phthalate (DEHP) Released from PVC Medical Devices”, September 4, 2001
http://www.fda.gov/cdrh/ocd/dehp.html

[3] “HEALTH CANADA EXPERT ADVISORY PANEL ON DEHP IN MEDICAL DEVICES”, Health Canada,Final Report, January 11, 2002


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