廃棄物処分場周辺に住む人たちの健康リスク
2002年3月18日
CSN #229
1998年に英医学誌ランセットに掲載された欧州10地区の廃棄物処分場周辺に住む人たちの健康リスクに関する研究では、非染色体性障害児出生が、廃棄物処分場の半径3kmから21kmの地域において、その周辺地域よりも約33%増加したと報告されました。また、神経管欠損症や心臓障害が観察されました[1]。この研究はユーロハズコン研究(EUROHAZCON study)と呼ばれ、大きな関心が集まりました。
その後この研究も含め、廃棄物処分場周辺に住む人たちの健康リスクに関し、欧米の50の研究論文を解析した英ロンドン衛生熱帯医学校 公衆衛生政策部 環境疫学科のMartine Vrijheid博士(ユーロハズコン研究の研究者の一人)は、2000年3月号の米環境科学誌「環境衛生展望: Environmental Health Perspectives」の総説[2]の中で、「母親の年齢などの外乱要因による影響が解析に含まれておらず、さらに解析に用いた廃棄物処分場は、遮断型及び開放型の処分場が両方とも含まれている。そのため、一般的に廃棄物処分場がそれらのリスクに関連しているかどうか、あるいは特別なタイプの処分場がリスクを引き起こしているかどうかに関する因果関係について、この段階で結論を導くのは困難である。」と自身のユーロハズコン研究を評しました。
そしてこの後、Martine Vrijheid博士自身でさらに研究を行い、欧州地域の23の廃棄物処分場周辺に住む245の染色体異常のケース群と2,412のコントロール群に関する研究報告を、2002年1月26日付け英医学誌ランセットに発表しました[3]。
Martine Vrijheid博士らの研究者たちは、バイアスによる影響を少なくするために、母親の年齢や社会経済的要因を解析に含めたうえで、廃棄物処分場から3km以内に住む人たちは、3-7km離れたところに住む人たちに比べ、出生児のダウン症などに関連する染色体異常のリスクが約1.4倍(オッズ比1.41、95%信頼区間1.00-1.99)であると報告しました。そしてこの結果は、非染色体障害児出生による健康リスクが示されたユーロハズコン研究と同様に、健康リスクという観点において、廃棄物処分場周辺で染色体異常のリスクが増加している可能性を示唆していると結論しました[3]。
このような健康リスクに関しては、イギリス保健省(Department of Health: DH)がイギリス全土にわたる広範囲の調査を行っており[4]、ロンドン大学インペリアル・カレッジ セントマリー校 疫学公衆衛生部が、イギリス保健省に対して「廃棄物処分場周辺地域に住む人々における出生と発がんに関する調査:Birth outcomes and selected cancers in populations living near landfill site」[5][6]を2001年8月に報告しました。
それによると、廃棄物処分場の周囲2km以内に住む人たちは、それ以外の地域に住む人たちに比べ、先天性異常、低体重児出生、超低体重児出生に関するリスクがやや大きいが、発がん性に関しては、リスクに差はないと報告しています。また、このような結果が生じた理由は現時点では説明できず、今後さらに研究を行う必要があると報告しています[6]。
Martine Vrijheid博士は、2002年1月26日付け英医学誌ランセットで報告した廃棄物処分場周辺における染色体異常のリスク増加に関し、2002年1月 25日付BBCニュースにおいて、「この研究で示唆されたリスク増加が、有害廃棄物処分場周辺に住んでいることが原因なのか、他の原因によるものなのかについては未だに明らかとはなってない。最も重要なことは、廃棄物処分場周辺に住む母親が、あるとすればどれほどの化学物質に廃棄物処分場から曝露するのかわかっていないことである。廃棄物処分場周辺に住む居住者の曝露について、さらに研究する必要がある。」と述べています[7]。
そしてイギリス保健省の担当官は、同じBBCニュースの中で、「我々は、さらなる研究が必要だとするユーロハズコン研究の研究者らの意見に同意する。また、廃棄物処分場周辺に住む居住者の曝露研究への取り組みは、廃棄物処分場と健康に関する政府の調査プログラムの一部[4]として進められている。」と述べています。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1]Dolk H, Vrijheid M, Armstrong B, Abramsky L, Bianchi F, Garne E, Nelen V, Robert E, Scott JES, Stone D, Tenconi R.: “Risk of congenital anomalies near hazardous-waste landfill sites in Europe: the EUROHAZCON study”, Lancet, Vol. 352, pp423-427, 1998.
[2] Martine
Vrijheid: “Health Effects of Residence Near Hazardous Waste Landfill Sites”,
Environmental Health Perspectives, Volume 108, Supplement 1, pp101-112, March
2000
http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2000/suppl-1/toc.html
[3]M Vrijheid et al.: “Chromosomal
congenital anomalies and residence near hazardous waste landfill sites”, The Lancet,Vol. 359, No. 9303, 26 January, 2002
http://www.thelancet.com/
[4] Department of
Health,Health Effects in relation to Landfill sites
- Update on research, August 2001
http://www.doh.gov.uk/landup.htm
[5] Committee on
Toxicity,Department of Health, “Study by the Small Area
Health Statistics Unit (SAHSU) on health outcomes in populations living around
landfill sites”, COT/2001/04, August 2001
http://www.doh.gov.uk/landfill.htm
[6]Report to the Department of Health; Department of Epidemiology and Public Health, Imperial College St Mary's Campus, “Birth outcomes and selected cancers in populations living near landfill sites”, August 2001
[7] BBC News: “Fears grow over
landfill defect link”, Friday, 25 January, 2002
http://news.bbc.co.uk/hi/english/health/newsid_1780000/1780272.stm