食品経由で摂取するビスフェノールAの安全性
2002年5月27日
CSN #238
人の生殖系への影響が懸念されているビスフェノールA (BPA)は、プラスチックスの1つであるポリカーボネートやエポキシ樹脂の原料として使用されており、ポリカーボネート製食器やエポキシ樹脂が内面コートされた缶詰から食品中へビスフェノールが溶出し、その食品を食べることによって生じる私たちの健康への影響が懸念されていました。
この懸念に対し、2002年4月17日、欧州委員会(EC)の食品科学委員会(SFC)は、これまで動物実験で得られた毒性データや、市場の製品を用いた溶出実験結果に基づいてリスクアセスメントを行い、その結果を2002年4月17日に発表しました[1][2]。
SFCは、ラットやマウスなどを用いた動物実験の結果から、ビスフェノールAの無有害性影響量(NOAEL)を 5 mg/kg体重/日と推算し、不確実係数の各因子として、種差10、個体差10、これまでの実験データに存在する不確実性を5とし、これら3つの係数を掛け合わせて不確実係数を500としました。
そして、耐用一日摂取量(TDI)として、5/500=0.01 mg/kg体重/日 (10µg/kg体重/日)を暫定的に算出しました。この暫定TDIは、今後新たな科学的知見が見出された時には、直ちに再検討される予定となっています。そして、各年齢層での食品経由によるビスフェノールAの摂取量を、最悪のケースを想定して推算しました。その結果の概要を表1に示します。
表1 食品経由による人のビスフェノール(BPA)の摂取量([2]をもとに作成)
年齢層 |
食品の種類 |
一日当たりの消費量 |
BPA濃度 |
BPA摂取量 |
0-4ヶ月の乳児 |
乳児用ミルク |
0.7リットル |
10 |
1.6 |
6-12ヶ月の乳児 |
乳児用ミルク |
0.7リットル |
10 |
0.8 |
缶詰食品 |
0.38 kg |
c.20 |
0.85 |
|
4-6歳の子供 |
缶詰食品 |
1.05 kg |
c.20 |
1.2 |
Adult |
缶詰食品 |
1.05 kg |
c.20 |
0.37 |
ワイン |
0.75リットル |
9 |
0.11 |
表1から明らかなように、食品経由による人のビスフェノールAの摂取量は、成人で0.48µg/kg体重/日、乳児で1.6µg/kg体重/日であり、暫定TDIである 10µg/kg体重/日を下回っているとSFCは報告しました。
この報告に対し、欧州化学工業連盟(SEFIC)は、消費者は安心してビスフェノールAで作られた製品を使用できるとのコメントを発表しました。そして世界自然保護基金(WWF)は、SFCは、消費者よりも工業界の利益を優先し、さらなる試験が必要としているが、それが明らかとなるまでの間、不確実性に対する負担を消費者に位置づけたとのコメントを発表しました。SFCは、現在継続している毒性試験があることからも、ビスフェノールAを段階的に削減すべきとの結論に達する可能性を取り除いたわけではありません[1]。乳児や子供に対しては、予防的観点から、できる限りビスフェノールAを摂取しないよう、慎重に対処すべきと考えられます。
Author: Kenichi Azuma
<参考資料>
[1] “Bisphenol-A cleared safe for food use”, Environment Daily 1212, 8 May, 2002
[2]Scientific Committee
on Food: “Opinion of the Scientific Committee on Food on
Bisphenol A”,EUROPEAN COMMISSIONHEALTH & CONSUMER PROTECTION DIRECTORATE-GENERAL, Directorate
C - Scientific Opinions, C2 - Management of scientific committees; scientific
co-operation and networks,SCF/CS/PM/3936 Final, 3 May 2002
http://europa.eu.int/comm/food/fs/sc/scf/index_en.html