化学物質による健康リスク


2003227

CSN #250

近年、いわゆるシックハウス症候群や化学物質過敏症など、建物の室内に放散された有害化学物質に曝露することにより、居住者に体調不良が生じる健康影響問題が社会的に大きくなっています。その対策のため、ホルムアルデヒドの使用規制やクロルピリホスの使用禁止を定めた改正建築基準法が、今年の7月に施行されます。

そして、改正建築基準法に対応するために、化学業界や建築業界は、講習会の開催や、自主管理基準の策定など、事前の対応を始めています。改正建築基準法と、このような業界の一連の動きは、この問題に対して大きな進展であると言えるでしょう。

昨秋、大手電機メーカーでテレビを設計している技術者から次のような話を聞いたことがありました。「5万人に1人の割合かもしれないが、微量の化学物質に反応する人たちがいるので、臭いの発する部材は採用しない。使用する部材は、材料メーカーから揮発物質に関するデータを提出していただき、さらに、社内のモニターの人たちを使い、臭いがするかどうかの試験を行い、問題がないと思われるものを使用する。」

また、先日私が講師を務めたセミナーでは、厚生労働省の指針値や世界保健機関(WHO)のガイドラインに含まれていない発がん性物質について、自社で使用している化学物質が該当するかどうか調査したいため、調査方法を教えて欲しいとメーカーの受講者から要望がありました。

住宅や建築関係以外にも、室内空気に関わるさまざまなメーカーの考えが、少しずつ変わってきているのではないかと思います。我が国の科学力や技術力には、大変優れたものがあります。それにより、メーカーが自社の製品の安全性を高め、それを使用する消費者の健康リスクを減らすよう取り組むことは、今後、メーカーが自社の製品の信頼性を確保し、さらに消費者の安全性を確保するにあたり、大きなプラス要因となることは言うまでもありません。

ただ、最近次のような話を知人から聞きました。住まいの近くにマンションが建設されるので、知人は、その工事により発散される化学物質によって、地域住民に対して健康影響が生じないよう、マンションの建設業者に事前に申し入れを行いました。その結果、「JIS規格に適合しているから合法だ。1,000人に対応しているから、一人の特異体質を考慮することはできない。」とのコメントが返ってきました。

これは、誠に残念なコメントと言わざるを得ません。自社の事業活動により地域住民に何らかの健康リスクが生じる可能性が、その住民によって懸念されているにも関わらず、そのリスクに関する地域住民とのリスクコミュニケーションを行おうとする姿勢がみられません。

化学物質による健康リスクを評価し、そのリスクを適正に管理するためには、メーカーが主体となった取り組みが不可欠です。製品の安全性に関しても、製品の設計、製品を作る過程、製品が消費者に渡った後、そして廃棄された後も含め、どのような運命をたどり、それぞれの過程でどのようなリスクが生じる可能性があるのか、そこまで考慮した取り組みが必要でしょう。そして、消費者とリスクに関するコミュニケーションを行うことにより、互いの理解を深め、信頼関係を築き上げていくことが求められます。

Author: Kenichi Azuma


 「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ