EPA(アメリカ環境保護庁)による家庭ごみのドラム缶焼却試験


1999年1月15日

CSN #001

1997年11月

総括

家庭ごみのドラム缶焼却シミュレーションで排出される物質の定性試験と定量試験を行い、排出物の特性に関する詳細な研究を行った。この研究では、焼却前に家庭ごみからリサイクル可能なものをほとんど取り除く「リサイクル家庭」と、家庭ごみの全てを 焼却する「非リサイクル家庭」という2種類の異なる経路で実験的に産出されたごみについて評価を行った。

酸素、二酸化炭素、一酸化窒素、炭化水素全般の気体サンプルを継続的に分析した。気体相から抽出したサンプルからは、揮発性有機化合物、半揮発性有機化合物、多環式芳香族炭化水素、PCB、クロロベンゼン、ダイオキシン類、アルデヒド、ケトン、塩化水素、シアン化水素、金属類について分析を行った。また、PM10、PM2.5の粒子状物質について測定を行った。焼却残灰サンプルは、半揮発性有機化合物、PCB、ダイオキシン類、金属類について分析を行った。

排出物からは相当量の汚染物質が見つかった。リサイクル家庭と非リサイクル家庭の開放燃焼試験から得られた排出物には重要な違いが見られた。また特に、表面的には同じ試験条件であるにも関わらず、テストNo1とテストNo2の試験間における化合物の排出に重要な違いが見られた。これらの違いは、複雑な燃焼システムから排出される排出物を評価する時には、統計的に有効な排出データを得ることが難しいことを強く表している。

揮発性有機化合物、半揮発性有機化合物、多環式芳香族炭化水素、アルデヒド、ケトンといった非塩素系化合物の大半は、非リサイクル家庭からの排出が高かった。焼却燃焼質量当たり及び一日当たり(ニューヨーク州環境保全部での推定ごみ産出量を基準)においても同様だった。ところが、塩素化有機物の排出物の大半、特にクロロベンゼン、ダイオキシン類は、リサイクル家庭からの焼却質量あたりの排出量が高かった。PCBの排出量は、非リサイクル家庭からの方が高かったが、このような現象の原因は不明である。一日当たりでは、リサイクル家庭からのダイオキシン類の排出量がかなり高い。このような現象は、リサイクル家庭ではごみ中の塩ビ含有率が相当に高いこと、燃焼過程において異なった温度分布を示すこと、金属触媒の混合量が異なることなどいくつかの要因に基づくものと思われる。

非リサイクル家庭のごみに含まれるある種の成分が、ダイオキシン類の生成率増進を担うと考えられる金属触媒の働きを阻害する可能性もある。塩化水素の分析結果でも、リサイクル家庭からの塩化水素発生量はかなり高く、塩素化有機物についても同じことが言える。そして、焼却残灰分析では、ダイオキシン類排出量の増加に貢献する銅の含有量が、リサイクル家庭からの方が多いことを示している。しかしながら、塩化水素の排出量の違いでは、テストNo1とテストNo2の試験におけるダイオキシン類の排出量の違いを説明できなかった。リサイクル家庭からでるごみの燃焼体底部の温度が、非リサイクル家庭からでるごみの燃焼体底部の温度よりもはるかに低いことも注目される。気体状の金属の排出量は、実験条件の要素としてはあまり大きいものではない。

粒子状物質(PM)の排出量は、非リサイクル家庭からの方がより高い。どちらの実験条件(リサイクル家庭と非リサイクル家庭)からも排出された粒子状物質は、ほとんど全てが直径2.5μより小さい。 優れた燃焼技術と排出ガスの吸着技術を有する、本格的な都市ごみ焼却施設(MWC)から排出された排出物と、家庭ごみの開放燃焼試験から排出された排出物とを比較してみた。

表4−1は、都市ごみ焼却施設での現地試験でのデータ(文献22)に基づいて作成した。それは、文献22中の焼却装置の排気口で得られたサンプルを用いて、また文献22中のPT−08,PT−09,PT−11の試験条件における値を平均して作成した。この研究から得られたデータを基に、全揮発性有機化合物のデータを集約し、全揮発性有機化合物排出物として積算した。(検出限界値以下の値は0とした)また同様の処置を、多環式芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ダイオキシン類、PCBにおいても行った。

表4−1の結果を棒グラフで図4−1に示した。それによれば、リサイクル家庭と非リサイクル家庭のデータ間でみられた違いが、家庭ごみの開放燃焼試験と都市ごみ焼却施設を用いた都市ごみの焼却から得られたデータとの間でみられる違いと比較して小さいことがわかる。図4−1の座標軸は、対数目盛であることに着目すると、開放燃焼試験から排出される排出物の量は、都市ごみ焼却装置での排出物の量より数桁のオーダーで高いことがわかる。

表4−1 家庭ごみの開放燃焼試験と都市ごみ焼却施設を用いた都市ごみ焼却でのデータ      (文献22における都市ごみ焼却施設のデータより)間の比較 ;全ての排出物のデータは、焼却に使ったごみ1kg当たりμgで示されている。

開放燃焼試験のデータと、本格的に設計された焼却装置を用いた焼却物のデータとを比較するために、表4−2を作成した。表4−1のそれぞれの物質における、焼却物単位質量あたりの排出量の概算値を用いて、一日あたりに作られる全空気汚染物量を計算し、さらに表2−1に示されるごみの配合割合を用い、また都市ごみ焼却施設が182,000kg/日(200トン/日)のごみを処理したとして仮定して、リサイクル家庭と非リサイクル家庭での比較を行った。このサイズの都市ごみ焼却施設の焼却装置は、非リサイクル家庭ごみを37,000kg/日、リサイクル家庭ごみを121,000kg/日に相当する量を処理することに注目すべきである。

開放型燃焼試験における一日あたりの推定排出物量と、都市ごみ焼却施設から排出される一日あたりの推定排出物量との比を得ることで、一般的なサイズの都市ごみ焼却施設によって生み出される空気汚染物に換算した場合に、開放燃焼試験に用いた家庭ごみからどれくらいの空気汚染物が発生するかを見積もることができる。1つの家庭におけるドラム缶でのごみ焼却は、本格的な都市ごみ焼却施設よりも多くの汚染物を発生するにもかかわらず、その数値は揮発性有機化合物、クロロベンゼンのような汚染物においていては驚くほど低い。文献中の他のデータとこれらの結果を比較しても、我々のデータは文献値よりも高いが、乱暴なほどは高くないことことがわかる。

スペリオル湖西側の公衆衛生地区で行ったドラム缶焼却テストでは(文献2)、台所ごみ1ポンドの焼却で、3.9×10(−12)ポンドの2,3,7,8−TCCD[註:毒性のもっとも強いダイオキシン]が発生したと報告している[註:換算すると、1グラムの台所ごみを燃やして3.9ピコグラム]。我々の測定データでは、2,3,7,8−TCDDは、焼却残灰1kgあたりざっと5×10(−10)kg未満[註:焼却残灰1グラムあたり500ピコグラム未満]で不検出だった。二つの結果は、ほぼ合致しているが、完全に一致しているとは言えない。この文献では、ドラム缶での焼却と焼却炉の場合との比較を用いて、2,3,7,8−TCDDの排出割合が20倍増加しているようだと報告している。

イリノイ州の報告では、全ダイオキシン類とフラン化合物の排出量が、ごみ1ポンドあたり0.6×10(−9)ポンド[註:ごみ1ポンドあたり600ピコグラム]と報告している。これらの数値は、焼却物全ての重量を対象とした排出量と、焼却残灰の重量を対象とした排出量といった違いがあるので、比較する場合には1対1の比較ではないことに注意しなければならない。しかしながら、この発生比率は数値を換算してみれば、一致していることがよく分かるだろう。また、これらの結果が我々の結果よりも低いことについては想定される要因がある。それは、おそらくごみ中に含まれる塩ビ片が、全ダイオキシン発生量に重要な要因となっているということである。

表2−1にあるごみの配合から明らかなように、ドラム缶開放燃焼試験ではとてもハイレベルなダイオキシン類を生み出した。  家庭で固形廃棄物を燃やす際に発生する物質は、地面の高さで排出されるため、拡散による濃度低下の効果がだんだん少なくなる。したがって、排出量の大きさだけから判断されるよりも大きな影響を与えているかもしれない。拡散の効果が小さいため近隣家庭からの排出物が濃縮されて、その多くを直接吸入・被爆してしまう可能性もある。

表4−2:開放燃焼試験に用いた家庭ごみを本格的な都市ごみ焼却施設から排出する空気汚染物に換算した数値。  

もう一つの問題は、家庭ごみ焼却という特定の発生源が、ダイオキシン類全体の潜在的に大きな発生源になるだろうということである。1994年にEPAが報告したダイオキシン再評価資料(文献23)では、USAでのダイオキシン排出量の関係を導く試みがなされた。そして、現在の堆積物の推定値と排出物の推定値との間に大きな隔たりがあることが示された。堆積物の推定値は、排出物の推定値よりもかなり高かった。EPAは、このことがダイオキシン発生源には解明されていないものがあることを示すと考えた。ドラム缶焼却からのダイオキシン排出量は、堆積速度の観測結果と排出物の累積量とのギャップを説明する媒介項になるだろう。

表4−3は、どのごみの流れが結果として高濃度の排出物を生み出すかについて、一般的な傾向を示している。最初の2つの縦列は、焼却物の質量に対する排出物の質量の割合に基づいたものと、表2−1のニューヨーク州におけるごみ発生割合を用いて推定した一日当たりの排出物の量に基づいたものである。焼却残灰の項目では、一人あたりのニューヨーク州でのゴミ発生割合と、表3−1に示される焼却残灰の質量とに基づいて一人当たりの推定量を概算し、それをもとに表している。表4−4は、全ての試験データを1つの表にまとめたもので、リサイクル家庭のデータと非リサイクル家庭のデータの比率、種々の汚染物の測定平均値を示す。


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