「ヨーロッパから見たダイオキシン展望」


1999年2月10日

CSN #003

「レイチェルの環境と健康」(#636)より

1999年2月4日

「エッセンス抽出」

1. ダイオキシンの毒性は1990年の研究報告よりも2〜10倍に上がっている。 (昨年5月の科学者40人によるWHO会議より)

2. ダイオキシンは工業国では人間の癌発生原因の12%である。そうするとアメリカに毎年12万人の癌患者を発生させていることになる。 (昨年4月にドイツの科学者グループ)

3. ヨーロッパ各国の政府や環境団体の活動により、環境中のダイオキシンのレベルはここ10年間で50%低下した。

4. たばこの煙中には、都市ごみ焼却炉の排気口の煙と同濃度のダイオキシンがある。

5. アメリカ合衆国での全ダイオキシン排  出量は、1995年TEQ換算で3kg/年である。

6. アメリカ合衆国の成人は、1日当たり、人間の体重1kg当たりTEQ換算で1〜10ピコグラム/kg/日のダイオキシンを主にミルク、肉、魚から摂取する。

7. 母乳で育った幼児は、70ピコグラムのダイオキシンを摂取する(TEQ換算でのg/kg/day)。つまり、大人の平均7〜70倍である。

8. 成人一生涯における発癌の危険性はTEQ換算(ピコグラム/kg/日)でのダイオキシンの1ピコグラムに対して1/100〜1/1000の確率である。アメリカ合衆国では日常生活において、TEQ換算で1〜10ピコグラム/kg/日のダイオキシンを摂取するので、発癌の危険性は、1/1000〜100/1000の範囲になると計算できる(1/100〜1/1000に10ピコグラムを掛けている)。この範囲の中間点は50/1000になる。また、一生涯のうちで癌になる平均確率は、およそ400/1000(4/10)であると言われている。もしドイツの科学者の見積もりが正しければ、癌発生原因の12%は環境中へのダイオキシン放出によるものと見ることができる(50/400を%で表すと12.5%)。(前出2.のドイツの科学者グループの試算ベース)。

9. ダイオキシンは従来考えられていたような癌化を促進する作用を起こさずに、ラットの乳癌そのものを引き起こすことが明らかになった。妊娠15日後のラットを少量のダイオキシンに暴露すると、ダイオキシンに暴露された若いラットは、正常なラットと比較してはるかに高い乳癌発生率を示した。(1998年イギリスの研究者)

10. WHOが1998年5月の会議で決定した、ダイオキシンのTDI(耐容摂取量)の1〜4ピコグラム/kg/dayは安全率10倍でみている。一般にはこのような状況では安全率100倍用いる。しかし、そうしないように要求した学者によれば、もしWHOが100倍の安全率を適用すれば、これまで産業国で行われた食物供給の大半は、危険なやり方がなされていたいため汚染されていたと発表していたであろう。しかし、彼らは政治上の理由からそうしなかった。

11. TDIの中間値2.5ピコグラムを用いると、70kg(154ポンド)の成人一人あたり約6万4千ピコグラム/年になる。アメリカの産業界が毎年排出しているダイオキシン3,000グラム/年。アメリカの2億6千万の人々で割算すれば、、毎年アメリカの男性、女性、子供一人当たり1、100万ピコグラムのダイオキシンTEQ換算になる。(TDIに対して実に172倍の放出量)

12. ダイオキシンの健康への影響(1998年5月WHO会議)

「ヨーロッパから見たダイオキシン展望」

ダイオキシンは、性質的には似ているが、異なる毒性を有する219種類もの同族体からなる化学物質の総称である(文献1)。最近になってWHO(世界保健機関)から独立した癌研究の国際機関(IRAC)は、発癌性物質としては周知であるTCDDがダイオキシンの中では最も毒性が高いという決定を下した(文献2)。その他の毒性が比較的低いダイオキシンは、人体に対して発癌性があるようだと言うに留めている。

また、低レベルのダイオキシンに対する暴露は、人間や動物の初期の発育や成長段階で、免疫システム、生殖システム、内分泌システムに対して影響を与えることはよく知られている(文献3)。要するに、ダイオキシンは、強力な毒性を有する同族体の総称である。

1990年初頭、アメリカ政府を含む世界各国の多くの政府は、世界中の公衆衛生機関の認識が恥ずかしいほどに間違っていることを認め、工業化社会においては誰もが相当量のダイオキシンに暴露していると報告した。

1991年、アメリカ環境保護庁は(USEPA)は、改めてダイオキシンの本格的な科学調査に着手した。それから9年後、その調査は暗闇に消え失せてしまった。(参考:REHW#390、#391)また、ダイオキシンを排出している大会社は、連邦政府の選挙運動に選挙資金を提供している。クリントン/ゴア政府は、歴史上で繰り返されるこのような資金提供を打破することができないようである。さらに、1994年以来共和党員が、支配する議会は、それらの大会社をスポンサーにしないようにはできなかった。

その一方、昨年6月にスイスでWHOによって召集された40人の科学者の会合では、ダイオキシンの毒性が、1990年の報告より2〜10倍毒性が高いという結論を下した。また、昨年4月にドイツの科学者グループは、ダイオキシンは工業国では人間の癌発生原因の12%であると報告した。この見積もりが正しいとすると、アメリカに毎年12万人の癌患者を発生させていることになる。このドイツの科学者グループの見積もりは、アメリカ政府の科学者らの見積もりよりも10倍以上高い。

良い話と言えば、ヨーロッパ各国の政府や地元の活動家達がクリーンな技術を採用するように産業界に強いたため、環境中のダイオキシンのレベルはここ10年間で50%低下した(文献3)。10年以上経過してからでも、ダイオキシンは人間の健康へ多くの影響をもたらします。だからダイオキシン暴露による健康への影響についての解明は、今後数十年間にわたって継続されるだろう。

ダイオキシンは製品としての価値がないので、研究者の好奇心以外には決して意図的に生み出されることはない。しかしそれらは、化学薬品、殺虫剤、木の防腐剤の製造過程、医薬品の焼却、都市の有害廃棄物、金属精錬、紙の製造などの燃焼過程において、必要のない副産物として生み出される。環境中のダイオキシンは、土壌改質剤、肥料が含まれている汚泥が道筋となって拡散している。

たばこの煙中には、都市ごみ焼却炉の排気口の煙とほとんど同じ濃度のダイオキシンがある。たばこの煙と都市ごみ焼却炉の排気口の煙との違いは、焼却炉からの煙はその濃度のまま直接人間の肺に入らない、また、たばこの煙は焼却炉の送気管を通じて大気中に放出されないといった違いくらいである(文献5)。

ダイオキシンのうちのいくつかは他のダイオキシンよりも強い毒性を有する。科学者らは、TEQ(毒性係数)と呼ばれる、いろんな種類のダイオキシンが混合された混合物の毒性と量を比較する方法を確立した。TEQシステムは、毒性の種類を明確にするために用いられ、最も毒性の強いダイオキシン(2,3,7,8−TCDD、以後TCCD)の毒性に換算してどれくらいの量かというように表現される。例えば、USEPAの見積もりによると、アメリカ合衆国での全ダイオキシン排出量は、1995年TEQ換算で1年間で3kgである。このことは、1995年に環境中に排出された全ダイオキシンはTCDD3kgの毒性に等しいということである(文献6、p2−7)。但しEPAは、この値は1、200〜7、900の幅があるとしている。

EPAによれば、1995年のダイオキシンの主な発生源は、ごみ焼却炉(1,100g、アメリカ全体の36%)、医療器具廃棄物(477g、同16%)、コンクリート釜で燃やした有害廃棄物(153g、同5%)、産業による石炭燃焼(73g、同2.4%)、家庭における木材燃焼(63g、同2%)、産業における木材燃焼(29g、同1%)、ディーゼルエンジン(33g、同1%)、銅の精錬(504g、同17%)、アルミ精錬(17g、同0.5%)、森林火災(208g、同7%)、下水処理場の汚泥の焼却(6g、同0.2%)、その他(375g、同12%)(その他は汚水中に含まれたまま土壌に拡散した)。(循環の関係で正確にトータル100%にはならない。)(文献6p2−13)

ダイオキシンは、水に溶解しないが脂質に溶解する。そのため、脂質を含む植物はダイオキシンに汚染される傾向にある。アメリカ合衆国の成人は、1日当たり、人間の体重1kg当たりTEQ換算で1〜10ピコグラム/kg/日のダイオキシンを摂取する。(1kg=1000g、2.2ポンド、1ピコグラム=10兆分の1グラム、1オンス中に28g)我々が日常において摂取するダイオキシンの80〜90%は、ミルク、肉、魚である。

母乳で育った幼児は、70ピコグラムのダイオキシンを摂取する(TEQ換算でのg/kg/day)。つまり、大人の平均7〜70倍である。これにも関わらず、母乳で育った幼児は粉ミルクで育った幼児よりも健康である。

ドイツの科学者グループによって、ダイオキシン暴露による発癌性が評価された(文献4)。彼らの報告によると、成人一生涯における発癌の危険性はTEQ換算(ピコグラム/kg/日)でのダイオキシンの1ピコグラムに対して1/100〜1/1000の確率である。アメリカ合衆国では日常生活において、TEQ換算で1〜10ピコグラム/kg/日のダイオキシンを摂取するので、発癌の危険性は、1/1000〜100/1000の範囲になると計算できる(1/100〜1/1000に10ピコグラムを掛けている)。この範囲の中間点は50/1000になる。また、一生涯のうちで癌になる平均確率は、およそ400/1000(4/10)であると言われている。もしドイツの科学者の見積もりが正しければ、癌発生原因の12%は環境中へのダイオキシン放出によるものと見ることができる(50/400を%で表すと12.5%)。それが事実ならば、環境中へのダイオキシン放出は公に衛生災害と称することができる。

ダイオキシンが癌を発生させるメカニズムはよくわからないままである。ダイオキシンは、発生源というよりもむしろ癌の強力な促進者のようである。つまり、一旦1つの細胞が何らかの要因で癌化傾向になると、ダイオキシンは本格的なガン細胞になるように促進する。このことは、ダイオキシン汚染地帯の人々において、発癌者を増加させていることを証明している。

しかしながら、1998年に報告された研究によって、ダイオキシンは従来考えられていたような癌化を促進する作用を起こさずに、ラットの乳癌そのものを引き起こすことが明らかになった。イギリスの研究者らは、妊娠15日後のラットを少量のダイオキシンに暴露した(文献7)ことを我々がREHW#630で最近報告した。

ダイオキシンに暴露された妊娠中のネズミから生まれた子供は正常だった。しかし生後7週間で、非常に多くの乳腺(乳癌に発達する乳房中の場所)が「癌の芽体」になった。4つの研究は、乳房中の「癌の芽体」の数と乳癌の発生に直接的な相互関係があることを示した。

イギリスの研究者らは、有名な発癌性物質であるジメチルベンズアントラセンに暴露した若いラットと正常なラットを観察した。ダイオキシンに暴露された若いラットは、正常なラットと比較してはるかに高い乳癌発生率を示した。

ダイオキシンのような化学物質は、ある状況下では乳癌の発生を引き起こさないかもしれないが、実際には、他の状況下では乳癌を引き起こしているのである。

WHOの1998年5月のダイオキシン会議は、一生取り続けても癌にかかるような健康への影響のない、ダイオキシンのTDI(耐容摂取量)を1〜4ピコグラム/kg/dayにするように勧告した。会議では、この数値に到達するために実験動物に問題を生じさせて、また10倍の安全率で減じた最も低レベルの観察値を用いた。このような状況では、100倍の安全率を用いるのが一般的である。しかし、そうしないように要求した学者によれば、もしWHOが100倍の安全率を適用すれば、これまでの産業国の食物供給の大半は、危険なやり方がなされていたいため汚染されていたと発表していたであろう。しかし、彼らは政治上の理由からそうしなかった。

彼らが採用した中間値(1〜4ピコグラム/kg/dayからすると)は2.5ピコグラム/kg/dayでWHOが1990年に勧告した10ピコグラム/kg/day(TDI)よりも4倍低い数値である。5月の会合で勧告されたTDIでは、70kg(154ポンド)の成人一人あたり175ピコグラム/日あるいは175×365日で63,875ピコグラム/年になる。ダイオキシン1ピコグラムは、大衆の健康には意義があることを知っているので、アメリカの産業界が毎年排出している3,000グラムのダイオキシンがかなりの量であるということがわかる。

仮にそれをピコグラムに換算して、アメリカの2億6千万の人々で割算すれば、3000グラムのダイオキシンTEQは、毎年アメリカの男性、女性、子供一人当たり1、100万ピコグラムのダイオキシンTEQ換算になる。

1998年5月にWHO会議に出席した科学者らは、動物実験に基づいて以下の結果が人間に予想されると結論づけた。精子減少が14ピコグラム/kg/日の毎日のダイオキシン摂取で予想されるだろう。機能障害や子宮内膜症が21ピコグラム/kg/日、免疫システムの抑制が37ピコグラム/kg/日、(文献3のp25)の摂取で予想される。1998年5月のWHOの会議では、2〜6ピコグラム/体重1kgの摂取で、現在ある先進国の国民に微妙な影響がすでに起こっていることを認めた。それゆえ、WHOの公表した声明によると(文献3)、WHOの会議は可能な限り最も低いレベルにダイオキシン排出を抑制するようにあらゆる努力をすべきであると勧告した。

みなさん、ダイオキシンについてヨーロッパからのニュースでがっかりしないで下さい。我々は結論を出します。

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参考文献

[1] Jean A. Grassman and others, "Animal Models of Human Response to Dioxins," ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES Vol. 106, Supplement 2 (April 1998), pgs. 761-775. There are 75 polychlorinated dibenzodioxins (PCDDs), the most potent of which is TCDD; plus 135 polychlorinated dibenzofurans (PCDFs), plus 9 PCBs (polychlorinated biphenyls) that are structurally similar to PCDDs and PCDFs.

[2] Douglas B. McGregor and others, "An IARC Evaluation of Polychlorinated Dibenzo-P-dioxins and Polychlorinated Dibenzofurans as Risk Factors in Human Carcinogenesis," ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES Vol. 106, Supplement 2 (April 1998), pgs. 755-760.

[3] "Executive Summary; Assessment of the health risk of dioxins: re-evaluation of the Tolerable Daily Intake (TDI); WHO Consultation, May 25-29 1998, Geneva, Switzerland." World Health Organization, WHO European Centre for Environment and Health, International Programme on Chemical Safety, Final December, 1998. This paper is marked as follows: "This report does not constitute a formal WHO publication. It should not be quoted or cited and is for personal use only!" However, see http://www.who.org/inf- pr-1998/en/pr98-45.html, a WHO press release announcing the results of the May meeting. We can send the WHO paper free as an Adobe acrobat file to anyone who requests is by E-mail. If you want the paper by U.S. mail, please send $3.00 to cover postage and handling to Rachel's, P.O. Box 5036, Annapolis, MD 21403 with a note saying what you want.

[4] Heiko Becher, Karen Steindorf, and Dieter Flesch-Janys, "Quantitative Cancer Risk Assessment for Dioxins Using an Occupational Cohort," ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES Vol. 106, Supplement 2 (April 1998), pgs. 663-670.

[5] H. Muto and Y. Takizawa, "Dioxins in Cigarette Smoke," ARCHIVES OF ENVIRONMENTAL HEALTH Vol. 44, No. 3 (May/June 1989), pgs. 171-174.

[6] U.S. Environmental Protection Agency, THE INVENTORY OF SOURCES OF DIOXIN IN THE UNITED STATES [EPA/600/P-98/002Aa External Review Draft] (Washington, D.C.: U.S. Environmental Protection Agency, April, 1998).

[7] Nadine M. Brown and others, "Prenatal TCDD and predisposition to mammary cancer in rats," CARCINOGENESIS Vol. 19, No. 9 (1998), pgs. 1623-1629.


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