「ダイオキシンが歯の発育に与える影響について」


1999年2月20日

CSN #007

科学ニュース 1999年2月20日、 By J.Raloff                 

1980年初頭、フィンランド人のある歯科医は、軟化し変色した大臼歯を持っている若い患者が多いことに気が付いた。また彼女は、その歯が幼児の時から外観上の異常があることに気づいていた。また、その歯はゴム状になっており、子供達はある有害物質に暴露されてきたと考えられる。 

「原因となる有害化学物質は、母乳に含まれるダイオキシン類であろう。」とヘルシンキ大学歯学部のサトゥ・アラルーシャさんは言っている。彼女は今週の記者会見で彼女の研究グループの発見について説明した。 

世界中の疫学研究者らは、高濃度のダイオキシン類に暴露することで、子供の歯においてアラルーシャさんが観察したものと同じような茶褐色の変色が生じることを報告してきた。アラルーシャさんは、彼女が観察した歯の異常が同じダイオキシン類で発生するのかどうか確かめるために、大人のラットを最も毒性が強いダイオキシン類(2,3,7,8−TCDD)に暴露した。そして、「私たちは、同じような歯の異常を観察しました。」と彼女はサイエンスニュースで報告しました。

 人間の大臼歯が影響を受けるには、幼い頃から有害化学物質に暴露し始めていなければならない。アラルーシャさんは、母乳に関するWHOの過去6年間の研究資料を調査した。彼女は、ダイオキシンやフラン類などの化合物の母乳中の濃度が、最近の子供達に現れている大臼歯の異常発生と関係していることを見出した。全般的に、102人の子供のうち、17人の子供の歯において、一生涯残るようなひどい軟化現象と変色が起こっていた。 

1月16日のランセット論文で、アラルーシャさんの研究チームは、子供の歯の異常が高い割合で発生しているのは、母乳中のダイオキシンの影響であると報告している。ポリ塩化ビフェニール(PCB)や他のダイオキシン類など人間にとって何の役にも立たない物質によって母乳は汚染されている。 

また、そのグループはダイオキシンに研究の的を絞った。細胞状の受容体といった表皮の成長要因に関わり、組織細胞の発育因子に重要な働きを行っている受容体(EGFレセプター)は、これらの化学汚染物質に影響を受ける。 

研究者らは正常なラットから、EGFレセプターの遺伝子がまだ活動状態にあるラットの歯の組織細胞を除去した。高濃度の2,3,7,8−TCDDに暴露すると、EGFレセプターを生み出すことができる組織だけが明らかに欠陥を持つ構造へと変化した。そのことを彼らは1998年12月に実験室での調査結果として報告した。 

「フィンランドの研究チームの新しい研究データは、科学的にみてとてもエキサイティングであるとともに、人間の健康に大きな関係がある。彼らはわずかな濃度のダイオキシンに暴露しても、歯の発育に対して影響があることを証明した。」とEPAの毒性研究者であるリンダ・バーンバウムさんは言っている。 

実際に、フィンランド人女性の母乳の脂肪分から最大258ppt、平均50pptのダイオキシン濃度を検出した。またそれは、アメリカ国民の母乳中の脂肪分に含まれるダイオキシン濃度の検出範囲内にあると彼女は述べている。 

さらにバーン・ボウムは以下のことを述べている。「動物実験で歯の発育異常がみられたように、ダイオキシンは発育中の様々な組織細胞中にあるEGFレセプターの数を変化させることができる。そのような研究報告がたくさんあるため、EGFレセプターが歯の異常に関与していると考えることは、最も確からしいことである。」 

<出典>

科学ニュース、Vol.155, No.8, p119.

1999年 2月20日

<参考文献>

1)Alaluusua, S., et al. 1999. Developing teeth as biomarker of dioxin exposure. Lancet 353(Jan. 16):206.

2)Partanen, A.-M., S. Alaluusua, et al. 1998. Epidermal growth factor receptor a mediator of developmental toxicity of dioxin in mouse embryonic teeth. Laboratory Investigation 78(December):1473.

3)Alaluusua, S., et al. 1993. Exposure to 2, 3, 7, 8-tetrachlorodibenzo-para-dioxin leads to defective dentin formation and pulpal perforation in rat incisor tooth. Toxicology 81:1.


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