遺伝子組み替え食品について(その2)


1999年2月24日

CSN #008 

レイチェルの環境と健康(#638)  

1999年 2月18日

―――我々の意に反している―――

<要約文>

地球のライフサイクルの中に遺伝子組み替え作物を導入しようとしているメーカーは、遺伝子組み替え技術を開腹手術と同じようなものだと思わせようとしている。事実、遺伝子組み替え技術は、ある組織から別の組織へと遺伝子をセットするので、ロケットやテレビを作る時の部品の組立と同じだという印象を与える。しかしこれは大きな見当違いである。

基本的に植物遺伝子はブラックボックスであり、中がどうなっているかわからない。遺伝子組み替え技術は、新たな遺伝子が誕生したかのように、あるブラックボックスから1つの遺伝子を取り出し、他の植物のブラックボックスへとその遺伝子を移植するが、ほとんどの場合その実験は失敗する(文献1)。何千回かに1回の割合で成功し、新しく改良された植物が誕生する。しかし全ての科学者らは、遺伝子組み替えが行われた植物の中に新たに入ってきた遺伝子には、実際にはそれが存在できる場所がないと考えているのだ。このような科学者らの愚かさは、遺伝子組み替え作物が地球上のライフサイクルの中に瞬く間に広がることに結びついたのである。そしてこのことは、将来の農業、環境、人間の健康への安全性について不安を抱かせる。

* 第一に、遺伝子が植物をコントロールする性質は1つでないということである。遺伝子は植物の中で、数種の異なった性質をコントロールする働きがある。細心の注意をはらって研究しないと、望ましくない性質をもった植物が誕生するかもしれない。バイオテクノロジーは、こぼれた化学物質をモップで拭き取れるような簡単なモノではない。一度、自然界に新たな遺伝子が導入されれば、我々の子孫まで二度と元に戻すことはできないのである。

* 遺伝子が植物に及ぼす影響は、その植物の周囲の環境によって異なる。同じ遺伝子であっても、その遺伝子を組み込んだ植物が成育する環境によって異なった影響が出る(文献2)。数年間小さな実験場で実験し、影響がないと観察されたとしても、数百万エーカーの広大な面積をもつ米国やその他の場所の農耕地で行われた場合には、全く異なった結果となるであろう。

* 遺伝子は、自分自身の力で関連する植物に移動することができる。このことは遺伝子フローと呼ばれている。1996年に遺伝子フローについて、それまで一般的に考えられていたことよりも、さらに多くこことが発見された(文献3)。

科学誌「サイエンス」によると、遺伝子が目的の種に移動する前に、新しい雑草を作り出したり、すでに生えている雑草を活性化させることが問題だと多くの生態学者は言っている。「そのような状況が作物に起こる確率は1%未満であろう。」とカリフォルニア州立大学の遺伝子学者であるノーム・エルストランドは警告する。「しかし、10年以内にかなり多くの遺伝子組み替え作物が導入されるので、我々は多大な生態系への打撃を被るだろう。」(文献3)とエルスランドは予言する。アメリカ合衆国の農民は、雑草を除去するために必要な6億2800万ポンドの除草剤を買うために、43億ドルもの費用を使っている。(文献4、p32)

技術評価会議(OTA)は、全ての遺伝子組み替え種子は、生態系を破壊する力を持つ、人工的に作られた種子であると考えるべきだとしている(文献4、p29)。人工的に作られた種子は人類に多大な利益を与えてきた。しかしながら、人工的に作られた種子は混乱を引き起こし、それを抑制するには大きなコストがかかるということを、クズ、紫色のトラノオ類、マイマイ蛾、蟻、ワタノミゾウムシなどの例から我々は学ぶべきである。

1996年に、ある研究者がブラジルナッツから大豆に遺伝子を組み入れる改良実験を行ったが、それは実用化されずに一般大衆への大惨事は避けられた(文献5)。改良実験の目的は、メチオニンというアミノ酸がより多く発生するように大豆を改良することであり、大豆の栄養価を向上させようとするものであった。ブラジルナッツからの遺伝子を大豆に組み込むことはできたが、その大豆が市販される前に、ある研究者が人間へのアレルギー反応について試験を行った。一般に多くの人々が、特にブラジルナッツに対してアレルギー反応を示す。ブラジルナッツのアレルギー反応は素早く、致命傷となる人もいるのである。

実験室レベルで繰り返し行われた人体実験では、ブラジルナッツの遺伝子が組み込まれた大豆によって、人間に対するアレルギー反応が確認された。つまり科学者らは、アレルギー反応が起きないように、ブラジルナッツの遺伝子を大豆に組み込むことができなかったのである。また、皮膚への反応試験でも人間に対するアレルギー反応が確認された。「NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE」に掲載されていた研究者らのコメントによると、動物実験では遺伝子組み替えが行われた組織に対するアレルギー反応は、発見できないだろうと指摘していた。また確認できる唯一の方法は人体実験であるだろうと指摘していた。

米国食品医薬品局(FDA)は、仮にある遺伝子が人間に対してアレルギー反応を示すとわかっているのであれば、その遺伝子を組み込んだ作物のアレルギー反応性のテストは行われるべきだとしている。バクテリアなどの微生物から採取された遺伝子の大半は、そのアレルギー反応性がよく知られていない。また、連邦の法律でもこのような場合でのアレルギー反応性試験を要求しないのである。

** 遺伝子組み替え作物は、殺虫剤を拡販するために利用されている(レイチェルニュース#637)。新たな毒素を組み込まれた遺伝子組み替え作物が、殺虫剤に変化した例もある。殺虫剤であるブロモキシニルが、その例である(文献1、p41)。ブロモキシニルは発癌性物資であり、出生児に奇形を生じさせる物質であるとEPA(米国環境保護庁)によって認定されている。モンサントに所属するカルジーンは、ブロモキシニルを直接噴霧しても枯れることのない、BXN綿と呼ばれる綿花を開発した。しかし不運なことに、ブロモキシニルに対する抵抗力を有するために組み込まれた遺伝子は、DBHAと呼ばれる化学物質をの副産物として生み出した。DBHAの毒性は、少なくともブロモキシニルと同レベルである。

人間は綿花を食べないが、牛に与える貯蔵用の牧草には最大50%の綿片が含まれている。ブロモキシニルやDBHAは、脂肪分によく溶けるので、動物の脂肪分に蓄積する。そのためDBHAは、食物連鎖を通じて肉類から人間の体内に入ってくる。さらに、綿種油は人間の食物や料理として広く使われている。BXN綿の許可申請に対する審査において、EPAはDBHAが食物連鎖を通じて人間の体内に取り込まれる可能性はないと仮定したリスク評価を行った。殺虫剤の危険性を低減するとされている遺伝子組み替え技術だが、先の例のように、その危険性が増加することであろう。

ラットやウサギの実験では、ブロモキシニルは生まれてきた子供の脊骨、頭骸骨、頭の水に変化を引き起こすことがわかっている。これらの出生異常は、母親に対して毒性を発現しない量のブロモキシニルを投与することによって発生している。

どうみてもEPAは、一般大衆の健康を守るよりも、新しい技術に投資するモンサント社を保護することの方が大事なようである。

* 遺伝子組み替えが行われた大豆には、多量の除草剤が散布されるので、大豆や醤油には大量の化学物質が残留するだろう。豆乳で育てなければならない乳児は特に危険にさらされることになる。

* 除草剤への抵抗力を強化するために遺伝子組み替えが行われた作物は、未知の蛋白質を生み出して除草剤を解毒しようとする。それは我々の食物に未知の物質が誕生する事を意味している。

* 自然界に存在するBt毒素が植物細胞のセル中に組み入れるということは、Bt毒素を含む作物から製造された食品には、Bt毒素が含まれるということを意味している。

* 「生命化学」を名乗る会社は、遺伝子組み替えが行われた農作物を用いて特殊な化学薬品を生み出す工場を作る計画をたてている。彼らは植物に正しく遺伝子を組み込むことで、ワクチン、薬、洗剤酵素などの化学薬品を製造する計画をたてている。

遺伝子組み替え作物から化学薬品が生み出されると言うことは、土壌中に生息する昆虫、微生物、動物、種子を食べている鳥は、これらの化学物質に暴露されることになる。植物を食べる草食動物は、化学薬品を摂取だろう。また土壌中の微生物や昆虫、ミミズも同じである。そして、化学薬品を取り込んだ水生生物が湖や川へと流れ出るのである。

* 基本的に遺伝子組み替え技術は自然の知恵がヒントになっている。遺伝子組み替え作物は、すでに数千エーカーの面積に栽培されていおり、農業システムの多様性は減少しつつある。我々の農業システムが長期にわたって安定するために「正しく作用する遺伝子を選択する方法」を我々は知っているのだろうか?。近年におけるPCB、CFC、DDT、枯れ葉剤、地球温暖化などの経験は我々に驚異を与えた。遺伝子組み替え技術という人間が生み出した最も強力な技術は、歴史的に次から次へと大規模な災害を生み出した企業によって全世界に導入されようとしている。

<参考文献>

[1] Marc Lappe and Britt Bailey, AGAINST THE GRAIN;
BIOTECHNOLOGY AND THE CORPORATE TAKEOVER OF
YOUR FOOD [ISBN
1567511503] (Monroe, Maine: Common Courage Press, 1998).
Available from Common Courage Press, P.O. Box 207, Monroe, ME04951.
Tel. (207) 525-0900 or (800) 497-3207.

[2] Craig Holdrege, GENETICS AND THE MANIPULATION OF LIFE: THE
FORGOTTEN FACTOR OF CONTEXT (Hudson, N.Y.: Lindisfarne Press,
1996). ISBN 0-940262-77-0. Available from Lindisfarne Press, RR4
Box 94 A-1, Hudson, NY 12534.

[3] James Kling, "Could Transgenic Supercrops One Day Breed
Superweeds?" SCIENCE Vol. 274 (October 11, 1996), pgs. 180-181.

[4] Jane Rissler and Margaret Mellon, THE ECOLOGICAL RISKS OF
ENGINEERED CROPS (Cambridge, Massachusetts: MIT Press, 1996).

[5] Julie A. Nordlee and others, "Identification of a Brazil-nut
Allergen in Transgenic Soybeans," NEW ENGLAND JOURNAL OF
MEDICINE Vol. 334, No. 11 (March 14, 1996), pgs. 688-692.


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