塩素化合物に関する最新情報


1999年3月9日

CSN #013

レイチェルの環境と健康(レイチェルニュース)#640より

By Rachel-Weekly, ---March 4, 1999---

 最近の研究により、乳癌や歯の腐食といった人間の病気に、塩素化合物が関係していることが明らかになった。塩素化合物の発明は、我々が新しいテクノロジーを採用する場合に、どのような結果がもたらされるかを考慮しなかった人類の最初の事例である。

乳癌について

 乳癌と塩素系殺虫剤ディルドリンの関係について、デンマークの最近の研究が明らかにした(文献1)。その研究では、1976年にコペンハーゲン市の胸部の研究に登録している7712人の女性から採取した血液を分析した。その後の17年間で、そのうちの268人の女性に乳癌が進行していた。 

1976年に採取された血液サンプルは、1993年に分析が行われた。そこでは28種類のPCB(ポリ塩素化ビフェニール)化合物と、DDT、マイレックス、アルドリン、ディルドリンなどの18種類の塩素化合物といった、合計46種類もの塩素化合物を測定した(文献2)。それらの化合物の内、乳癌が進行した女性の血液中にディルドリンがかなり多量に含まれていた。また、β−HCH(β−ヘキサクロロシクロヘキサン)も乳癌が進行していない女性の血液と比べると、乳癌が進行した女性の血液中には多量に含まれていた。しかし、その発見は統計的な数値としては、あまり意味のないものであった。

 デンマークでは、全女性の14%(7人に1人)に乳癌が進行している。またそれは、30年間で2倍以上になった。

 大部分の乳癌発生の危険因子は、女性の血液中のエストロゲン(女性ホルモン)が関与しており、このエストロゲンが乳癌発生に重要な役割を果たしている。一般的に、乳癌発生の危険な時期は、初潮初期、月経閉止末期、第1子の妊娠末期、月経閉止期後のホルモン置換処理時であり、これらが重要な時期である。これら全ての時期では、女性が血液中に循環しているエストロゲンに暴露するのを増加する傾向にある。

 先のコペンハーゲンの研究において、血漿液中のディルドリン濃度が最大である女性は、最小である女性に比べて乳癌発生リスクが2倍であることを見出した。またさらに、もっと多くのディルドリンが血液中にあると、乳癌への進行度合いが大きくなるという事実を突き止めた。

他の過去の研究においても、乳癌発生と有機塩素化合物を関連づけた研究報告があるが、ほとんどの場合、それらの関連づけを示していなかった。(REHW #571〜#575)

 コペンハーゲンの研究論文の著者は、「この研究は、個々人の血液中の血漿濃度変化を完全に調節しているので、血液中の有機塩素化合物の濃度を適切に比較検討した最初の研究だ。またこれらの発見は、疑似エストロゲン物質への暴露が、乳癌リスクを増加させるかもしれないといいう仮説を支持するものだ」と言っている。疑似エストロゲン物質は、人間の体内でエストロゲンのように作用する工業薬品(例えば殺虫剤)である。

 デンマークやアメリカ合衆国では、ディルドリンの使用が約20年前に禁止されている。しかし現在の工業化社会では、未だに人間の体内には、数百もの微量の工業薬品が蓄積されており、ディルドリンもその中の1つである。また、それらの多くは塩素化合物である。

 

ダイオキシンについて

ここ数年間、アメリカ合衆国やヨーロッパ諸国の厚生担当局は、化学物質に敏感な人々に対して健康への影響をもたらすレベルのダイオキシンに、一般の人々が暴露していることを示してきた(REHW #390、#391、#636)。最近、連邦毒物疾病登録機関が好ましくない情報を確認した。

ダイオキシン類は、219種類の異なる毒性を有する塩素化化合物の総称である。それらの化合物の性質は類似しているが、毒性能力は異なっている。

ダイオキシンのうちのいくつかは他のダイオキシンよりも強い毒性を有する。科学者らは、TEQ(毒性等価係数)と呼ばれる、いろんな種類のダイオキシンが混合された混合物の毒性と量を比較する方法を確立した。TEQシステムは、毒性の種類を明確にするために用いられ、最も毒性の強いダイオキシン(2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン;TCDD、)の毒性に換算してどれくらいの量かというように表現される(文献3)。

ダイオキシンは猛毒で、都市ごみ、医療廃棄物、有害ごみの焼却や、金属精錬、化石燃料の燃焼や、殺虫剤や化学薬品の製造などの工業プロセスから不要の副産物として生成される。(REHW #636)

私たちは魚、肉、ミルク製品を摂取することによってダイオキシンに暴露している。菜食主義者の人は、一般の人々よりもダイオキシンへの暴露は少ないだろう。しかし、大気中から降り注ぐダイオキシンによって、ダイオキシンへの暴露がゼロになることはない。

昨年12月にアトランタで、連邦毒物疾病登録機関(ATSDR)は、待望の「塩素化ジベンゾ−p−ダイオキシンの毒性プロファイル」という最終報告書を発表した。その報告書は、1991年から検討されてきたものである。最終報告書でATSDRは、ダイオキシン暴露に対する最小リスク濃度(MRL)を確立している。ATSDRは、MRLは人々が毎日摂取しても健康に影響がない全ダイオキシン類の量(TEQとして表現)であるとしている。

ダイオキシン類への長期的な暴露に対するATSDRの公式なMRLは、1ピコグラム/kg/日(ダイオキシン類のTEQ換算)である(文献4、p264)。ATSDRによると、その数値は、現在のアメリカ市民の平均暴露量は、ここで言う安全レベルに対して3〜6倍高い数値である(文献4,p253)。(1ピコグラムは1兆分の1グラム、1オンスは28グラム)

ATSDRの報告によって、私たちはもしかすると現在のダイオキシン類への暴露によって、健康を害しているのではと考えさせられる。

ATSDRが、ダイオキシン類の最終報告書を公表した直後に、新しい研究が報告された。その報告によれば、人々が現在の環境中のダイオキシン濃度に暴露した結果、歯の成長に何らかの影響を与えるというのである(文献5)。

新しい研究は、10年間ダイオキシンについて研究しているフィンランドの歯科医によって行われた。1980年初頭、彼らは多くの子供達が、変色し軟化した発育不十分な大臼歯を持っていることに気づいた。正常な歯にみられる固いエナメル質は、歯から朽ち果てたように中途半端な発育をしていた。

子供達は幼い頃に有害物質に暴露したため、正常な歯の成長が妨げられたのだと彼らは仮定した。

偶然にも高濃度のダイオキシン類に暴露した母親から生まれた中国人の子供は、フィンランド人の子供とよく似た歯の異常を示していた(文献6)。手がかりを得るためにフィンランドの歯科医は、低濃度のダイオキシンにラットを暴露する実験を始めた。すると、中国やフィンランドの子供に観察されたのと同じ歯の異常が、ラットにおいても観察されたことを発見した(文献7)。

次に彼らは、年齢が6〜7歳である102人のフィンランド人の子供を研究した。その子供の母親の母乳に含まれるダイオキシン量は、子供が生後4週目の時に測定した。102人の子供のうち、17人の子供(16.6%)の歯は軟らかく、エナメル質の状態が歯を腐食から保護できないような状態になっており、まだら模様の大臼歯を有していた。もし、歯のエナメル質が十分に発育しなければ、エナメル質というものは後から成長するものではないので、一生涯歯は朽ち果ててしまうことが多い。

フィンランドの研究は、異常な歯を有する子供と、母乳中に高濃度のダイオキシンをもつ母親からの出生との関連付けを確認した発見である。

研究者らは、分類上ダイオキシン類に含まれているPCBの影響を識別するために、PCB単独での影響を試験した。そして、PCBが子供の歯の異常に無関係であることを見出した。

「フィンランドの研究チームの新しい研究データは、科学的にみてとてもエキサイティングであるとともに、人間の健康に大きな関係がある。彼らはわずかな濃度のダイオキシンに暴露しても、歯の発育に対して影響があることを証明した。」とEPAの毒性研究者であるリンダ・バーンバウムさんは言っている。

 ATSDRによると、米国などに住んでいる人々の多くは、平均レベル以上のダイオキシン類に暴露している(文献4、p485−497)。

 * ミズーリ州のタイムビーチに住んでいる人々のように、職業上や地域の環境汚染により、ダイオキシンに暴露している人々。

 * 都市ごみ、医療廃棄物、有害ごみを焼却する焼却炉の近く、あるいは石炭燃焼火力発電所の風下に住んでいる人々。

 * ダイオキシンが検出されたため指定された110のスーパーファンド区域の近くに住んでいる人々。(スーパーファンド区域とは、連邦政府が、人々の健康に影響を及ぼすと定めた化学物質汚染区域である。) 

 * 五大湖地域でスポーツフィッシングを楽しんでいる人々は、おそらく高濃度のダイオキシンに暴露しているだろう。ヒューロン湖が最も汚染レベルが高く、その次がミシンガン湖、最も汚染レベルの低い湖がエリー湖である。

 * 現在、66の魚を研究した報告により、アメリカ合衆国の22の州でダイオキシンに汚染された魚が問題になっている。これらの州は、ニューヨーク州、ニュージャージー州、メーン州である。この報告では、これらの州の沿岸海域において、魚が汚染された海水の影響を受けていると報告している。また、そのためダイオキシンによって汚染された魚の摂取を制限するよう警告している。

 * アメリカの先住民は、我々よりもたくさんの魚を食べる。このような環境下では、魚が低レベルのダイオキシンに暴露していたとしても人体に有害になり得る。

 * ごみ焼却炉や金属精錬工場などのダイオキシン発生源の風下に暮らしている農民は、彼らが自分の農場で飼育した家畜の肉や乳製品を食べることによって、高濃度のダイオキシンに暴露するだろう。

 * 汚泥を含んだ土壌で育った農作物を食べる人々は危険にさらされている。ATSDRによれば、「都市の下水による汚泥や、製紙工場から発生する汚泥を含んだ土壌で育てられた作物や、そこに生えている草を食べた家畜を食べることによって、ダイオキシンに暴露する可能性がある。」(文献4、p497)

 * また、「つい最近マクラーレンは、イギリスの農場では、ある一定の条件下であれば、土壌改質剤として汚泥を使用することができる期間を延長したが、それは土壌やそこで育った牛のミルクなどの食品中におけるダイオキシン濃度の増加に結びつくであろうと報告した。」(文献4、p497)

 
 
みなさんへ質問です。

人類は未来を変えることができるでしょうか? 我々は、無知な人々による判断によって、自らを滅ぼすように定められているのだろうか? 塩素化合物を使用するような重大な過ちを避ける社会構造(例えば強いインパクト与えるような環境分析システム)があるのだろうか?

 <参考文献>

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[1] Annette Pernille Hoyer and others, "Organochlorine Exposureand Risk of Breast Cancer," LANCET Vol. 352 (December 5, 1998),pgs. 1816-1820.

[2] The 18 organochlorines are: mirex; dieldrin; aldrin; endrin;alpha-chlordane; gamma-chlordane; heptachlor; heptachlorepoxide; oxychlordane; transnanochlor; gamma-hexachlorocyclo-hexane; beta-hexachlorocyclohexane (beta-HCH); hexachloroben-zene (HCB); o,p'-DDT; o,p'-DDE; p,p'-DDT; p,p'-DDE; p,p'-DDD.

[3] M. Van den Berg and others, "Toxic equivalency factors(TEFs) for PCBs, PCDDs, PCDFs for humans and wildlife,"ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES Vol. 106, No. 12 (December1998), pgs. 775-792.

[4] Agency for Toxic Substances and Disease Registry,TOXICOLOGICAL PROFILE FOR CHLORINATED DIBENZO-P-DIOXINS(Atlanta, Ga.: U.S. Department of Health and Human Services,Public Health Service, Agency for Toxic Substances and DiseaseRegistry, December, 1998). Available from ATSDR; telephone1-888-42-ATSDR or (404) 639-6357. 

[5] Satu Alaluusua and others, "Developing Teeth as a Biomarkerof Dioxin Exposure," LANCET Vol. 353 (January 16, 1999), pg.206. 

[6] B.C. Gladen and others, "Dermatological findings in childrenexposed transplacentally to heat-degraded polychlorinatedbiphenyls in Taiwan," BRITISH JOURNAL OF DERMATOLOGY Vol. 122,No. 6 (June 1990), pgs. 799-808. 

[7] A. M. Partanen and others, "Epidermal growth factor receptoras a mediator of developmental toxicity in mouse embryonicteeth," LABORATORY INVESTIGATION Vol. 78, No. 12 (December1998), pgs. 1473-1481. 

[8] J. Raloff, "Dioxin can harm tooth development," SCIENCE NEWSFebruary 20, 1999, pg. 119. 


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