癌との戦い


1999年3月16日

CSN #016

レイチェルの環境と健康(レイチェルニュース)#641より

By Rachel-Weekly, ---March 11, 1999---

1996年、アメリカ健康サービス(Health and Human Services)のドナ・シャラーラ(Donna Shalala)長官は、癌との戦いがついにある結果を示したと宣言した。「これは25年にわたる癌との戦いの転換期だ。また全てのアメリカ人によって喜ばしいことだ。」と彼女は言った(文献1)。癌による死亡率が、1991年から1995年の間で、2.6%低下したという事実を強調するために、彼女は大々的に公式宣言を行った。このような癌による死亡率の低下は、1930年以来その数値を把握してきたアメリカ政府にとって初めてのことだった。

男性の肺癌や前立腺癌、女性の乳癌や子宮癌は低下し、男性女性どちらにおいても結腸癌や直腸癌による死亡率が低下した。これらの癌は最も一般的な癌であるので、彼女らは癌死亡率が低下したと考えたのだ。

信頼できる研究によると、癌による死亡のほとんどは検死が行れていないし、検死率は近年低下してきている。そのため我々は、彼女らの宣言に対して疑問を抱いている。

しかし議論を進めるために、政府のいう2.6%の低下率が正しいと仮定しよう。

ドナ・シャラーラ長官は良い状況だと報告するが、詳しくみると癌の実状はまだまだひどいものだ。癌は1998年に初めて1,228,000人のアメリカ人を襲い、564,800人のアメリカ人が1998年に死亡した(文献2)。一生涯において癌にかかる確率は、男性が48%(2人に1人)、女性が38%(10人に4人)である。つまり、我々が癌との戦いに勝利宣言をするにはほど遠い状況にあるのだ。

さらに、ドナ・シャラーラ長官の報告では公平な数値の取り扱いがなされていない。例えば、1991年から1995年における癌による死亡率の低下で最大のものは、アフリカ系アメリカ人において発生したものだ。黒人では、癌による死亡率が1991年から1995年の間に5.6%低下した。またそれは特に黒人男性でみられたもので、黒人男性では黒人女性に比べて8.1%も低下したのである。また黒人女性ではこの時期に2.5%低下した。

白人男性に比べて黒人男性の癌による死亡率は40%も高く、白人女性に比べて黒人女性の癌による死亡率は20%も高いのである(文献1)。

どうして黒人の方が白人よりも癌による死亡率が高いのだろう?。「治療にほとんど行かず、積極的に処置しようとしないからだよ。」国立癌研究所のディレクターであるリチャード・クロウスナー(Richard Klausner)はそっと呟いた(文献1)。積極的に処置しない??。いや、医者の多くは黒人に対して最高レベルの治療を施さない。たぶんこれは、白人より貧しい黒人が多いことと、黒人と白人に対する価値観の解釈(たぶん潜在意識としてもっている)の違いから生じているのであろう。

「癌研究の権力者たち」は、前出の癌による死亡率低下2.6%の数値のうち約半分は、喫煙率の低下や健康的なダイエット、健康的な運動などの「生活様式の変化」によるものだと説明している。また、残りの半分は、化学療法、放射線療法、手術などの医療技術の進歩によるものだとしている。

また、ボストン大学のリチャード・クラップ(Richard Clapp)は、心臓病は喫煙や、非健康的なダイエットや非健康的な運動が要因で発生していると指摘している(文献4)。これらの要因を改善することで、心臓病による死亡者数は過去25年間で49%も低下した。心臓病と癌が同じ要因で起こるとすると、癌による死亡率が高いままなのは何故だろう?。癌は老齢期の病気だというだけでは説明できない。心臓病も老齢期の病気である。癌になる要因には「生活様式」以外に何があるのだろう?。それは非常によい質問だ。

国立癌研究所(NCI)が1990年の癌防止小冊子「題目: EVRYTHING DOESNT CAUSE CANSER」で以下のように述べている。「癌の多くは発癌物質への暴露を抑えることで阻止できるだろう(文献5)。」NCIは、人間に対して発癌を示す30の化学物質や産業プロセスを確認している。さらにNCIはこのようにも述べている。「動物に対して発癌を示す数百にも及ぶ化学物質のうち、どれが人間に対しても発癌物質であるかわからなかった。しかしある動物において癌を引き起こす物質が、他の動物にも発癌物質であることが一般的に認められる。このため我々は、動物に対して発癌を示す物質は、人間に対しても発癌物質であると想定すべきである。」

NCIは、現在産業で用いられている7万もの化学物質の中から、発癌性の低い化学物質を正確には確認できないと説明している。一般的な化学物質による発癌性確認試験として、「男女別に、約50匹のネズミやラットのグループに対して、約2年間それぞれ適量の化学物質を投与する試験」が行われる。この実験の最後には、実験に使われた動物達は癌の確認試験のために殺されるのだ。

NCIは以下のように続ける。「人々の大半は、低レベルの化学物質に暴露している。しかし、そのことはあまり大きなインパクトを与えない。例えば、10,000人の人々が発癌物質に暴露し、そのうち1人に1つだけ腫瘍が発生したとしても、大きなインパクトを与えない。しかし、2億3千万人のアメリカ人が発癌物質に暴露し、23,000人もの人々に癌を引き起こすと考えるべきなのだ。」

さらにNCIは以下のように続ける。「我々はたった50匹のネズミを使って試験するだけでは、10,000人のうちの1人に癌が発生するというような発癌物質を明確に確認することはできなかった。このような低い癌発生率を明確に確認するには、数万のネズミを必要とし、試験1回あたり数万ドル以上もの費用がかかる。つまり、数種の化学物質を試験するだけでかなりの費用と時間を費やすのだ。」

NICはまた以下のように指摘する。「例えばネズミの肝臓に癌を引き起こす化学物質は、ラットに乳癌を引き起こすかもしれないし、人間に膀胱癌を引き起こすかもしれない。そのため、発癌物質がどこのどの部分に癌を引き起こすか確認することが難しい。」

発癌物質に安全レベルはあるのだろうか?。NCIは「No」と言っている。「発癌物質に対する暴露に安全レベルがあるという確証はない。またある人には安全であっても、別の人には癌を引き起こすかもしれないのだ。残念なことに科学者らは、人間個々人に対する危険性を評価する手段を未だに開発できていない。このような低レベルの発癌物質への暴露は、全ての人々にとって危険であると考えなければならない。」

ここに癌に関する表がある。表1は、1950年から1995年までの45年間、癌全体において発生率が毎年1.0%ずつ増大しており、また癌による死亡率が毎年0.2%ずつ増加しているということを示している。仮に肺癌を除くとすると、癌発生率の増加は0.8%になる。しかし癌による死亡率は、0.4%の割合で低下している。発生率の増加と死亡率の低下をひとまとめに考えると、人々の多くは癌と共に生きる生き方を学んでいるということを意味している。

<参考文献>

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[1] Mary Jo Hoeksema and Catherine Law, "Cancer Mortality RatesFall: A Turning Point for the Nation," JOURNAL OF THE NATIONALCANCER INSTITUTE Vol. 88, No. 23 (December 4, 1996), pgs.1706-1707.

[2] Lynn A.G. Ries and others, SEER CANCER STATISTICS REVIEW,1973-1995 (Bethesda, Maryland: National Cancer Institute, 1998). 

[3] For example, see the first 19 studies cited in Kevin A.Schulman and others, "The Effect of Race and Sex on Physicians'Recommendations for Cardiac Catheterization," NEW ENGLAND JOURNALOF MEDICINE Vol. 340, No. 8 (February 25, 1999), pgs. 618-626. 

[4] Richard W. Clapp, "The Decline in U.S. Cancer Mortality from1991 to 1995: What's Behind the Numbers?" INTERNATIONAL JOURNALOF HEALTH SERVICES Vol. 28, No. 4 (1998), pgs. 747-755. 

[5] National Cancer Institute, EVERYTHING DOESN'T CAUSE CANCER[NIH Publication No. 90-2039] (Bethesda, Maryland: NationalCancer Institute, March, 1990).

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1

アメリカ合衆国における1995年の癌発生数と癌による死亡数及び、1950年から1995年の間における癌発生数と癌による死亡数(年齢別に調整)の変化率

(全アメリカ国民を10万人に換算して計算している)

癌の種類

 

全ての人種

白人

発生数

死亡数

発生数の変化率

死亡数の変化率

1995

1995

1950-1995

1950-1995

22,800

13,645

-76.6

-79.5

子宮頸部

15,800

4,503

-79.3

-75.1

直腸

38,200

8,053

-26.8

-67.0

結腸

100,000

49,591

+15.4

-19.1

喉頭

11,600

3,871

+41.7

-13.1

睾丸

7,100

314

+109.6

-72.3

膀胱

50,500

11,083

+54.0

-34.8

ホジキン病, 悪性リンパ肉芽腫

7,800

1,431

+15.0

-73.0

小児癌(0-14)

8,300

1,584

+9.8

-66.5

白血病

25,700

20,323

+8.9

-3.5

甲状腺

13,900

1,122

+138.8

-49.9

卵巣

26,600

13,341

+2.4

+0.6

169,900

151,099

+257.0

+261.2

皮膚黒色腫

34,100

6,905

+426.0

+154.4

 

乳癌(女性)

183,400

43,843

+56.1

-5.1

前立腺

244,000

34,475

+204.0

+14.4

腎臓

28,800

11,083

+128.9

+37.2

肝臓

18,500

11,191

+131.1

+30.9

ホジキン病でないリンパ肉芽腫

50,900

22,391

+199.3

+137.0

 

多様性骨髄腫

12,500

10,250

+199.5

+209.1

 

脳腫瘍

17,200

12,062

+80.0

+46.3

膵臓

24,000

26,765

+10.8

+16.7

肺を除く全種類

1,082,100

387,338

+42.1

-16.6

 

 


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