死の町についての研究
1999年3月29日
CSN #021
Source: Rachel-Weekly#643, ---March 25, 1999---
カリフォルニア州Lompocという人口42,000人の町は、ロサンゼルスから約100マイル、カリフォルニア州中心の海岸に沿った谷の中にある。そこには肥沃で平らな農地があり、7マイル西へ行くと太平洋が広がっている。ここの農地は1年中農業を行っており、海岸からの風によって毎年町には多量の殺虫剤が降り注ぐ。
カリフォルニア州環境保護庁(Cal EPA)によれば、Lompocの人々は1993年以来、降り注ぐ殺虫剤と健康問題について裁判で戦ってきた。1989年にLompocに移り住んだ教師George Rauhは以下のように述べている。「最初の2年間、それはものすごいものだった。私はこれまでなんともなかったのに気管支炎になった。周りの人々に尋ねてみると、非常に多くの人たちが、気管支炎、喘息、頭痛、インフルエンザにかかっていた。何か有害なものがあるに違いなかった。」
George Rauhは、“Healthy Valley”というボランティア団体を結成し、アメリカ環境保護庁(EPA)に調査依頼を行った。そして、カリフォルニア州環境保護庁の殺虫剤規制担当部門(DPR)がLompocの谷で使われている全ての殺虫剤の研究を開始した。そして、その谷では50種類の殺虫剤が使われていることを報告した(文献1)。それれの物質の多くは発癌物質や神経系の毒物であった。
1998年6月にCal EPAは、3年間にわたる健康に関する研究報告を公表した(文献2)。
以下その研究報告の概要を述べる。
喫煙者が少ないのに肺癌患者が多いというのは奇妙な現象である。
乳癌、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、女性生殖器の癌、ホジキン病でないリンパ肉芽腫、骨髄腫の発生率も高かったのだが、周囲3都市と比較して1%の有意差検定で有意でないため重要視されなかった。
7種の出生障害を調査したが異常はなかった。
病院の退院患者の病状を調査するため、病状に応じて18のグループに分けた。すると呼吸器疾患と生殖器疾患の割合が高かった。呼吸器疾患のグループは、気管支炎と喘息がほとんどで、周囲3都市と比較すると気管支炎で69%、喘息で58%高かった。他の計測方法を用いた場合でも、周囲3都市と比較して気管支炎と喘息が85%も高かった。気管支炎は老若問わず発生しているが、喘息は成人に多かった。
生殖器疾患のグループでは、異常出生や女性生殖器の癌が発生していた。他の4つのグループでは、女性の乳癌、肺炎、頭痛、脳卒中、呼吸器系の悪性腫瘍の発生率が多いという兆候が見られる程度であった。
異常出生の場合、幼児の呼吸器系疾患にあるパターンが見られた。周囲3都市の幼児と比較して、Lompocの幼児は呼吸器系の疾患で病院に行く割合が2倍以上も高かった。
以上の研究から、さらにCal EPAは研究を開始しようとした。計画ではLompocで1年間50種類の殺虫剤を研究するために大気を監視する予定だった。しかし、その研究には$142,000の資金が必要だった。そのためCal EPAは、1998年末の1ヶ月間に限定し、12種類の殺虫剤の研究を行った。
その研究結果はDPRによって1999年2月に公表された。以下はその概要を示す。
この研究は第1段階であり、この結果からDPRは、これら3つの殺虫剤への暴露はないと考えられると言い切った(文献3)。しかし、この判断が後に問題となる。
ウォールストリートジャーナルは、「殺虫剤はLompocの農民は谷に住んでいる人たちの健康に影響を与えていない。」と報道した(文献4)。これではまるでHealthy Valleyのボランティア団体が間違っていたかのようである。
DPAのデータを受け取り詳細に調査した、カリフォルニア大学の前化学科教授で、現在はサンフランシスコにある殺虫剤監視ネットワークの一員であるSusan Kegley博士は、DPRがミスを起こしていると指摘した。殺虫剤が含まれた空気サンプルは、実際よりもも1/4未満の数値で評価され公表されたのだ。別途データを解析した結果、実に97%の空気サンプルに殺虫剤が含まれていた(文献5)。またSusan Kegley博士によるとDPAはサンプルを採取してから測定するまで6週間も放置しており、そうすると検出結果が低く出る可能性がある。DPRは科学的根拠に乏しいたデータを集約したため誤った判断を行った。
以下Susan Kegley博士のコメントを示す。
マグネシウムとアルミニウムは土壌中に豊富に含まれており、殺虫剤への暴露の指標として過剰な量のマグネシウムとアルミニウムを検出することは、太平洋にバケツ一杯の水を投入してその水の量を検出するようなものだ。つまり、金属を含む殺虫剤を分析する有効な方法ではない。だから、今回の金属分析結果によって暴露されていないと判断できない。(Cal EPAもこのことには反論できない。)
Lompocの人々の健康状態を把握する責任を持っているCal EPAの保健衛生局は、全くの役立たずで真実に基づいていていないことがわかった。
Lompocの人々に関する限り、以下のことが言える。
Cal EPA保健衛生局への疑念
何故、保健衛生局はこの死の町を監視し研究しないのか。
おそらくカリフォルニア州の400万もの人たちは、危険な殺虫剤が年々拡大している地域の近隣に住んでいる(文献7)。
保健衛生局がLompocの出来事に対して真面目に取り組むのであれば、化学薬品を使った農業やそれを発明した化学会社にとってやっかいなパンドラの箱(諸悪の根源)を開くことになるだろう。でも本当にその箱を開けたとすると、それは終わりでなく始まりとなろう。
以下コメント
日本においても政府機関と、民間会社や学術研究機関が測定したデータが異なる場合がたびたび発生する。しかもたいていの場合、政府機関の測定データが低くなる。1999年初頭に埼玉県所沢市で発生した野菜のダイオキシン騒動もこれと同様である。このような結果では、一般市民は公平で正確な判断ができなくなる。両者に対して是非ともサンプリング方法も含め、測定方法と結果を詳細に公開してもらいたいと思う。
参考文献
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[1] See http://www.cdpr.ca.gov/docs/dprdocs/lompoc/lpur_sum.pdf.
[2] Joy A. Wisniewski and others, ILLNESS INDICATORS IN LOMPOC, CALIFORNIA; AN EVALUATION OF AVAILABLE DATA (Sacramento, Cal.: California Environmental Protection Agency, June, 1998). http://www.oehha.ca.gov/archive/getlomp.htm. を訪問して下さい。
[3] www.cdpr.ca.gov/docs/dprdocs/lompoc/lompoc.htm. を訪問して下さい。
[4] Marc Lifsher, "Funding Delay Threatens Air Monitoring," WALL STREET JOURNAL February 17, 1999, pg. CA1.
[5] Susan Kegley, CRITIQUE OF THE DEPARTMENT OF PESTICIDE REGULATION'S PHASE ONE LOMPOC AIR MONITORING (San Francisco, California: Pesticide Action Network, March 1999).
[6] National Research Council, ALTERNATIVE AGRICULTURE (Washington, D.C.: National Academy Press, 1989).
[7] Daryl Kelley and Deborah Schoch, "Health: Ventura County faces more threat from airborne pesticides than all but two counties in state, environmental group says" LOS ANGELES TIMES August 20, 1998, pg. A-3.
<情報源であるレイチェル・ウィークリーについて>
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