ドイツ南エッセンのごみ焼却炉近辺における子供の甲状腺ホルモン濃度


1999年4月4日

CSN #026

1998年の文献ですが、ドイツの学者の重要な研究結果を入手したので紹介します。

情報源: ドイツGesundheitswesen, Osius N, Karmaus W,1998年2月、Vol60(2). p107-112

 

有毒物質を排出するごみ焼却炉(toxic waste incinerator: 以下TWI)近辺での曝露に関する環境疫学的研究として、TWI地域の子供達と、他の地域に住んでいる子供達の甲状腺ホルモン濃度を調査した。

調査地域を以下に示す。

  1. TWI地域

    両側に低い山々があるドイツのライン峡谷(約30kmにもおよぶ)で、化学工場が付近にあり、数々の地方自治体はこのような環境中にある

  2. RVC地域

    ライン峡谷の約20kmほど北にあるある地域で、工業地域や農業地域であるが、ごみ焼却炉はない。

  3. OWC地域

1994年−1995年に、18の地方自治体から671人の子供が参加し(参加率61.5%)、そのうち禁煙家庭、あるいは家の外では喫煙しているが家庭の中では禁煙している家庭に住んでいる、7歳から10歳の341人の子供達の血液を採取した。

チロトロピン(甲状腺刺激ホルモン; TSH)、チロキシン(FT4)、トリヨードチロニン(FT3)の血清濃度を分析した。その間に両親へのアンケート調査を実施し、年齢、性別、禁煙歴、魚の摂取量、家庭での木材防腐剤や殺虫剤使用量に関する情報を収集した。

第1ステップは、統計的手法を用いてTSH、FT3,FT4の濃度が、各地域によってどのような差があるかを確認することだった。そして、その差に有意性が認められれば、第2ステップとして、自治体の違いによる差の有無を確認した。そしてこれらの自治体での傾向が、3つの地域とどのように関連しているかを分析した。

これらの研究の結果、TWI地域は他の地域と比較して、FT3とFT4が減少しており、5%水準の有意差検定で明らかに有意であった。特に、FT3については、以下の結果となった。

TWI地域: 7.7%

RVC地域: 3.2%

OWC地域: 1.2%

1)FT3の結果

TWI地域の9つの自治体のうち、4つの自治体において、他の地域と比較して子供達のFT3の濃度が統計計算上明らかに低かった。しかし、RVC、OWC地域ではそのような結果は7つの自治体のうち1つの自治体からしか得られなかった。

2)FT4の結果

FT4の濃度はTWI地域の4つの自治体において統計計算上明らかに低かった。しかしRVC、OWC地域ではそのような結果は1つの自治体からしか得られなかった。

3)TSHの結果

TSHの差は性別による差が見られ、男子のTSH濃度が高かった。

4)自治体間の地域差傾向

自治体による比較では地域傾向による差はなかった。

 

ごみ焼却炉などの産業上の汚染は、脳下垂体甲状腺に影響を及ぼす可能性がある。末梢甲状腺ホルモン濃度の減少は、PCB(ポリ塩化ビフェニール)、ダイオキシン類(PCDD)、フラン類(PCDF)による曝露との関連性がこれまでの研究で発見されている。今回の研究結果は、子供達のチロキシンやトリヨードチロニン濃度の低下と、有毒物質を排出するごみ焼却炉とが関連していることを示唆している。


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