排泄物による出来事(PART 1


1999年4月8日

CSN #029

Source: Rachel-Weekly, ---April 1, 1999---

 

1996年に人の排泄物、尿、糞便の処理の歴史について述べている本が出版されている(文献1)。この本の原作者は、Abby A. Rockefellerさんである。レイチェル・ウィークリーでは、独自の観点から人間の排泄物についてまとめてみた。

人類は、約1万年前に狩猟や自然の木の実などを採取したりすることによって食物を得る方法に加えて農耕作を始めた。しかし、そのずっと前より人間は、尿、糞便などの排泄物を大地に放出してきた。土壌やそこに生息する生き物(植物、小動物、微生物など)は、それらの排泄物から栄養分を取り入れて、自然のサイクルを築いてきた。そのため、栄養分は自然の循環システムの中で、その大半が地表水に存在するようになり、結果的に自然の水は、窒素やリンのような栄養分が低いものとなっている。つまり、湖、川、海洋では栄養分があまり高くない。十億年以上の歳月を経て、この低い栄養環境が私たちにとって清らかで衛生的と思われる水質環境となっている。

大地の水において、特に窒素やリンなどの栄養分が急激に増えると、水質に劇的な変化をもたらす。例えば、ある種の有機体が増殖したり、藻が繁殖して水が緑色に変化し、水は多様性を失って病気になっていく。

今日、地球の表面水の多くは栄養分の場所が移り病気になりつつある。その主たる原因は、人間が排泄物を放出する場所を誤ったことによる。

昔、人間の文明は排泄物の処理に関して2つの考え方を持っていた。アジア社会の多くは「下肥(しもごえ)」が栄養分に富んだ価値あるものと考えてきた。そして、数千年前からごく最近まで、人間の排泄物を大地の作物の肥料として循環してきた。

しかしヨーロッパ社会では、人間の排泄物に対してあいまいな考え方を持っており、「貴重な肥料なのか?、処理の困るものだ、人間を困らせる問題物だ」などど考えていた。

そのためヨーロッパ社会では、第一段階では住居付近の地面に尿や糞便を投棄してきた。そして人口密度が増すにつれて異臭などで我慢ができなくなり、共同場所を確保した。さらにプライバシー保護のため、屋外便所へと発展したのである。しかしそれは環境面では衛生的ではなく、濃縮された栄養分によって地下水を汚染した。

18世紀後半に配管システムが登場する前、ヨーロッパの町は汚水だめや排水口のない屋外便所に排泄物を保存していた。下肥は腐敗物を常食とする動物によって取り除かれたり、農場に用いられたり、大地に穴を掘って投棄されたりしていた。ヨーロッパ人はアジア人のように下肥の栄養価値を認め、肥料として用いることはなかった。

古代ローマにおいて、富裕なエリートは室内トイレを持っており、下水溝で排泄物を流していた。後にヨーロッパの町は、天然の下水用排水溝(大地に溝を掘っただけのもの)を導入した。しかしその排水溝は、18世紀いや19世紀になっても水の流れがなかったのだ…………。またそれは、町の中心や通りに沿って作られており、ところどころがカバーされているが、そのほとんどが開放されていた。

この腐敗した下水用排水溝は、雨が降るまで流れることはなかった。そして、「嵐の下水溝」と人々に呼ばれた。そして、この下水用排水溝に排泄物を投棄することは多くの町で禁止された。

そして、配管システムの登場により劇的な変化が訪れた。1802年にこの国で最初の配管システムがフィラデルフィアで導入された。1860年には136の町に導入され、1880年には578の町に導入された。

住居の中に導入された配管システムは、屋外に配管をのばして汚水だめに接続しなければならない。そのため汚水だめがオーバーフローし、異臭や水を介した病気が広がる原因になった。この問題を解決するために、汚水だめは町の中を走る天然の下水用排水溝(大地に溝を掘っただけのもの)に接続された。その結果コレラが発生し、1832年にパリでは2万人の人々がコレラで死んだ。住居の配管を開放系下水用排水溝に接続することで、世界中でコレラが勃発した。 

この問題を解決するためにエンジニアは、密閉系下水管システムを設計した。この問題の解決にはエンジニア間で意見が分かれ、農地に下水を投棄する方法と、下水を浄化してその水を湖や川や海洋に配管を使って流す方法が提案された。1910年に結論が出た。下水は大地の水つまり湖、川、海洋に流されることになった。 

町のコレラ感染は収まったが、下水が流された川の下流域の水を飲む人々に、腸チフスが勃発し始めた。これはまたどう処理するかが議論となり、飲み水として使う川に流す前に下水を処理するか、飲み水として川から汲み上げた後に、その水を濾過するかどうかであった。公衆衛生職員は下水を川に流す前に処理する方法を支持した。 

エンジニア達は下水をそのまま川に流し、飲む前に水を濾過する方法を支持した。議論の末、エンジニアが勝ち、町ではフィルターが用いられ始め、飲み水が消毒されたので腸チフス感染は収まった。 

20世紀にアメリカ合衆国及びヨーロッパでは急速に産業が発展した。そして低価格下水処理システムの巨大な需要ができた。下水管システムは公衆が税金を支払っていたので、下水を投棄するには最も安価な場所であった。下水処理能力向上の要求がさらに高まり、産業国では家庭や産業界のニーズに応えるために、町の中心部に下水管システムを集約して処理する処理施設に巨額の投資を行った。 

しかしその結果、排泄部の栄養分は産業廃棄物に混じり、1950年代までに川や湖や海洋などのあらゆる大地の水に、下水管システムから排出される水が流れ込み、過剰な栄養分と毒物が混じったひどい汚染を受けた。このため、川の水に下水を流す前に処理する要望が高まった。そして、下水を川などに流す前に処理を行うアプローチを開始した。 

市の中心部に作られた下水処理システムは少し進化した。第一段階の処理システムは大きなゴミを除去するレベルのものだったので、栄養分や毒物は全て川や海に流れた。 

次の第二段階の処理システムは、下水の中に酸素を強制的に送り込み、バクテリアの繁殖を促すことによって生分解を促進するものだった。これはエネルギーを大量に消費するプロセスが伴い高価なものだった。残念なことに、この方法も川に栄養分や毒物を流すことになった。 

米国議会調査サービスは、連邦政府が1973年から1999年の間に市の中心部の下水処理施設に695億ドルを使ったと見積もった。しかし米国議会調査サービスは、このような巨額の投資にも関わらず、下水処理施設へ下水を送り込むことは、国の河川、小川、湖、河口、沿岸近海全ての水の水質を悪化させる、第二の汚染源となると政府が報告していると1999年に述べた。国の河川、小川、湖、河口、沿岸近海の水の汚染は、栄養分やバクテリアや病原菌を含み、、工業や商業や住宅から発生する金属や毒性化学物質を含む下水と関連している(文献2)。 

第一及び第二の処理システムで処理が成功したとしても、下水処理後に発生するヘドロの中に、栄養分や毒物が移動する。ヘドロは近年の下水処理システムによって大量に生み出された粘土質の黒いケーキである。ヘドロは住宅や産業の排水口や下水処理施設から生み出されたものである。 

1990年11月9日の連邦レジスターで、アメリカ環境保護庁はヘドロについて以下のように述べた。

「ヘドロの化学的生物的成分は、下水処理施設や、その後に続く処理過程から流入してくる下水の成分による。一般的にこれらの成分は、揮発性物質、有機固形物、窒素やリンなどの栄養分、病原となる有機体(バクテリア、ウィルスなど)、重金属、無機イオン、産業廃棄物や、住宅に用いられる化学物資や殺虫剤による毒性有機化合物からなる。」 

現在の産業は、商業ベースで約7万もの化学物質を使用しており、これらはヘドロの中に含まれるものもある。また、毎年新たにおよそ1000もの化学物質が商業ベースで用いられており、これもまたヘドロの中に含まれる可能性がある。ヘドロの中にどのような毒物が含まれるかについて解説した米国会計検査院による報告書がある。驚くことではないが、都市から発生するヘドロには、医療施設や軍事施設が発生源である放射性廃棄物が含まれる(文献3)。 

数百もの下水処理施設が毒性ヘドロの山を作っている。次の質問は、「私たちはどうすればよいのだろう?」ということだ。 

長年の間沿岸都市は、海洋に下水ヘドロを投棄したきた。そして、海洋生物が生息できない「デッドゾーン」を作った。他の地域の都市では、下水ヘドロをごみ埋め立て地に投棄し地下水を汚染した。またある地域では下水ヘドロを焼却し、深刻な大気汚染問題を引き起こした。そして、焼却灰をごみ埋め立て地に投棄し、風で簡単に吹き飛ばされるような状態で積み上げた。 

1988年に議会は、下水ヘドロを海に投棄することを禁止した。そのため多くの都市は、真のごみ危機に直面した。都心部の下水処理施設に毎日集められる毒ヘドロの山を放置するのに、安全あるいは安全と思われる場所がなかった。 

アメリカ環境保護庁は、下水ヘドロの問題を早期に解決するよう要望する、恐ろしいくらいの圧力を感じ取った。そして、下水ヘドロが下肥で栄養に富み、何千年もの間アジア諸国で作物の肥沃にしてきた歴史上の事実を発見した。下水ヘドロを処理する好都合な方法が、大地に肥料として還元することだとアメリカ環境保護庁は決心した。 

1992年下水ヘドロの海洋投棄禁止の影響が出たとき、アメリカ環境保護庁は毒ヘドロの呼び名を「有益なバイオ土壌、beneficial biosolids 」に変更した。そして、肥料としてアメリカ国民に積極的に販売するキャンペーンを始めた(REHW#561)。 

−続く− 

−私のコメント−

今回は、ヨーロッパ諸国での排泄物処理の歴史を振り返っています。最後にアメリカ環境保護庁が、下水ヘドロを肥料としてアメリカ国内で販売するキャンペーンを行うところで、次編に続くとしています。このことが次編で問題になりそうです。下水ヘドロには難分解性の毒物が多量に含まれているはずだ…………。 

<参考文献>

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[1] Abby A. Rockefeller, "Civilization and Sludge: Notes on theHistory of the Management of Human Excreta," CURRENT WORLDLEADERS Vol. 39, No. 6 (December 1996), pgs. 99-113. Ms.Rockefeller is president of the ReSource Institute for LowEntropy Systems, 179 Boylston St., Boston, MA 02130; telephone(617) 524-7258.

[2] U.S. General Accounting Office, NUCLEAR REGULATION; ACTIONNEEDED TO CONTROL RADIOACTIVE CONTAMINATION AT SEWAGE TREATMENTPLANTS [GAO/RCED-94-133 (Washington, D.C.: U.S. GeneralAccounting Office, May 1994).

[3] Claudia Copeland, WASTEWATER TREATMENT: OVERVIEW ANDBACKGROUND [98-323 ENR] (Washington, D.C.: CongressionalResearch service, January 20, 1999). Available at: http://-www.cnie.org/nle/h2o-29.html .


<情報源であるレイチェル・ウィークリーについて>

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