排泄物による出来事(PART 2


1999年4月15日

CSN #033

Source: Rachel-Weekly, ---April 8, 1999---

 

先週からの続編。Abby A. Rockefellerさんの本(文献1)で述べられている人の排泄物、尿、糞便の処理の歴史について、レイチェル・ウィークリーでは、独自の観点からまとめてみた。 

19世紀初頭、町では住宅に配管で水が供給され始めた。住宅に配管で供給された水は、再び配管で屋外に出され、町の通りを流れる開放系下水溝に排出される。コレラ感染が沈静化した後でも「栄養分を生み出した農場に下水を戻すべきだ、あるいは河川や海に投棄して処理すべきだ。」など引き続き討論された。 そして多くの町が一時期農場へ下水を配管輸送したが、1920年までにほとんどの下水管は直接河川や海に接続された。しかしこれは重大な過ちだった。 

ただちに下水配管網は整備され始めた。産業界は、これらの公共配管を産業廃棄物の安価な投棄場所と考えた。その結果、企業は富栄養化した下水溝にあらゆる種類の毒物を投棄した。これはさらに重大な過ちであった。栄養分や産業汚染物はただちに混合され、リーズナブルな価格では分別不可能となった。そのため、全ての汚物が有害ごみ処分問題になり、肥料としての価値を失った。そして、河川や海などの大地の水地への投棄が加速した。 

1950年代までに、国の水路のほとんどは、栄養分と毒物の混合物でひどく汚染された。このことは、環境中に廃棄物を処分する前に処理する需要を掘り起こした。河川や海に下水を輸送するために用いられた配管は、下水集中処理施設(公共機関の処理業務、POTWs)に接続され始めた。 

下水集中処理施設は固形物とある種の化学物質を除去し、その処理過程で黒い泥のようなヘドロを生み出す。下水集中処理はきれいな水を放出するが、有毒ヘドロも生み出す。そして今、本当に手に負えない問題が現れている。有毒ヘドロの山で何をすべきか? 

沿岸近海の自治体は、海にヘドロを投棄し始めた。ニューヨークは沖合12マイルのところに下水ヘドロを投棄した。そして汚染問題に発展すると、沖合106マイルのところに場所を移動した。 

下水管や下水集中処理施設を設置することには、政治的な2−3の理由があった。1)行政当局のほとんどが、当局の課題解決に対しては一般の人々の意見を受け入れず、連邦政府機関の意見を支持する傾向がある。2)前述にあるように、産業界はごみの安価な処分場を必要とした。(1997年、アメリカ議会調査サービスの報告によると、産業界は都会の下水管の中に、有害性分を含むごみを2憶4千万ポンド投棄した(文献2)。)3)最も重要なことは、下水管やビルの下水集中処理施設を設置することはとても高価であり、エンジニアリング会社は初期費用の20%をマージンとして受け取っていることである。(1970年−1993年の間に連邦政府は、下水処理施設の建設計画に695億ドルの予算を計上した。アメリカ議会調査サービスは、今後2016年までの17年間に、さらに1260億ドルもの費用をつぎ込むと見積もった(文献2)。これは非常に大きな金額である。)連邦ハイウェイ管理団(FHA)やアメリカ軍は、もっとたくさんの公的資金を使用している。 

1970年に環境保護者や公衆衛生職員は、水路へ生ごみを投棄しないように改善できるものとして下水集中処理施設を支持した。1977年のクリーン水条例は、実質的には下水処理施設のための条例だった。そして下水は全て集中処理施設に送り込まれた。 

1988年に議会は、海洋へ下水ヘドロを投棄することによって、海洋生物の生態系に被害を及ぼしていることを見出した。そして海洋への下水ヘドロの投棄は1992年に禁止された。このことがアメリカの町に重く大きな問題を生み出した。(116億ポンドのヘドロがどこかに移動しなければならない。そしてそれは毎年のことだ。[注釈]:116億ポンドは乾燥重量であって、水分は含まれていない。) 

その瞬間アメリカ環境保護庁(EPA)は、アジアでは農地に人間の排泄物を返却し、それが100世代にも及ぶ成功を納めているので真似しようと決心した。 

しかしながらEPAは、現代の下水ヘドロと歴史上における下肥の間にある2つの重要な相違点を見落とした。(下肥は人間の排泄物だけでできている。) 

  1. 人間の排泄物中にある窒素分のほとんどは尿であり、また水溶性である。だからそれはヘドロの中にはほとんど存在しない。そのため、もしヘドロを商用肥料として使うのであれば、十分な窒素分を得るためにヘドロを大量に使用しなければならない。
  2. 土壌の中に大量のヘドロを投入すれば、同時に大量の有毒金属や有機化学物質の混合物、おそらく放射性廃棄物までも投入することになる。

EPAは土壌が酸性になるのを防ぐために、下水ヘドロを投入した土壌に石灰を添加するよう農場主に勧告することで有毒金属問題を処理してきた。もし土壌が酸性になれば、有毒金属が拡散し始め、地下水に到達したり作物の中に取り込まれたりする。それは、食物連鎖の一部と定義される。もし土壌がアルカリ性ならば、有職金属はもっとゆっくり拡散する。 

[ EPAが見落としたことは、酸性雨によって供給される過剰な酸分をカウントしなくても、雨は通常弱酸性であるという事実である。大気は少量の二酸化炭素を含む。それが雨に溶け込むことによって炭酸を形成する。正常な雨はこの炭酸を含んだ状態で地上に降り注ぐ。正常な雨のpHは5.6で弱酸性である。もし土壌が石灰の適量添加によってアルカリ性に維持できなければ、早かれ遅かれ雨は多くの土壌から過剰な金属を抽出し始めるだろう。これを防ぐ方法は、有毒金属を最初に投入した場所で、土壌から過剰な金属を拡散しないようにしなければならない。] 

要するに土壌へ下水ヘドロを投入することは、そのうち土壌を有害にしてしまうことが保証されたということである(REHW #561)。[ 塩水を引いて土壌を汚染した古代人から教えられるように、農場を汚染する国は、長く繁栄する未来が約束されない国である。 ] 

今世紀に行われた数々の過ちは、私達を袋小路にした。私達は毎日下水の中に何が混入されてくるかわからない。またその成分を監視できないので、下水ヘドロは実質的に管理不可能である(文献4)。(たとえあなたが未知の化学物質の混合物を監視する天性の科学力を持っていたとしても、実際問題として、政府機関が国のヘドロを監視するための人員を十分に確保できていない。) 

下水集中処理システムについて考え直す時である。現在のシステムは有用な生成物を作り出すように設計されていない。そのため、現在のシステム構成が汚染問題の根源である。 

3つの方針が必要である。

  1. 下水管を避けること(下水集中処理システムへ下水を運搬するのを止める。)
  2. 汚水を避けてごみの根源を排除する堆肥作成トイレのような、低価格な汚染源でのリサイクル技術を促進する。
  3. 排泄物で汚染されないきれいな水を維持するために、必要なコストを水に付加する(文献4)。

[ 個人住宅では、すでに役に立つ解決法がある。それは家庭ごみ放出ゼロシステムである。David del Porto Carol Steinfeld による優れた本「堆肥作成トイレ:THE COMPOSTING TOILET」は、堆肥作成トイレが後ろ向きな考えであるという恐怖心を吹き飛ばすだろう(文献5)。ミクロフラッシュトイレ(わずかしか水を使わないトイレ)や吸引式水洗トイレが今や簡単に手に入り、夢の化粧室を持つことができる。また近頃は、堆肥の分別機能が付いたシステムを販売する会社がある。私たちの家庭ごみシステムは、専門家によって導入され維持管理される。つまり電気や熱のシステムのようなものだ。 ] 

しかし、町にある賃貸ビルやオフィスビルはどうだろう?。メタンガスや肥料を生み出す嫌気性の圧力釜をベースとした、ビル規模のごみ処理システムを製造する技術は確かにあるが、実用化されたことはない。Abby A. Rockefeller が最近インタビューで答えたように、「きっと技術の進歩によって可能となるだろう。」このようなシステムは、下水集中処理施設に接続された、何マイルもの長さの地下配管を必要としないので、現在の下水処理システムよりももっと安価になるだろう。そして毎年数千億ガロンの水を保存するだろう。 

[ 私たちがトイレで水を流すときは毎回、3.3ガロンの飲料水が消費される。平均5.2ガロン/日の水を流すことによって、現在私たちは、各々1300ポンドの排泄物を水で流すために、毎年6,260ガロンの飲料水を消費する。(アメリカ合衆国における水の消費量は1兆6,000憶ガロン/年)] 

当然、私たちはこれらの堆肥作成システムから有毒物質を発生させないようにしなければならない。しかしこれまで常に有毒物質が存在したのだ。そして今、私たちはそれに真っ正面から取り組むだろう。私たちが健全な生活を営むことができるように、一般家庭での有毒物質の生産は徐々に減らして行かなくてはならない。 

有毒産業廃棄物を生み出した産業界は、全ての生活を支えている私たちの環境中にそれを投棄せずに何とかしなければならない。廃棄物は無用の長物である。 

最後に、昨今の有毒ヘドロの山で何をすべきか?。それは明らかに有害廃棄物として取り扱われなければならない。[ おそらくコンクリート製建物内での貯蔵が、現時点でただ一つの解決策である(REHW#260参照)。 ] 

[ 100年間も続けてきたやり方を変えることはできない。と読者の皆さんは言うだろう。しかし考えてみて下さい。いったい誰が最初に飲料水の中に排泄物を投棄したのか?。そして実用的で安価で環境面で健全な代替案に直面した時、いったい誰が飲料水へ排泄物を投棄することが、私達が生活していくためには唯一の方法だと主張し続けるだろう?。]

 

<参考文献>

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[1] Abby A. Rockefeller, "Civilization and Sludge: Notes on the History of the Management of Human Excreta," CURRENT WORLD LEADERS Vol. 39, No. 6 (December 1996), pgs. 99-113. Ms. Rockefeller is president of the ReSource Institute for Low Entropy Systems, 179 Boylston St., Boston, MA 02130; telephone (617) 524-7258. 

[2] Claudia Copeland, WASTEWATER TREATMENT: OVERVIEW AND BACKGROUND [98-323 ENR] (Washington, D.C.: Congressional Research Service, January 20, 1999). Available at: http://-www.cnie.org/nle/h2o-29.html . 

[3] Gary D. Krauss and Albert L. Page, "Wastewater, Sludge and Food Crops," BIOCYCLE (February 1997), pgs. 74-82. Krauss was staff director for the National Research Council study, USE OF RECLAIMED WATER AND SLUDGE IN FOOD CROP PRODUCTION (Washington, D.C.: National Academy Press, 1996). 

[4] Robert Goodland and Abby Rockefeller, "What is Environmental Sustainability in Sanitation?" IETC'S INSIGHT [newsletter of the United Nations Environment Programme, International Environmental Technology Centre] Summer, 1996), pgs. 5-8. The International Environmental Technology Centre can be reached at: UNEP-IETC, 2-1110 Ryokuchikoen, Tsurumi-ku, Osaka 538, Japan. Telephone: (81-6) 915-4580; fax: (81-6) 915-0304; E-mail: cstrohma@unep.or.jp; URL: http://www.unep.or.jp/. See also Abby A. Rockefeller, "Sewage Treatment Plants vs. the Environment," an unpublished paper dated September, 1997. And: Abby A. Rockefeller, "Sludge is Sludge; The Illusion of Safety," an unpublished paper dated June 26, 1996. Ms. Rockefeller is president of the ReSource Institute for Low Entropy Systems, 179 Boylston St., Boston, MA 02130; telephone (617) 524-7258.

[5] David Del Porto and Carol Steinfeld, THE COMPOSTING TOILET SYSTEM BOOK (Concord, Mass.: Center for Ecological Pollution Prevention, 1999). ISBN 0-9666783-0-3. See http://www.ecological-engineering.com/ctbook.html; $29.95 plus $3.30 shipping ($12 overseas shipping) from: Center for Ecological Pollution Prevention, 50 Beharrell St., P.O. Box 1330, Concord, Mass. USA 01742. Phone (978) 369-9440. Fax: (978) 368-2484. E-mail: ecop2@hotmail.com. See also: Carol Steinfeld, "Composting Toilets Come to the Rescue in Massachusetts," BIOCYCLE (April 1996), pgs. unknown. See http://-www.ecological-engineering.com/rescue.html And see: Carol Steinfeld, "Composting Toilets Emerge as Viable Alternatives," Environmental Design & Construction (July/August 1998), pgs. unknown. See: http://www.edcmag.com/archives/7-98-14.htm. 

<情報源であるレイチェル・ウィークリーについて>
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