溶剤−汎用の毒薬−


1999年4月29日

CSN #042

情報源: Rachel-Weekly, ---April 22, 1999---

1999年4月22日のレイチェル・ウィークリーから概要を紹介します。

以下の4つの章から構成されています。

  1. 有機溶剤(−汎用の毒薬−)についての概説
  2. 出生障害
  3. 結合組織疾患

 

−以下概要紹介−


第1章 有機溶剤(−汎用の毒薬−)についての概説

私達の家庭や職場などの身の回りにある有機溶剤と、それらを用いた製品事例及び健康影響について紹介されている。

<製品事例>

・ガソリン

・百円ライターの液化ガス

・衣料のシミ抜き材

・スプレー容器

・塗料

・塗料の薄め液

・塗料の除去液

・接着剤

・マニキュア

・マニキュア除去液

・床やタイルの洗浄液

 

<健康影響例>

・出生障害

・免疫組織異常(リウマチ、関節炎、鞏皮症、狼瘡紅斑症)

・乳癌などの種々の癌

 

<有機溶剤の例>

・脂肪族炭化水素(ミネラルスピリット、ニス、灯油)

・芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)

・塩素化炭化水素(四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン)

・脂肪族アルコール(メタノール)

・グリコール類(エチレングリコール)

・グリコールエステル類(メトキシエタノール)

 

私たちの身の回りには延べ数百種類もの有機溶剤があり、それらへの曝露は単一というのはまれなことで、一般的には混合物に曝露している。またその多くは揮発性が高く、室内空気汚染で問題になっている揮発性有機化合物(VOC)に含まれる。室内空気汚染問題においても揮発性有機化合物の特定が研究されており、今後徐々に解明されると思われる。人体への影響については、混合物の曝露と単一物の曝露の双方から研究する必要があると思う。


第2章 出生障害

この章では、職場で有機溶剤に曝露した女性に関わる健康障害事例について、研究論文を紹介しながら概説している。特に医療関連の職業、衣類や織物産業、グラフィックアートは有機溶剤に曝露しやすい職業である。健康障害事例としては、妊娠初期に有機溶剤に曝露した時の胎児への影響が中心となっている。


1)過去の5つの研究論文を分析した結果、妊娠中に有機溶剤の曝露した女性において出生障害率が64%増加(文献1:1998年研究報告)

この論文では生活上での曝露や、化粧品の影響について示唆しているが、この5つの研究は、出産後に出生障害状況について女性に尋問している。しかし妊娠中に有機溶剤に曝露しているのだから、そのような過去を振り返るような調査方法では先入観が入ってしまうので、妊娠中の化学物質の曝露との関係を正確にはつかめないだろうと述べている。

 

2)米国医学協会雑誌(JAMA)に掲載された有機溶剤曝露と出生障害に関する最新論文(文献2)

この論文では出産前に妊娠中の有機溶剤曝露に関して尋問が行われており、先入観が入らないと言う点で、1)の論文より正確な関係がつかめる内容になっている。

この論文では、妊娠中に職業上有機溶剤に曝露すると、出生障害児が生まれる確率が13倍にもなると述べている。その障害例を下記に示す。

<対象女性>

<職業>

工場作業者、実験補助、アーティスト、グラフィックデザイナー、印刷産業労働者、化学者、画家、OL、獣医、葬儀場労働者、大工、社会福祉家、カー清掃業

<調査結果概要>

項目

有機溶剤に曝露した女性

曝露していない女性

(コントロールグループ)

流産

多い

少ない

出産体重

コントロールグループ比較で168グラム(5%)少ない

 

未熟児

8人

3人

胎児障害

17人

6人

胎児障害とは、脱腸症、心拍数異常症、蘇生が必要なため新生児集中治療室で治療を受けた新生児と定義される。

(その他)

以上の結果であり、有機溶剤曝露との関連性がうかがえる。母親の曝露症状については本文中で触れられていないので論文の原本をご参考下さい。そして本論文では以下のように忠告している。「有機溶剤は子宮内で胎盤を通じて赤ん坊体内に進入するので、妊娠中の女性が有機溶剤に曝露すると、お腹の中の赤ん坊が危険な状態になる。特に母親自らが有機溶剤に曝露することで特異な症状を示す場合は要注意である。」

 

 

第3章 結合組織疾患

 

この章では有機溶剤が結合組織疾患に与える影響について、関連論文を紹介しながら述べている。最初に結合組織疾患の概要について概説している。

1)概要

リウマチ性関節炎、狼瘡症、鞏皮症が結合組織疾患の代表的なもので、体結合組織に影響を与えるリウマチ性の疾患である。また、これらの免疫性疾患は外部からの侵入者に作用する抗体が過剰になると発病する自己免疫疾患である。時として抗体は自分自身に対して誤って作用することもある。

これら3つのリウマチ性疾患の症状を持っていても1つに断定できない場合は、画一的結合組織疾患(UCTD)と診断される。またこのような症状は男性よりも女性に多いと本文で述べている。

2)研究論文紹介

「オハイオ州とミシンガン州のUCTD症状を有する205人の女性と2095人の正常なグループの女性の比較研究」(文献3)

<要点>

特殊溶剤が何かが明記されいていないので、詳細は論文の原本をご参考下さい。リウマチ性疾患の原因はよくわかっていないが、有機溶剤が原因の1つであることがこの研究論文からも示唆される。

 

第4章 癌

この章では有機溶剤と癌との関連性について概説している。特に石油化学産業において不可欠である有機溶剤として用いられるベンゼン、トルエン、キシレン、スチレンと癌との関連性について述べている。これらは接着剤、樹脂、レジン、爆薬、織物などに保存液として用いられる。またこれらの溶剤は混合物として用いられることが多い。

1)溶剤種類と人体への発癌性について

溶剤の名称

人体への発癌性

ベンゼン

人体への発癌性が明確になっており、職場で曝露すると白血病が発症する可能性が高くなる。

スチレン

動物実験での結果から人体に対しての発癌性が示唆されている。

トルエン

研究データが不十分でよくわかっていない。

キシレン

研究データが不十分でよくわかっていない。

2)研究論文紹介

「15種類の癌をもつ3730人の患者の体験調査(1998年、カナダ、文献4)」

<要点>

上記3つの関係について限定的ではあるが確証が得られている。

 

「女性の乳癌と有機溶剤曝露との関連についての1つの仮定(文献5)」

<要点>

この論文では動物実験研究より、有機溶剤が乳癌発生の原因となる確証があると述べている。しかし人間においては決定的ではない。また職業上における有機溶剤への曝露と癌の研究を行った17の研究論文のうち、12の研究論文はその関係が明らかにできていない。しかし5つの報告が乳癌との関係を示している。

また、工業国における女性の乳癌患者の母乳中には、脂肪組織に溶解する有機溶剤が多数含まれていると報告している。このことはとても衝撃的な報告である。有機溶剤を摂取するルートは職業上以外に一般家庭でも多数考えられる。産業の発展とともに有機溶剤の使用量が増加してきたが、摂取ルートをきっちり整理する必要性があると思う。下記に本文で紹介されている母乳中に含まれる有機溶剤について列挙する。

クロロベンゼン

ベンゼン

二硫化炭素

ベンズアルデヒド

ジクロロエチレン

クロロエタン

塩化エチル

四塩化炭素

クロロペンタン

クロトンアルデヒド

シクロヘキサン

シクロペンタン

クロロメタン

ジクロロベンゼン

 

エタノール

エチルベンゼン

1,2−ジクロロエタン

これらの溶剤は女性の血液よりも母乳中のほうが高濃度であると述べている。またエストロゲン作用(内分泌攪乱作用)を示す物質もこの中にはある。

 

この研究から皆さんが考えてほしいことは、母乳を通じて乳児の体内に有機溶剤が容易に進入するということである。ここで検出された有機溶剤は塩素系化合物、芳香族系化合物が非常に多いということも認識する必要があると思う。

 

私たちの身の回りには職場や家庭を問わず、有機溶剤含有製品がたくさんある。特定の物質を除いては、人体への影響が不明な物質が多い。しかしできる限り曝露しないようにするべきだと思う。特に妊娠中の女性や授乳時期の女性は注意が必要だと言える。

 

<本文中の参考文献>

[1] Kristin I. McMartin and others, "Pregnancy Outcome Following Material Organic Solvent Exposure: A Meta-Analysis of Epidemiologic Studies," AMERICAN JOURNAL OF INDUSTRIAL MEDICINE Vol. 34 (1998), pgs. 288-292.

[2] Sohail Khattak and others, "Pregnancy Outcome Following Gestational Exposure to Organic Solvents," JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 281, No. 12 (March 24/311999), pgs. 1106-1109.

[3] James V. Lacey, Jr., and others, "Petroleum Distillate Solvents as Risk Factors for Undifferentiated Connective Tissue Disease (UCTD)," AMERICAN JOURNAL OF EPIDEMIOLOGY Vol. 149, No.8 (1999), pgs. 761-770.

[4] Michel Gerin and others, "Associations Between Several Sites of Cancer and Occupational Exposure to Benzene, Toluene, Xylene, and Styrene: Results of a Case-Control Study in Montreal," AMERICAN JOURNAL OF INDUSTRIAL MEDICINE Vol. 34 (1998), pgs.144-156.

[5] France P. Labreche and Mark S. Goldberg, "Exposure to Organic Solvents and Breast Cancer in Women: A Hypothesis," AMERICAN JOURNAL OF INDUSTRIAL MEDICINE Vol. 32 (1997), pgs.1-14.

 

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