欧州委員会による新化学物質戦略白書


200149

CSN #181

2001213日、欧州委員会(EC)は、化学物質に対する将来的な新しい戦略を示す白書(WHITE PAPER Strategy for a future Chemicals Policy) [1]を採択しました。この新戦略の主な目的は、化学産業において、内部市場、刺激的な技術革新、競争力の効率的な働きを確保することと、高いレベルで人の健康と環境の保護を確保することとなっています。

この新戦略の基本指針は、予防原則(Precautionary Principle)であり、その主要目的は、より危険性の少ない化学物質への代替を促すことにあるとプレスリリースで述べられています[2]

この白書に示される新戦略の鍵となる要素を次に示します。

  1. 19819月以前に市場導入された化学物質(既存化学物質)及びそれ以降に市場導入された化学物質(新規化学物質)の有害性について、同程度の知識を提供する単一の有効かつ論理的な規制枠組みを設定する。
  2. 化学物質の試験及びリスク評価に対する責任を、政府から業界へと戻す。
  3. 人の健康や環境に対して高い保護水準を保つことに妥協することなく、刺激的な技術革新と競争力を促進する。
  4. 多くの危険な化学物質に対して厳しい管理が行われるよう、目的に会わせた許可システムを導入する。
  5. 化学物質に対する透明性と情報を増加させる。

 

現在行われている化学物質の試験及びリスク評価システムは、19819月に以前に市場導入された化学物質を「既存化学物質」、それ以降に市場に導入された化学物質を「新規化学物質」と分類しています。新規化学物質は約2,700件あり、人の健康と環境に対するリスク評価は10kg/年以上市場導入する以前に行う必要があります。

既存化学物質の量は、市場に流通している全化学物質の総量の99%以上であり、1981年に報告された既存化学物質の数は約10万件あります。そして現在、1トン/年以上市場に導入している既存化学物質の数は、約3万件にも及んでいます。

現在、既存化学物質の性質や用途に関する一般的な情報が不足しているにもかかわらず、リスク評価のプロセスは非常にゆっくりで資源集約的であり、能率的かつ有効に作業を行うシステムとはなっておりません。また、企業が生産・輸出・使用する化学物質のリスク評価責任を政府が負っています。

さらに、企業から化学物質の使用用途に関する情報を得ることが困難であり、エンドユーザーで生じた曝露情報を得ることが一般的に困難となっています。

現在のシステムでは、政府が評価対象とする化学物質に深刻なリスクが存在する可能性を証明した後に、産業界から追加試験を要求されますが、委員会が追加試験を行う決定を下すための手続きに長期間有するため、最終的なリスク評価まで行われた化学物質は、わずかしかありません。

 

このような現状からこの白書では、「既存」と「新規」の2つに分類し、異なる試験を要求している現在のシステムを、多数の化学物質に対応する単一の有効かつ論理的なシステムへと転換することを目的の1つとしています。また、この新戦略では、化学物質を生産する産業界は、化学物質に関するデータを提供する責任を有し、政府は産業界によって提供されたデータを評価し、産業界が提出する化学物質の性質に対応した試験プログラムを決定することとしています。

既存化学物質と新規化学物質の双方を評価するこの新しいシステムは、REACHシステムとして知られており、次に示す3つの要素から成り立っています[1]

1.登録

生産量が1トン/年を越える全ての既存及び新規化学物質(約3万件)の基礎情報を企業が提出し、これを中央データベースに登録する。登録書類の提出期限は、当該化学物質の生産量に応じて、以下の通り定められている。

 

2.評価

生産量が100トン/年を越える全ての化学物質(全体の15%相当、約5千件)、あるいはそれより低い生産量であっても懸念を有する全ての化学物質の登録情報を政府が評価する。また評価には、長期曝露の影響に焦点をあてた化学物質の試験プログラムの開発も含まれる。

 

3.許可

発がん性、変異原性、生殖毒性(CMRs)を有する物質、残留性有機汚染物質(POPs)に対する許可。

 

この白書に関して、EUの環境委員長Margot Wallström氏は、次のように述べています[2]

「これは、ECが持続可能な発展を取り入れた最も重要な第一歩の1つである。我々は、がんを引き起こす、生体や環境に蓄積する、生殖能力に影響するといった性質を有するほとんどの有害化学物質を段階的に排除し代替するためのステップ・バイ・ステップのアプローチを決定した。この決定は、将来世代の人たちにとって、極めて重要である。」

 

また、企業委員長Erkki Liikanen氏は、次のように述べています[2]

「本日の決定は、我々が環境や健康に影響する知見を有していない、市場にある多くの化学物質の解析を始める上で、信頼できる情報を得るために極めて重要である。同時にこの決定は、化学物質関連商品の適切な内部市場を生み出すためにも重要である。我々が本日同意した計画は、刺激的な技術革新を支援し、産業界がグローバルな競争力に取り組むための明瞭な枠組みを提供するだろう。」

 

今後、欧州委員会は、今回採択した化学物質白書を欧州議会に提出し、加盟各国の関係者を集めて進め方について議論する予定となっています。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] Commission of the European Communities, “WHITE PAPER Strategy for a future Chemicals Policy”, COM (2001) 88 final, February 27, 2001

[2] Commission of the European Communities, IP/01/201, Brussels, “Commission sets out the path towards sustainable use of chemicals”, February 13, 2001
http://www.europa.eu.int/comm/environment/chemicals/index.htm


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