CDCによる環境化学物質曝露報告書


2001423

CSN #183

2001321日、アメリカ厚生省(DHHS)CDC(疾病管理予防センター)が、人の環境化学物質への曝露状況に関する報告書を発表しました[1][2]。この発表は、翌日のワシントンポスト紙でも報じられました[3]。この報告書の調査は、1999年に国立健康栄養試験調査(the National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)に参加した約3,800人のアメリカ国民から血液と尿を採取し、調査対象とした27の化学物質濃度が測定されました。

調査対象化学物質のうち、鉛、カドミウム、コチニン(ニコチンの代謝物)3つの化学物質は、以前にもNHANESを通じて測定されました。そのため今回の調査結果と対比することができます。しかしながら、その他の24の化学物質は、今回の調査が初めてでした。

以下にこの調査の目的を、表1に調査結果の概要を示します。

調査目的

表1 血液と尿中の環境化学物質濃度[3]をもとに作成)

分類

化学物質名

測定数

単位

測定値(算術平均)

重金属1)

カドミウム

3,189

μg/L

<LOD

3,189

μg/dL

1.6

水銀(1-5歳子供)

248

μg/L

0.3

水銀(16-49歳女性)

679

1.2

重金属2)

アンチモン

912

0.1

バリウム

779

1.6

ベリリウム

1,007

<LOD

カドミウム

1,007

0.32

セシウム

1,006

4.7

コバルト

1,007

0.36

1,007

0.80

モリブデン

904

48.4

白金

1,007

<LOD

タリウム

974

0.19

タングステン

892

0.10

ウラニウム

1,006

0.008

有機リン系殺虫剤代謝物3)

ジメチルホスフェート

703

μg/L

1.84

ジエチルホスフェート

2.55

ジメチルチオホスフェート

2.61

ジエチルチオホスフェート

0.81

ジメチルジチオホスフェート

0.51

ジエチルジチオホスフェート

0.19

フタル酸エステル代謝物3)

モノ-ベンジルフタレート
(ベンジルブチルフタレート:BzBP)

1,029

μg/L

17.4

モノ-n-ブチルフタレート
(ジブチルフタレート:DBP)

26.7

モノ-シクロヘキシルフタレート
(ジシクロヘキシルフタレート:DCHP)

<LOD

モノ-エチルフタレート
(ジエチルフタレート:DEP)

176.0

モノ-2-エチルヘキシルフタレート
(-2-エチルヘキシルフタレート:DEHP)

3.5

モノ-イソノニルフタレート
(-イソノニルフタレート;DINP)

<LOD

モノ-n-オクチルフタレート
(ジオクチルフタレート:DOP)

<LOD

コチニン4)

2,263

ng/mL

<LOD

<LOD:検出限界以下
1)鉛、カドミウムは1歳以上の人の血液中。
2)6歳以上の人の尿中
3)6-59歳の人の尿。( )内は代謝前のフタル酸エステル化合物。
4)コチニンはたばこに含まれるニコチンの代謝物で、3歳以上の非喫煙者の血漿中濃度を測定している。つまり間接喫煙の影響を考えることができる。

 

次に、この調査で得られた主要な知見を以下に示します。

  1. カドミウムの濃度は、NHANESを通じて行ったこれまでの報告とほとんど変わらなかった。
  2. 1-5歳児の血中鉛濃度が、1991-1994年の算術平均値(2.7μg/dL)と比較して、今回の調査(2.0μg/dL)では減少した。しかしながら、特定の集団(鉛ベース塗料や鉛で汚染されたダストを含む家に住んでいる子供たちなど)では、依然として高い鉛の曝露を受けており、重要な公衆衛生問題であることに変わりはない。
  3. コチニンはニコチンの代謝物であり、非喫煙者の間接喫煙(ETS)による曝露の目安となる。1988年から1991年までの非喫煙者におけるコチニンの平均値は0.20 ng/mLであった。しかし今回の調査では、3歳以上の人々におけるコチニン濃度の平均値は0.050 ng/mLを下回った。非常に大きく減少しているが、いまだにアメリカの子供たちの半数以上がETSに曝露しており、重要な公衆衛生問題であることに変わりはない。
  4. 1-5歳児の血中水銀濃度は0.3μg/L、妊娠可能年齢である16-49歳の女性の血中水銀濃度は1.2μg/Lであった。成人と比べて胎児や子供たちは重金属曝露の影響を受けやすい。保健担当官らは胎児と子供の保護に特に注意しなければならない。
  5. フタル酸エステル類は、石鹸の乳化剤、シャンプー、ヘアースプレー、マニキュア液などの消費者製品において一般的に使用されている。また、ある種のフタル酸エステルは、プラスチックスの可塑剤(柔らかくする添加剤)として広く使用されている。今回、測定対象としたフタル酸エステル類のうち、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DEHP)、ジ-イソノニルフタレート(DINP)はアメリカ国内での生産量が多く、ジエチルフタレート(DEP)とジブチルフタレート(DBP)は生産量が少ない。それにも関わらす、DEPDBPの代謝物は、DEHPDINP代謝物よりも高い濃度で検出された。この結果は、今後、DEPDBPの曝露経路に焦点を当てて研究する必要性があることを示唆している。

 

この調査で測定された27の化学物質の大半は、これまで調査されたことがなく、化学物質濃度の今後の推移についてはわかりません。また、これらの化学物質が私たちの健康にどのような影響を及ぼしているのかわかりません。

この調査は2000年も継続されており、2002年にはその結果も含めて発表される予定となっています。また現在の計画では、今回測定した27の化学物質の測定を毎年継続し、約100の化学物質まで測定対象を広げる予定となっています。例えばその化学物質は、発がん性のある揮発性有機化合物(VOCs)、発がん性のある多環芳香族炭化水素(PAHs)、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニール(PCBs)、トリハロメタン、ハロ酢酸、カーバメート系殺虫剤、有機塩素系殺虫剤などが考えられています。

また、調査対象者の解析では、性別、人種、小数民族、年齢、都会/郊外などの居住地域、学歴、所得などによる詳細な傾向も把握する予定となっています。そしてこの調査によって、次に示す項目を把握することが目的の1つとなっています。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] CDC, Press release, March 21, 2001
http://www.cdc.gov/od/oc/media/pressrel/r010321.htm

[2] David Brown,“Study Tallies Americans' Exposure to Toxins”, Washington Post, Page A02, March 22, 2001
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A40329-2001Mar21.html

[3] CDC Environmental Health, “National Report on Human Exposure to Environmental Chemicals”, NECH Pub No. 01-0164, March 21, 2001


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