アウトドアキャンプでの一酸化炭素中毒


1999年8月24日

CSN #091

一酸化炭素は無味・無臭・無色の気体で、炭素または炭素化合物が不完全燃焼した場合に発生します。湯沸かし器などの燃焼器具は、使用時にある程度の一酸化炭素を出しますが、室内空気を燃焼させて酸素が不足すると不完全燃焼を起こし、さらに多くの一酸化炭素が発生します[1] 

血液中のヘモグロビンは、酸素と結合して体内の各組織に酸素を運搬します。一酸化炭素はヘモグロビンと結合する力が酸素の 200250倍も強いため、一酸化炭素を吸入し血液中に取り込まれると、ヘモグロビンと酸素が結合できなくなり、体内の各組織が酸素不足になります[3]。特に血液中の酸素不足は、脳神経系に大きなダメージをもたらします[1] 

そのため短期曝露では、息切れ、頭痛、疲労感、注意力散漫、めまい、吐き気、嘔吐、重症になると意識喪失、昏睡、死に至ることがあります[1]。また血中酸素含有量、中枢神経系、心血管系に影響を与えることがあります[2]。特に妊娠中の女性への暴露は避けるべきだと言われています[2] 

長期に曝露すると、記憶減退、失見当識、幻覚、運動失調、心臓障害のリスクが増大する可能性があります。その他、神経系障害、低出生時体重、死産増加、および先天性心疾患などの生殖障害を生じる可能性もあります[1][2] 

無色・無味、無臭の気体で皮膚への刺激性もないため、中毒症状が現れるまで五感で感知できません。そのため燃焼器具を使用する時は、換気などに十分注意する必要があります。室内で石油ファンヒーター、ガスストーブ、ガス湯沸器などの燃焼器具を使うときは、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などの放散化学物質に注意し、換気を行うことが大切です。 

また一般的には、気密性の高い室内や、換気が不十分な室内で石油ファンヒーター、ガス湯沸器などの燃焼器具を利用した場合に、一酸化炭素中毒になる場合が多いのですが、アウトドアレジャー中にテントの中で一酸化炭素中毒になる例が、1996年に国内で報告されています[1] 

最近では、アメリカのジョージア州で発生した2件のアウトドアレジャー中の一酸化炭素中毒事故について、アメリカ疫病管理予防センター(CDC)が「疾病率と死亡率のウィークリーレポート(MMWR)」で報告しています[3] 

この2件の報告は、次のようになっています。

  

1)ジョージア州南東部のキャンプ場(1999314日)

父親と3人の子供の親子4人でキャンプに来ていた家族が、10フィートと14フィートの2つの部屋を持つテント(出入り口がファスナー)の中で死亡しているのが発見されました。テントの中ではプロパンガスストーブが燃焼しており、明らかに暖を取るために使用されていたものでした。就寝中に死亡しており、死亡後の一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)濃度がそれぞれ50%, 63%, 69%, 63%でした。一般的に、アメリカの一酸化炭素ヘモグロビン平均濃度は、禁煙者1%、喫煙者4%[4]ですから、かなり高濃度の一酸化炭素中毒であることがわかります。

 

2)ジョージア州中心部のキャンプ場(1999327日)

父親と息子の親子2人でキャンプに来ていた家族が、テント(出入り口がファスナー)の中で死亡しているのが発見されました。テントの中から炭火焼き用グリルが発見されました。そのグリルは、調理に用いた後、暖房用にテント内に持ち込まれたものでした。死亡後の一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)濃度は、それぞれ68% 76%で、1)の報告と同様に、かなり高濃度の一酸化炭素中毒であることがわかります。

 

1979年から1988年の間に、アメリカでは1年当たり878人から1513人の人々が一酸化炭素中毒で亡くなっています[5]。またそのほとんどは住宅室内、自動車車内などですが、1990年から1994年の間に、アメリカでは1年当たり25人から44人の人々が、キャンプ中にテント内で使用した、燃焼器具、照明用のランタン、炭火焼き用グリルから発生する一酸化炭素中毒で亡くなっています[6] 

キャンプ中の一酸化炭素中毒をなくすために、CDCMMWR報告書では次のように勧告しています[3]

 

<アウトドアレジャーでの一酸化炭素中毒に対する勧告>[3]

注意すべきこと

 

勧告

 

−以上がMMWR報告書の勧告内容です−

 

国内では1986年から1996年までの間に、一酸化炭素中毒事故が次のように発生しています[1]

発生源

発生件数

作業時

練炭・木炭等

5

不完全燃焼

4

排ガス

2

火災

2

家庭・レジャー

3

夏場でも高地や山地でキャンプをする時は、日が暮れると気温が急激に低下し、暖房が必要になることがあります。住宅室内や自動車車内での使用も含めて、MMWRの勧告や、国立医薬品食品衛生研究所、化学物質情報部による以下の使用上の注意事項を参考にしながら、十分な予防と対策を行うことが必要です。

 

<燃焼器具使用時の注意事項>[1]

 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] 化学物質による被害事例、国立医薬品食品衛生研究所、化学物質情報部
http://www.nihs.go.jp/incident/bussitu.html (一酸化炭素を選択して下さい)
 

[2] 国際化学物質安全性カード (ICSC)、国立医薬品食品衛生研究所、化学物質情報部
http://www.nihs.go.jp/ICSC/ 50音別リストから一酸化炭素を選択して下さい。)
 

[3] R Wheeler, Covington, MA Koponen and others: The Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR); Vol48(32), p705-706, August 20, 1999.
Centers for Disease Control and Prevention(CDC) 、アメリカ疫病管理予防センター
“Carbon Monoxide Poisoning Deaths Associated with Camping -- Georgia, March 1999”
http://www.cdc.gov/epo/mmwr/preview/mmwrhtml/mm4832a1.htm
 

[4] Radford EP, Drizd TA. Blood carbon monoxide levels in persons 3-74 years of age: United States 1976-80. Hyattsville, Maryland: US Department of Health and Human Services, CDC, National Center for Health Statistics, 1982. (Advance data no. 76).
 

[5] Cobb N, Etzel RA. Unintentional carbon monoxide-related deaths in the United States, 1979 through 1988. JAMA 1991;266:659-63.
 

[6] Ault K. Estimates of non-fire carbon monoxide poisonings and injuries. Washington, DC: US Consumer Product Safety Commission, 1997.


「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ