ドイツのブルーエンジェルにおける建材の基準
−室内空気中の化学物質汚染−
2001年8月27日
CSN #201
前報CSN #200で報告したように、ドイツでは、1978年から「ブルーエンジェル」というエコラベルを世界に先駆けて導入しています。このエコラベルは、製造者が製品の設計・生産において環境保全を積極的に考慮するよう促進することと、消費者が製品を選択する際の重要なツールになることに重点がおかれています。そして製造者の生産活動や消費者の消費活動において、環境保全への意識が高まることが期待されます。
このエコラベルにおいて、私たちの生活に直接的に関係する製品群の1つとして、家屋等に使用される建材があります。ブルーエンジェルでは、建築・修繕というカテゴリーを設置し、再生石膏製品や再生原料を主に利用している建築材料の基準を作成しています[1]。しかしながら、私たちの健康影響に関連する室内空気中の化学物質汚染という観点で考えると、「有害物質の放散量や含有量の少ない製品」が関係します。
そこで、室内空気中の化学物質汚染に関連する基準分類を独自に抜粋し、その概要を紹介します。表1に、本報で独自に抜粋した、ブルーエンジェルにおける、室内空気中の化学物質汚染に関連する基準分類を示します。
表1 室内空気中の化学物質汚染に関連する基準分類([1]をもとに作成)
基準分類 |
RAL-UZ |
初版 |
有効 |
商品数 |
企業数 |
有害物質の放散量が少ない屋内用の木材製品 |
38 |
2000 |
2004 |
23 |
11 |
有害物質の放散量が少ない合板パネル |
76 |
1995 |
2003 |
15 |
7 |
有害物質含有量の少ないニス(ニス塗り) |
12a |
1981 |
2005 |
411 |
27 |
有害物質の放散量が少ない壁用塗料 |
102 |
2000 |
2003 |
− |
− |
有害物質を含まない室内用害虫予防・駆除剤 |
34 |
1985 |
2005 |
20 |
9 |
それそれの基準分類に対しては、適用範囲と基準が定められています。以下に、それらの概略を示します[1]。
1.有害物質の放散量が少ない屋内用の木材製品(RAL-UZ 38、1999年9月改訂)
1)適用範囲
木質材料(チップボード、合板、ベニヤ板、繊維板)が50%以上使用されている屋内用の製品(家具、装飾ドア、パネル、表面塗装フローリング、積層フローリング、寄せ木の床)。
2)基準
*製造プロセス及び原料
(1)木材の原料
合板に使用される材木は、原生林から伐採されたものではないこと。材木を購入する時は、持続可能な森林(植林などによる)から伐採された材木を使用すること。
(2)木材におけるホルムアルデヒド基準
RAL-UZ 76の基準を満たす木材は使用可能。コーティングや加工前の原料の状態におけるホルムアルデヒド濃度は、規定のチャンバー試験で0.1ppm以下。
(3)コーティングシステム(下塗り剤、染色剤、クリア・ワニス、仕上げ塗り、装飾紙、接着剤など)
コーティングシステムには、政令で定められている発がん性、変異原性、催奇形性などを示す有害物質が含まれてはならない。
表2 溶液タイプのコーティングシステムに対する基準
適用製品分類 |
揮発性有機化合物(VOCs)含有量 |
平面形状の製品(装飾ドア、パネル、表面塗装フローリング、寄せ木の床) |
250g/L |
立方形状の製品(家具など) |
420g/L |
*使用時(室内空気質)
規定のチャンバー試験に基づいて行った気中濃度が次の基準を満たすこと。
表3 チャンバー試験による化学物質の気中濃度基準
項目 |
平面形状の製品(装飾ドア、パネル、積層フローリング、寄せ木の床) |
立方形状の製品(家具など) |
||
初期値 (24+/-2時間後) |
最終値 (28日後) |
初期値 (24+/-2時間後) |
最終値 (28日後) |
|
ホルムアルデヒド |
− |
0.05ppm |
− |
0.05ppm |
有機化合物 |
− |
300μg/m3 |
− |
600μg/m3 |
有機化合物 |
− |
100μg/m3 |
− |
100μg/m3 |
CMT物質1) |
1μg/m3未満 |
1μg/m3未満 |
1μg/m3未満 |
1μg/m3未満 |
1)CMT物質:発がん性,変異原性、催奇形性を示す物質
2.有害物質の放散量が少ない合板パネル(RAL-UZ 76、2000年1月改訂)
1)適用範囲
チップボード、合板、ベニヤ合板、繊維板、中質繊維板(MDF)、木質ボード
2)基準
3.有害物質含有量の少ないニス(RAL-UZ 12a、1997年1月改訂)
1)適用範囲
下塗り剤、下塗り塗料、クリアー、着色ワニス、つや出し剤、水性ワニス、固形ワニス
2)適用範囲除外品
木材防腐剤、木材防腐性を付与したつや出し剤、酸洗液、増量剤、ワックス、合成樹脂が分散したニス、表面印刷のインク、ニス以外の表面塗装剤
3)基準
(a)次に示す化学物質は使用してはならない。
(b)残留モノマー(反応せずに残っているニスの原料)
0.05%以下
(c)殺生剤、殺菌剤
殺菌剤以外の殺生剤が含まれてはならない。また殺菌剤は、次の基準を満たすものを使用すること。
(d)防腐剤
有害物質に関する法令で定められた、健康リスクが高い(Xn)、強い毒性がある(T+)、毒性がある(T)に分類されていない化学物質は使用できるが、ニス中の含有量が0.5重量%未満でなければならない。
(e)ホルムアルデヒド含有量
10ppm以下
(f)顔料、乾燥剤
鉛、カドミウム、六価クロム、及びそれらの化合物をベースとした顔料や乾燥剤を使用してはいけない。原材料中に含まれる不純物としては、原材料に初期から混入している場合は100ppm以下、製造プロセスで生じる不純物の場合では200ppm以下にしなければならない。
(g)揮発性有機化合物(VOCs)の含有量
表4 VOCsの含有量基準
グループ |
製品の種類 |
ニスの固形分濃度 |
VOC含有量基準 |
1 |
浸透防水用の下塗り剤 |
20%未満 |
2重量% |
2 |
下塗り用ワニス、透明ワニス、寄せ木用ワニス、床用塗料とワニス、下塗り剤 |
20%以上 |
8重量% |
3 |
木材つや出し剤 |
30%未満 |
8重量% |
30%以上 |
10重量% |
||
4 |
水性ワニス、着色ワニス |
40%より多い |
10重量% |
5 |
固形ワニス |
85%以上 |
15重量% |
4.有害物質の放散量が少ない壁用塗料(RAL-UZ 102、2000年5月初版)
1)適用範囲
エマルジョン系塗料、ケイ酸塩系塗料、ケイ酸塩系エマルジョン塗料、主として室内壁用塗料や室内天井用塗料として設計され、少なくとも耐洗浄性がある塗料。
2)適用除外品
政令で有害物質に指定されている化学物質を含む塗料、塗料フィルムの保護目的で殺生剤を含む塗料、ニスなどの上塗り剤、酸洗浄溶液、へら、ワックス、印刷用インク
3)基準
(a)塗料溶液中の揮発性有機化合物(VOCs)の総量
700ppm以下(クロマトグラフ分析におけるリテンションタイムが沸点252.6度のテトラデカンまでの揮発性有機化合物)
(b)使用禁止物質
政令で定められている発がん性、変異原性、催奇形性などを示す有害物質
(c)調整剤や顔料
鉛、カドミウム、6価クロムなどは塗料中に添加してはいけない。原材料中に含まれる不純物としては、原材料に初期から混入している場合は100ppm以下、製造プロセスで生じる不純物の場合では200ppm以下にしなければならない。2004年1月1日からアルキルフェノールエトキシレートは使用禁止となる。塗料溶液中の可塑剤の配合割合は1g/L以下。
(d)殺生剤
殺生剤を使用してはならない。
(e)ホルムアルデヒド含有量
ホルムアルデヒド含有量は10ppm以下。規定のチャンバー試験において、塗料を乾燥している時のホルムアルデヒド濃度は0.25ppm以下、乾燥24時間後のホルムアルデヒド濃度は0.05ppm以下。
(f)二酸化チタン系の顔料
二酸化チタン廃棄物による汚染削減及び汚染防止プログラムに関連する欧州委員会(EC)の議会令(92/112EEC)や、二酸化チタンの排出を制限する連邦汚染防止法(FAPA)に基づいて、二酸化チタンは使用されなれればならない。
5.有害物質を含まない室内用害虫予防・駆除剤(RAL-UZ 34、1999年1月初版)
1)適用範囲
2)基準
RALには、その他にも、製造加工中の仕掛品における不純物に対する基準、耐久性、包装方法及び表示、リサイクル及び廃棄などに関する基準が定められており、室内環境から地球環境までの環境全体を考慮した設計が求められています。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] Deutsches
Institut fuer Guetesicherung und Kennzeichung e.V., Willkommen beim
Umweltzeichen “Blauer Engel”, Status: April 2001
http://www.blauer-engel.de/