室内空気質:ガイダンスの開発
−イギリス保健省−
2001年12月10日
CSN #216
室内空気中の化学物質汚染による健康影響問題が懸念される中、日本では、関係省庁、関係団体、関連企業、市民団体などによって、さまざまな取り組みが行われています。その中でも厚生労働省による室内濃度指針値の策定は、この問題のベースとなる重要な取り組みであり、室内濃度指針値をもとに、建物の設計や住まい方に対してさまざまな取り組みが行われています。
このような室内空気中の化学物質汚染に対する取り組みは、欧米各国でも行われています。その中で、イギリス保健省(DH)の「空気汚染物質の医学的影響に関する委員会(COMEAP)」が、2001年6月に「室内空気質:ガイダンスの開発」の報告書[1]を発表しました。
この報告書によると、イギリスでは室内空気汚染よりも大気汚染に注力してきたのですが、室内でも同様の物質が影響すること、私たちが室内で生活している時間が長いこと(1日のうち80%以上)などから、イギリス保健省(DH)とイギリス環境運輸省(DETH)が、1)室内空気質の調査、2)パンフレット等による情報提供、3)建築物規制をベースとした「空気汚染改善計画」を数年前から開発してきました。
そして現在、その内容に関して見直し作業が進められており、第1ステップとして室内空気質ガイドラインの開発に対する議論が行われています。室内空気質ガイドラインの開発に対しては、既存の大気汚染の規制値との整合性など、いくつかの問題点が想定されていましたが、2000年11月にイギリス保健省のR. L. Maynard氏は、建物の設計者には室内空気汚染物質の許容レベルに関するガイダンスが必要であり、そのために室内空気質ガイドラインが提案されると結論しています。
この報告書には、室内空気質ガイドラインの開発に関する議論に使用された報告書「室内空気質−新たなスタート;INDOOR AIR QUALITY - A NEW START」が資料として添付されています[1]。この報告書は、イギリス環境運輸省(DETH)やイギリス保健省(DH)等の省庁から特別な研究やコンサルタント目的で資金提供を受けている、環境衛生研究所(The Institute of Environment and Health)が1999年10月に作成したもので、住環境における室内空気質ガイドラインが提案されています。表1にその一覧を示します。
表1 優先的にガイドラインが策定される可能性のある室内空気中の汚染物質([1]をもとに作成)
汚染物質 |
主な健康影響 |
健康影響の原因となる可能性* |
汚染源制御の可能性* |
ニ酸化窒素 |
呼吸器系 |
M |
H |
ホルムアルデヒド |
呼吸器系 |
M |
M |
総揮発性有機化合物 |
呼吸器系、中枢神経系 |
L |
M |
ベンゼン |
発がん |
M |
M |
一酸化炭素 |
死亡、中枢神経系 |
H |
H |
環境たばこ煙(ETS) |
呼吸器系、中耳炎、発がん、乳幼児突然死症候群(SIDS) |
H |
H |
粒子状物質(PM10) |
呼吸器系、心臓血管疾患(CVD) |
M |
M |
殺虫剤 |
多数の影響 |
(M) |
M |
多環芳香族炭化水素 |
発がん |
M |
L |
ハウスダスト |
喘息、アレルギー |
H |
M |
ペットアレルゲン |
喘息、アレルギー |
H |
M |
カビ |
喘息、アレルギー |
M |
M |
細菌 |
喘息、アレルギー、感染症 |
(L) |
(M) |
*H:高い、M:中程度、L:低い、( )付き:不確定
表1に選定された汚染物質は、健康及び毒性データから、一般家庭の人々に対して有害性があると確証できる物質が選定されています。特に、WHOの欧州空気質ガイドライン[2]や他国の室内空気基準[1]が参考にされています。また、室内空気質に影響する因子としては、化学物質以外に、カビやペットアレルゲンなどの生物汚染物質が考慮されるべきだと述べています。また基本原則として、温度や湿度などの物理的なパラメーターに対しても、ガイドラインが設定されるべきだと述べています。
そしてガイドライン設定に対しては、ALARP(アラープ;合理的に実行可能な限り低く)の原理にある実行可能性が考慮され、短期曝露に対するガイドラインと、長期曝露に対するガイドラインといった2種類以上のガイドラインが設定される可能性があると述べています。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] Department of Health, Committee on the medical effects of Air Pollutants,
“INDOOR AIR QUALITY: DEVELOPMENT OF GUIDANCE“, COMEAP/2001/10, June
2001
http://www.doh.gov.uk/comeap/issues.htm
[2] Air Quality
Guidelines for Europe 2nd edition. Copenhagen, WHO Regional
Office for Europe, January 26, 2000 (WHO Regional Publication, Europeans
Series, No. 91)
http://www.who.dk/