水生環境に対する有害化学物質規制リスト
−欧州委員会(EC)−
2001年2月19日
CSN #174
欧州委員会(EC)は、水生環境に影響を与える32の優先的な化学物質(priority substances: PS)と、その中から11の優先的な有害化学物質(priority hazardous substances: PHS)のリストを作成し、2000年12月にその最終報告書を発表しました[1]。この報告に係る研究の最終目標は、社会経済コストを評価することであり、今後さらに、水生環境に対する影響が包括的に評価され、4年以内に最終的な決定が行われる予定となっています[2]。
1997年に欧州委員会は、水生環境における欧州委員会の活動の枠組みを確立するよう欧州議会に提案しました。そしてそれは、2000年9月に、ウォーター包括指令(Water Framework Directive: WFD)として欧州議会で採択されました。そこには法的枠組み、化学物質の優先順位付けのための方法論を含む16の条項が含まれています。そして、水生環境に対して、あるいは水生環境を経由して私たちに重要なリスクを及ぼす化学物質の選定を検討し、COMMPS法(モニタリングとモデリングをベースとした優先設定法)を用いて、32の優先的な化学物質をリストアップしました。そしてその中から特に、淡水、沿岸、海洋環境に対して懸念の大きい化学物質を、優先的な有害化学物質(priority hazardous substances: PHS)としてリストアップしました。これらの化学物質は、最大20年以内に、流出・排出・漏洩の停止、あるいは段階的削減を行う対象物質となります。
これらの物質の選定は、有害性評価、環境中の危険分類、残留性有機汚染物質(POPs)などの国際的合意、欧州の法律や規制下でのリスクアセスメントによって行われました。またさらに、化学物質の生産量と使用量、PHSと選定した場合の社会経済影響も考慮されました。表1に欧州委員会がリストアップした優先的な化学物質(PS)と優先的な有害化学物質(PHS)を示します。
表1 欧州委員会がリストアップした優先的な化学物質(PS)と優先的な有害化学物質(PHS)([1][2]をもとに作成)
No |
CAS No. |
化学物質名 |
主用途 |
1 |
15972-60-8 |
アラクロールAlachlor |
アセトアニリド系除草剤 |
2 |
120-12-7 |
アントラセンAnthracene |
化学合成原料、木材防腐剤の原料、タール系塗料 |
3 |
1912-24-9 |
アトラジンAtrazine |
トリアジン系除草剤 |
4 |
71-43-2 |
ベンゼンBenzene |
化学合成原料(スチレン、クメンなど) |
5 |
n.a. |
臭素化ジフェニルエーテル |
化学合成原料(ウレタン樹脂)、難燃剤 |
6 |
7440-43-9 |
カドミウムとその化合物 |
電池、絵具の原料(色素) |
7 |
85535-84-8 |
クロロアルカン(C10-C13) |
金属細工用液体、塗料、接着剤 |
8 |
470-90-6 |
クロルフェンビンホス |
有機リン系殺虫剤 |
9 |
2921-88-2 |
クロルピリホス |
有機リン系殺虫剤、シロアリ駆除剤 |
10 |
107-06-2 |
1,2-ジクロロエタン |
塩化ビニルの原料 |
11 |
75-09-2 |
ジクロロメタン |
溶剤(塗料、接着剤、各種の化学反応過程) |
12 |
117-81-7 |
フタル酸ジエチルヘキシル |
プラスチックの可塑剤 |
13 |
330-54-1 |
ジウロン |
尿素系除草剤 |
14 |
115-29-7 |
エンドスルファン |
有機塩素系殺虫剤 |
959-98-8 |
(alpha-endosulfan) |
||
15 |
118-74-1 |
ヘキサクロロベンゼン |
国際的に使用されていないが、西欧の塩ビ工業地域での排出、移動がある。殺菌剤 |
16 |
87-68-3 |
ヘキサクロロブタジエン |
プラスチックの溶剤、炭化水素の洗浄剤 |
17 |
608-73-1 |
ヘキサクロロシクロヘキサン |
有機塩素系殺虫剤 |
58-89-9 |
(gamma-isomer, Lindane) |
||
18 |
34123-59-6 |
イソプロチュロン |
尿素系除草剤 |
19 |
7439-92-1 |
鉛とその化合物 |
蓄電池、屋根材、放射線遮蔽材、安定剤 |
20 |
7439-97-6 |
水銀とその化合物 |
蓄電池、塩素アルカリ工業、電気機器、測定機器、塗料 |
21 |
91-20-3 |
ナフタレン |
防虫剤、木材防腐剤、花火、染料 |
22 |
7440-02-0 |
ニッケルとその化合物 |
ステンレス鋼、非鉄合金、炭素鋼、メッキ |
23 |
25154-52-3 |
ノニルフェノール |
化学合成原料、界面活性剤、安定剤、洗剤、油性ワニス |
104-40-5 |
(4-(para)-nonylphenol) |
||
24 |
1806-26-4 |
オクチルフェノール |
界面活性剤の原料、界面活性剤の分解生成物、油溶性フェノール樹脂 |
140-66-9 |
(para-tert-octylphenol) |
||
25 |
608-93-5 |
ペンタクロロベンゼン |
有機塩素系農薬ペンタクロロニトロベンゼン製造時の中間生成物 |
26 |
87-86-5 |
ペンタクロロフェノール |
クロロフェノール系防腐剤、除草剤、殺菌剤 |
27 |
n.a. |
多環芳香族炭化水素 |
ものが燃えるときに発生(化石燃料を燃やす車や火力発電など) |
50-32-8 |
(Benzo(a)pyrene), |
||
205-99-2 |
(Benzo(b)fluoroanthene), |
||
191-24-2 |
(Benzo(g,h,i)perylene), |
||
207-08-9 |
(Benzo(k)fluoroanthene), |
||
206-44-0 |
(Fluoroanthene), |
||
193-39-5 |
(Indeno(1,2,3-cd)pyrene) |
||
28 |
122-34-9 |
シマジン |
トリアジン系除草剤 |
29 |
688-73-3 |
トリブチルスズ化合物 |
船底塗料、漁網の防腐剤 |
36643-28-4 |
(Tributyltin-cation) |
||
30 |
12002-48-1 |
トリクロロベンゼン |
除草剤、顔料、染料製造時の中間生成物 |
120-82-1 |
(1,2,4-Trichlorobenzene) |
||
31 |
67-66-3 |
クロロホルム |
HCFC-22(CHClF2)の原料、抗生物質の抽出溶剤、塗料、ピレスロイド系殺虫剤の原料 |
32 |
1582-09-8 |
トリフルラリン |
芳香族ニトロ系除草剤 |
|
2003年12月31日までに「優先的な有害物質」として採択される可能性のある物質 |
社会経済的影響に対しては、今後さらに包括的な評価が行われ、排出コントロールに対する提案は、コスト効率的にバランスのとれたレベルで行われる予定となっています。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] European Commission Directorate-General Environment,
J347/WFD, 12 December
2000
“Socio-Economic Impacts of the Identification
of Priority
Hazardous Substances under the Water Framework
Directive”
http://europa.eu.int/comm/environment/enveco/studies2.htm#31
[2] COMMISSION OF THE EUROPEAN COMMUNITIES, the Commission pursuant to Article 250 (2) of
the EC Treaty, COM(2001) 17 final,
2000/0035 (COD), Brussels, 16
January, 2001
“establishing the list
of priority substances in the field of water
policy”