過去を振り返り未来を守る−アメリカ環境保護庁−


200118

CSN #168

アメリカ環境保護庁(EPA)は、1970122日に誕生しました。大気汚染防止法(Clean Air Act)、水質汚染防止法(Clean Water Act)、スーパーファンド(Superfund)など、これまでさまざまな取り組みを行ってきました。2001年新たな世紀を迎えるにあたり、「Remember the Past – Protect the Future: 過去を振り返り未来を守る」という題目の報告書を20004月に発表しました[1]。この報告書は、未来へリスクを残さないように、1970年から2000年までの30年間を振り返ろうという内容となっています。

この報告書から、アメリカ環境保護庁Carol M. Browner長官のコメントを引用します[1]

EPAは、川に火がつき、都市が濃い煙の雲で覆われた30年前に誕生した。我々はそれ以来、著しい進歩を遂げた。だからといって我々は、立ち止まることはできない。環境と公衆衛生を守る我々の使命に終わりはない。新たな挑戦が、新たな時代の到来と同様に、地平線のむこうにぼんやり姿を現している。我々は、新たな夜明けや輝く太陽とともに、きれいな空、きれいな水、そして我々の家族が良好な健康に恵まれるように、我々の仕事を確実に継続しけなければならない。」

表1 アメリカ環境保護庁の歴史([2][3]から主な出来事を抜粋)

出来事

1970

  • 122日にアメリカ環境保護庁(EPA)が発足
  • 大気汚染防止法(Clean Air Act)が議会を通過

1971

  • 米国大気保全基準を設定
  • 二酸化硫黄、粒子状物質(PM)、一酸化炭素、光化学オキシダント、二酸化窒素の大気汚染危険レベルを設定

1972

  • 米連邦環境農薬規制法(FEPCA)が議会を通過
  • 連邦水質汚染防止法(FWPCA)改正案が議会を通過
  • 海洋投棄法(Ocean Dumping Act)が議会を通過
  • 有機塩素系殺虫剤DDTの禁止を発効

1973

  • 有鉛ガソリンの使用削減開始
  • 工場からの汚染排水の流出を規制

1974

  • 飲料水安全法(SDWA)が議会を通過
  • EPAは、健康と快適性に影響する騒音レベルを確認

1975

  • 議会が自動車の燃料経済性基準を制定し、触媒コンバーターの導入実施
  • EPAは、有機塩素系農薬ヘプタクロルとクロルデンの製造を禁止

1976

  • 資源保護回収法(RCRA) 議会を通過。有害廃棄物を規制
  • フォード大統領が毒性物質規制法(TSCA)に署名
  • EPAはポリ塩化ビフェニール(PCBs)の生産及び使用の廃止を開始

1977

  • カーター大統領が改正大気汚染防止法(Clean Air Act Amendments)に署名
  • EPAは、安全飲料水基準を設定

1978

  • ニューヨーク州ラブカナルにおいて、廃棄物埋立場跡地から放散する有害物質による汚染が発覚
  • オゾン層を破壊するCFC(フロン)の使用を禁止
  • EPAは、鉛の大気中新基準を設定

1979

  • スリーマイル島で原子力発電所事故が発生
  • EPAは、ポリ塩化ビフェニール(PCBs)の製造を禁止

1980

  • 有害廃棄物の処理・浄化に関する法律で、スーパーファンドとして知られている包括的環境対応補償責任法(The Comprehensive Environmental Response, Compensation and Liability Act: CERCLA)が議会を通過。1999年までに全国1,300のスーパーファンドサイトの半分を浄化予定

1981

  • アメリカとカナダの北東部で強い酸性雨が報告された

1982

  • 議会は放射性廃棄物の処分に関する法律を制定
  • ノース・カロライナ州のPCB廃棄物抗議運動によって「環境正義:environmental justice」の動きが始まった
  • アスベスト学校有害削減法(ASHAA)が議会を通過

1983

  • EPAは、肺がんの原因となるラドンガスの測定を居住者に推奨
  • EPAは、二臭化エチレンを禁止

1984

  • EPAは、チェサピーク湾の浄化を支持

1985

  • 科学者が南極大陸において巨大なオゾンホールの発見を報告
  • EPAは、ガソリン中の鉛に関する新制限を設定

1986

  • 議会は、有害化学物質が大気・土壌・水に排出されていることを大衆が知る権利を有するよう宣言
  • アスベスト有害緊急行動法(AHERA)が議会を通過

1987

  • アメリカ合衆国は、CFCの生産廃止を誓約するモントリオール議定書に署名
  • 有害化学物質報告規則が議会を通過
  • EPAがダイオキシン汚染を調査

1988

  • 議会は下水汚泥と産業廃棄物の海洋投棄を禁止(海洋投棄禁止法:ODBA)
  • 室内ラドン削減法(IRAA)が議会を通過
  • EPAは、地下貯蔵タンクの基準を設定

1990

  • 改正大気汚染防止法(Clean Air Act Amendments) が議会を通過
  • EPAの有害物質排出目録(TRI)によって、特定施設からの有害物質排出内容を大衆が知ることが可能となる。対象物質は1990328種類から1999年には644種類へ
  • ブッシュ大統領が汚染防止法(Pollution Prevention Act)に署名
  • EPAは、有害廃棄物の埋め立て処理を制限
  • EPA科学諮問委員会は、環境リスク削減戦略を推奨

1991

  • 連邦政府機関がリサイクル製品の使用開始
  • EPAは、エネルギー効率と有害化学物質排出削減に関する産業共同プログラムを開始

1992

  • EPAは、消費者がエネルギー効率の高い商品を選定できるように、エナジー・スター・プログラム(Energy Star Program)を開始
  • EPAは、少数民族のための環境リスク削減に最大限の努力を投じる
  • 国連地球サミットが持続可能な発展を促進
  • EPAは、23種類の化学物質に対する最終飲料水基準を発表

1993

  • EPAは、室内における非喫煙者の間接喫煙によって深刻な健康リスクが生じると報告
  • クリプトスポリジウムがミルウォーキーで発生。ウィスコンシン州の飲料水が汚染され、40万人が発病し、50人以上が亡くなった

1994

  • EPAは、廃棄・汚染されたサイトを使用できるよう浄化するためのブラウンフィールドプログラムを開始した
  • EPAは、毎年50万トン以上有害大気汚染物の排出を削減するための化学工場に対する新基準を発表した
  • EPAは、市民のための「有害物質知る権利リスト」を発表

1995

  • EPAは、二酸化硫黄の排出を削減するためのインセンティブを基本とする酸性雨プログラムを開始した
  • EPAは、1990年レベルから90%以上有害物質排出削減するための都市ごみ焼却施設を要求

1996

  • 家庭用飲料水の公共事業主に対して、飲料水中の化学物質と微生物に関して消費者に通知するよう要求。*現在では、アメリカの95%の住居が安全な飲料水を使っており、25千万人以上のアメリカ人が、自治体から水質報告書を受け取っている
  • EPAは、住宅を購入あるいは賃貸する人たちに対して鉛ベース塗料の有害性を知らせるよう要求「知る権利:Right-To-Know
  • 議会は、食物の農薬基準を強化するために食品品質保護法(FQPA)を制定
  • 改正飲料水安全法が議会を通過

1997

  • クリントン大統領は、子供の喘息や鉛中毒などの環境衛生リスクから子供を守るための行政命令に署名。*アメリカの学童の約1/3の子供が喘息。EPAは、親が喘息の原因となる環境要因から子供を守れるよう情報を提供

1998

  • EPAのホームページでは、空気質、水質、有害物質排出、飲料水の安全性、廃棄物に関する重要な情報を国民の提供
  • 連邦水質汚染防止行動計画(FCWAP)を発表

1999

  • クリントン大統領は、スポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)、ミニバン、トラックに対する自動車排気ガスの新排出基準を発表
  • スーパーファンドの改革によって、有害廃棄物の浄化が加速

2000

  • EPAは実質的に、クロルピリホス殺虫剤「ダーズバン」の使用を禁止
  • EPAは、ディーゼル燃料清浄化計画を支持

表1に示すように、EPA30年の歴史において、大気汚染防止法(CAA)、水質汚染防止法(CWA)、海洋投棄法(ODA)、飲料水安全法(SDWA)、毒性物質規制法(TSCA)、包括的環境対応補償責任法(スーパーファンド: CERCLA)など、さまざまな法律が制定されました。そして1990年代には国民の「知る権利」を重要視し、有害物質排出目録(TRI)が始動しました。TRIによって、地域住民は、自分たちが生活している地域や周辺工場からの有害物質排出量を把握できるようになり、市民レベルでの提言を行いやすくなりました。日本でも同様に、環境汚染物質排出・移動登録(PRTR)20014月から始動しますが、アメリカのTRIがモデルとなっています。

またこの30年間で、有機塩素系殺虫剤であるDDT、ヘプタクロル、クロルデン、絶縁油などに使用されたポリ塩化ビフェニール(PCBs)など、有害性の高い化学物質の使用が禁止され、有鉛ガソリンも段階的に削減されました。

この30年間には、いくつかの大きな事件も発生しました。ニューヨーク州ラブカナルでは、廃棄物埋立場跡地に居住する住民に健康被害が発生し、農薬、重金属、ダイオキシン類など80種類以上の有害化学物質が検出され、学校や300以上の住宅が取り壊されました。また、スリーマイル島の原子力発電所事故、オゾンホールの発見、酸性雨による森林被害などが起こりました。さらに最近では子供の健康影響について、特に喘息の増加を懸念しています。

 

アメリカ環境保護庁(EPA)は、21世紀への挑戦について、次のように報告書の中で述べています。

「私たちの生活の質を維持しながら、どのように改善していくかが重要であり、1970年代にあった「新車、大きな家」という考えではない。きれいな空気・きれいな水・開放空間・安全で健康的な環境、これらと産業成長のバランスをとるという概念へと進化すべきである。」

AuthorKenichi Azuma

<参考文献>

[1] EPA 902/R-00-001, US Environmental Protection Agency (EPA), ”Remember the Past; Protect the Future.” April 4, 2000
http://www.epa.gov/region02/epa30/

[2] Environmental Protection Agency (EPA) Timeline
http://www.epa.gov/history/timeline/index.htm

[3] The Official EPA 2000 Time Line
http://www.epa.gov/earthday/timeline.htm


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