大気毒性と室内空気質に関する報告書-Part1
―オーストラリア環境遺産省―
2001年1月29日
CSN #171
2000年11月にオーストラリア環境遺産省(DEH)が、大気毒性と室内空気質に関する最終報告書のドラフト(Final Draft of the State of Knowledge Report on Air Toxics and Indoor Air Quality in Australia)[1]を発表しました。オーストラリア連邦政府は、都市の汚染問題へ取り組むために、1999年からリビングシティ・プログラム(Living Cities: LC) を進めていました。このプログラムの要素は、空気質、都市の水路、廃棄物管理、都市の植生、沿岸の水質となっています。
そのうち空気質に関しては、大気毒性プログラム(Air Toxics Program: ATP)が進められており、大気と室内環境における優先的な空気汚染物質のマネジメント開発に取り組んでいます。そして大気毒性と空気質に関する報告書が、1999年10月の予備ドラフトから始まって、合計4回のドラフトとパブリックコメントを経て、2000年11月に最終報告書のドラフトとして発表されました。この報告書は、2001年2月にテキストとして出版される予定となっています。この報告書は、4つのパートで構成されています。以下にその概要を示します。
Part A:大気毒性
Part B:室内空気質(Indoor Air Quality: IAQ)
Part C:個々の汚染物質に関するファクトシート
Part D:抄録(オーストラリアにおける化学物質管理、測定法など)
本報から2回に分けて、この報告書の中から室内空気質の概要を紹介します。本報ではPart1として、室内空気質に対するオーストラリア国立保健医療研究審議会(NHMRC)の目標値を紹介します。
室内空気中からは、数十種類以上の汚染物質が検出されていますが、その汚染物質の毒性と濃度によっては、その空間で過ごす人たちの健康に影響を及ぼします。これまで欧米では、ビル関連疾患(BRI)やシックビルディング症候群(SBS)が室内空気質に関連した健康影響問題の1つとして取り組まれてきました。シックビルディング症候群の症状としては、乾性眼や流涙、鼻水、鼻詰まり、のどの渇きや痛み、皮膚の乾燥やかゆみ、皮膚の刺激や発疹、頭痛、疲労感、無気力などがあります。またその他、室内空気中のアレルゲンによる喘息、多種化学物質過敏症(MCS)、注意欠陥多動性症候群(ADHD)、慢性疲労症候群(CFC)なども室内空気質との関連が懸念されています。
このような室内空気質問題に対してオーストラリアでは、各政府機関によってさまざまな取り組みが行われてきました。その中でオーストラリア国立保健医療研究審議会(NHMRC)は、シロアリ駆除、レジオネラ菌、受動喫煙、ホルムアルデヒドなどに関連した問題を調査し、室内空気質暫定目標(Interim National Indoor Air Quality Goals)を1993年に発表しました。表1にNHMRCの暫定目標値を、表2に目標値の国際比較を示します。
表1 オーストラリア国立保健医療研究審議会(NHMRC)が勧告した室内空気質の暫定目標値([1]をもとに加筆)
物質 |
最大許容濃度目標値 |
測定基準 |
排出源事例 |
|
μg/m3 |
ppm |
|||
一酸化炭素 |
10,000 |
9 |
8時間平均値 |
不完全燃焼 |
ホルムアルデヒド |
− |
0.1 |
超過してはならない |
合板、パーティクルボード |
鉛 |
1.5 |
− |
3ヶ月平均 |
鉛含有塗料の粉塵飛散 |
オゾン |
240 |
0.12 |
最大1時間平均値 |
複写機、レーザープリンタ |
ラドン |
200 Bq/m3 |
− |
年間平均 |
基礎部の土壌 |
硫酸塩 |
15 |
− |
年間平均 |
外気 |
二酸化硫黄 |
700 |
0.5 |
10分平均 |
外気 |
700 |
0.25 |
1時間平均 |
||
60 |
0.02 |
年間平均 |
||
30μ未満微粒子 |
90 |
− |
年間平均 |
外気、たばこ煙 |
TVOC |
500 |
− |
1時間平均 |
合成建材、接着剤、塗料 |
*ホルムアルデヒド、ラドン、TVOC(総揮発性有機化合物)以外は、オーストラリア大気環境基準AS1668,2-1991を用いている
表2 室内空気質に対する目標濃度の国際比較([1]をもとに作成)
(単位:μg/m3)
室内空気汚染物 |
オーストラリアNHMRC(1993) 室内 |
カナダ厚生省(1987) 住居 |
ノルウェー保健理事会(1990) 室内 |
WHO(1987) 室内 |
アスベスト |
− |
− |
汚染源制御 |
発がん性物質 |
合成鉱物繊維 |
− |
− |
繊維飛散なし |
− |
ラドン |
200 Bq/m3 |
800 Bq/m3 |
200-800 |
発がん性物質 |
受動喫煙ETS |
− |
− |
禁止 |
− |
RSP |
TSP90 |
PM100 |
40 |
100 |
レジオネラ |
− |
2.5 |
− |
− |
ハウスダスト(HDM) |
− |
− |
1 g/g Der p 1 |
− |
細菌 |
− |
− |
病原体, 臭気なし |
− |
ホルムアルデヒド |
120 |
60-120 |
100 |
60 |
揮発性有機化合物(VOC) |
TVOC: 500(1h) |
− |
TVOC: 400 |
個々のVOCで設定 |
殺虫剤 |
− |
− |
− |
− |
二酸化窒素 |
レビュー |
480(1h) |
200(1h) |
400(1h) |
一酸化炭素 |
9ppm(8h) |
11ppm(8h) |
9ppm(8h) |
9ppm |
二酸化炭素 |
− |
3,500ppm |
1,000ppm |
1,000ppm |
オゾン |
240(1h) |
240(1h) |
− |
150(1h) |
二酸化硫黄 |
700(1h) |
1,000(5min) |
− |
− |
鉛 |
1.5(3mh) |
− |
− |
0.5-1.0 |
水銀 |
− |
− |
− |
1.0(1y) |
相対湿度(%) |
− |
30-80 |
− |
− |
*( ): y年、mh月、h時間、min分の各平均
*RSP:吸気可能浮遊粒子状物質、TSPトータル浮遊粒子状物質、PM10:直径10μ以下の粒子状物質
次回Part2では、家庭、学校、オフィスなどのエリアごとの室内空気質問題と全体の総括について紹介します。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] Department of the Environment and Heritage, Final Draft of the State of Knowledge Report on Air Toxics and Indoor Air Quality in Australia, November 2000