種々の温度とpHにおけるゼブライガイへのペンタクロロフェノール(PCP)残留物の致死濃度変化


1999年7月4日

CSN #074

ペンタクロロフェノール(PCP)は、国際がん研究機関(IARC)による分類でグループ2Bに属しており、人に対して発がん性を示す可能性があります。 

殺菌剤、除草剤として農薬登録されたが、1990年に登録失効し、ヘキサクロロジベンゾダイオキシン(HxCDD)を含むため問題となっています。防腐剤、除草剤、殺菌剤に用いられており、その毒性は、皮膚接触により強い刺激性を示します。大量に体内に吸収された場合、呼吸ひっ迫、血圧降下等の症状を示し、死亡する場合があるとされています。また、動物実験により催腫瘍性や催奇形性が認められたという報告があります。また、経皮吸収性があり、木材の防腐剤として木材を浸す作業を従事していた作業員が急性中毒により死亡した事例があります。 

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)のリストに挙げられており、免疫系、内分泌系、脳神経系への影響が懸念されている物質です。また、著しい海洋汚染物質であり、水生生物への影響に特に注意する必要があります。そして水生環境中で長期にわたる影響を及ぼすことがあります。 

イガイはmytilus属の二枚貝であり、海に生息し食用にされます。イガイは冷たい海を好み、固いものに固着しているか、お互いに糸のようなものでっくっついています。 

今回紹介する論文は、種々の温度とpH下でのゼブライガイの体内組織における、ペンタクロロフェノール(PCP)残留物の致死濃度を評価しています。その結果、PCPの毒性はpHや温度によって変化することが示されています。

 

<論文出典>

環境毒性と環境保護

Ecotoxicology and Environmental Safety, Vlo43,No3, July 1999, p274-283.

Susan W. Fisher, Haejo Hwang, Mark Atanasoff, Peter F. Landrum

http://www.apnet.com/www/journal/es.htm

(上記アドレスからゲストで入って下さい)

<概要>

ゼブライガイに対するペンタクロロフェノールの毒性が、種々の条件下pH (6.5, 7.5, 8.5) 及び温度 (10, 17, 25°C)の条件下で測定されています。毒性は、50%死亡した体内残留物濃度(LR50)を用いて評価されています。またLR50値は、体組織中のPCP濃度と50%死亡した化学物質投与濃度(LC50)の値を用いて試算されています。 

毒性は全ての温度下において、pHの増加とともに減少しています。つまり、ゼブライガイを飼育している水がアルカリ傾向を示す程、毒性が低くなっていることを示します。(通常水のpHは約7で中性) 

またある一定のpH下では、毒性は温度の増加とともに増加する結果が得られています。

条件

温度、pH条件の結果

PCPの毒性が最大

25°CpH 6.5

PCPの毒性が最小

10°CpH 8.5

この結果は、水生生物であるゼブライガイを用いてPCP毒性の生息環境変化による影響を研究しています。そして実験の結果、水の温度、pH(酸性−アルカリ性を表す指標)により、50%死亡した体内残留物濃度(LR50)が変化していることが示されました。 

一般に、動物実験などにより得られた毒性試験結果をもとに、私たちに対するADI (一日許容摂取量)TDI (耐用一日摂取量)などが決定されます。その際、人間と実験動物との感受性の差を考慮し、不確実係数(安全係数)が掛けられます。 

例えば、実験の結果LOAEL (最低有害影響量)が、体重1kg当たり10mg/ kg/ dayであった場合に、不確実係数を一般的に用いられる100倍を用いますと、ADI (一日許容摂取量)0.1mg/ kg/ dayと定められます。 

しかし実際には、この不確実係数は様々な数値が用いられています。例えば、ダイオキシンのTDIを定めた1998年のWHOの専門家会合では、10倍を用いています。その理由は、人間とこの時に採用された実験動物との感受性において、大差がないからというものです。 

私たちは様々な環境条件下で生きています。例えば、夏場と冬場の温度、湿度、体質、空気質、光(太陽光、紫外光、放射線など)などが人それぞれ異なります。本来ならば、そのような環境条件を考慮した毒性実験を行うべきかもしれませんが、実験にかかる費用と時間が膨大なものとなり、現実的には困難だと思われます。しかし、上記の実験結果が示すように、毒性は環境条件で異なる可能性があります。 

そうであれば、不確実係数をより安全側に設定してADITDIなどの基準を設定し、それをベースに排出、水質、土壌、大気、食物などにおける環境基準を設定すべきだと思います。


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