男性における水分摂取と膀胱癌リスク
1999年7月14日
CSN #077
私たちは体内水分のほとんどを、食事による通常の飲食物に含まれている水分によって補給され、適切な水分含有量が確保されています。人間が通常1日に摂取する水分量は約2.5リットル(飲料:1.2リットル、食物:1リットル)と試算されています。
水分不足により血液が濃縮されると、血液の循環が障害され酸素運搬機能が損なわれるので、運動能力が急速に低下します。体内水分の減少が体重の2%以下でも体温調節や運動能力が損なわれ、7〜10%体内水分が減少すると嘔吐や幻覚症状意識障害が現れ、生命が危険な状態に陥ると言われています。
それだけ体内水分濃度は、私たちの健康にとって重要なものです。今回紹介する研究論文は、男性における水分摂取量と膀胱癌リスクの関連性です。水分摂取量が増加すると膀胱癌リスクが減少する可能性が示唆されています。
<論文出典>
ニューイングランド医学雑誌
http://www.nejm.org/content/1999/0340/0018/1390.aspThe New England Journal of Medicine -- May 6, 1999 -- Vol. 340, No. 18
<研究者>
Dominique S. Michaud, Donna Spiegelman, Steven K. Clinton, Eric B. Rimm, Gary C. Curhan, Walter C. Willett, Edward L. Giovannucci:ハーバード大学
<概要>
これまでの研究によって、排尿頻度が多いと尿路上皮で検出された発癌物質濃度が低くなることが報告されている。つまり人間において、総水分量摂取を増加することにより、尿の代謝物を希釈し、その排泄頻度を増加することによって、尿路上皮中の発癌物質存在時間を減少できる可能性がある。しかしこの関連性に関する結論を導いた報告がなかった。
そこで本研究者らは、総水分摂取量と男性における膀胱癌との関連性について統計的研究を行っている。
1)調査方法
総水分摂取量と膀胱癌リスクの間の関係について、医療従事者を対象とした10年間に及ぶ 47,909人の調査研究結果を解析している。このアンケートは、1986年に癌にかかっていなかった47,909人の調査参加者から作成されたものであった。
この間に、252件の膀胱癌が新たに診断された。総水分摂取量は、食事に関するアンケート調査における 22のタイプの飲料消費頻度報告から得た。ロジスティック回帰分析によって、既知であったり疑わしいと思われる膀胱癌リスク要因を調整した。
2)解析結果
日常総水分摂取量は、膀胱癌リスクと負の相関性を示した。つまり、日常水分摂取量が多いと膀胱癌リスクが減少するという相関性が得られている。
日常水分摂取量の比較項目 |
膀胱癌に関する多変量相対危険度 |
1290 ml/日以下(低い方の20%) に対して 2531 ml/日以上(高い方の20%) |
0.51(95 %信頼間隔: 0.32 - 0.80) |
240 ml/日(カップ 1 杯)の低リスク に対して 1440 ml/日 (カップ 6 杯)以上の摂取量 |
0.49(95%信頼間隔: 0.28 - 0.86) |
735 ml/日以下の水以外の飲料摂取 に対して 1831 ml/日以上の水以外の飲料摂取 |
0.63(95 %信頼間隔: 0.39 - 0.99) |
大まかに説明すると、上表レベルの水分摂取量増加により、膀胱癌リスクが半減する。よって本研究者らは、水分摂取量が多いと男性における膀胱癌リスクを減少させる可能性があることを示している。