日焼けで致命傷になるのか?
1999年7月17日
CSN #078
人間の体は太陽光に当たると、その中の紫外線成分と人間の皮下脂肪中の物質とによって、皮膚の下でビタミンDを合成することができます。夏に海水浴や日光浴をすると、冬になっても元気でいられるという話がありますが、太陽光を十分に浴びることで皮膚に抵抗力がつき、ビタミンDがたくさん蓄えられることに関係があるからだと言われています。また北欧の人が、夏のバカンスで南欧に行って日光浴をするのは、そのためとも言われています。
ビタミンDは、カルシウム吸収のために必要です。 カルシウムが吸収される時には、ビタミンDが関係します。ビタミンD不足では、カルシウム吸収性が低下します。そのため、健康な骨を作るには、適度な運動やカルシウムのほかにビタミンDが必要です。日光を浴びることは、体内でビタミンDが生成され、くる病や骨粗鬆症の予防になるなどのメリットがあるということです。しかし反面、皮膚の老化促進や皮膚ガンなど、紫外線の浴び過ぎによる害もありますので、注意が必要です。
紫外線は、太陽光を構成する光線の一つで、目に見える「可視光線」よりも波長の短い目に見えない光線です。紫外線は波長により以下のように分類されます。
分類 |
波長域(nm) |
健康影響 |
UVA |
400-320 |
真皮に作用し、コラーゲンやエラスチンなどの蛋白成分が変性して、シワ・たるみの原因となる。紫外線の影響で起こる老化を光老化(Photaging)という。 |
UVB |
320-280 |
表皮に作用し、色素細胞でメラニンが作られて褐色調になる。(皮膚の防御反応:日焼け)炎症・シミ・ソバカスを引き起こす。長期曝露蓄積による皮膚癌との関連性。 |
UVC |
280以下 |
成層圏のオゾン層に吸収され地表には届かない。 |
一般に、日焼けサロンで用いられているランプはUVAランプで、約340-420nm波長域の紫外線を放射しています。またUVBは、UVAに対して0.1%以下しか放射していません。
今回紹介する論文は、日焼けに関してその有害性と有益性についてまとめた、英医学会雑誌(BMJ)の教育討論報告です。日焼けに関する英国医学研究者の考え方を参考にして下さい。
<論文出典>
英医学会雑誌(BMJ) BMJ 1999;319:114-116 ( 10 July )
http://www.bmj.com/cgi/content/full/319/7202/114
Andrew R Ness, senior lecturer in epidemiology, Stephen J Frankel, professor of epidemiology and public health medicine, David J Gunnell, senior lecturer in epidemiology, George Davey Smith, professor of clinical epidemiology.
ブリストル大学 社会医学部
<概要>
1.緒言
これまでの考え方を以下のように整理しています。
1)日焼けに対する有害性
医療及び健康管理の専門家達は、太陽光を浴びること(特に炎症を起こすほどの日焼けになる曝露)が健康に良くないという考えを持っていた。また一般の人々には、太陽光を浴びることは健康に良くないと伝えられてきた。
2)日焼けの有益性
今世紀行われた研究から、太陽光は皮膚結核の効果的な治療とみなされている。
(注釈)
結核は、人間への抗酸菌感染による全身性疾患であり、この病気は伝染性のある肺結核が疫学上最も重要ですが、皮膚から骨、中枢神経系まで全身の如何なる部位にも病巣を作る消耗性疾患とされています。
太陽光は一般的には有益なものと考えられており、現在でも乾癬といった皮膚病の治療のために、日光療法を提供する健康リゾート地が世界中にある。
現在でも多くの人々が日光浴をしている。1995年にイングランドで行われた調査によると、16-24歳の人々の40%は、前年(1994年)に炎症を起こすほどの日焼けをしているとの報告があった。また16-24歳の人々の40%は、こんがり焼けた日焼け(茶褐色の日焼け)は重要であると考えていた。また、海外旅行に定期的にでかける20-35歳のスコットランドの人々への調査によると、こんがり焼けた日焼け(茶褐色の日焼け)は、健康的に感じると報告されている。
本論文では、日焼けの有害性と有効性について再調査し、日焼けが人間を死亡させる原因となり得るかについて考察している。
2、太陽光を浴びることによる有害性と健康影響
1)悪性黒色腫
太陽光を浴びること(以下、太陽光曝露とします)によって、炎症を起こすほどの日焼けが生じることは、皮膚において悪性黒色腫発生率増加につながると信じられてきた。そこで、悪性黒色腫と太陽光曝露の間に実際にどんな関係があるかについての報告を以下に示します。
<最近行われた患者対照研究による体系的調査>[1]
黒色腫リスク研究結果
調査項目 |
黒色腫発生率 |
断続的な太陽光曝露 |
1.71(71%増加)、(95%信頼間隔:1.54 - 1.90) |
炎症を起こすほどの日焼け |
1.91(91%増加)、(95%信頼間隔:1.69 - 2.17) |
仕事中の太陽光曝露 |
0.86(14%減少)、(95%信頼間隔:0.76 - 0.96) |
太陽光曝露により、全体的に黒色腫発生率は増加している。しかし、太陽光曝露を減少させることで黒色腫発生率減少に結びついたとしても、それが死亡率全体に与える影響はわずかであり、延命効果は小さいと著者らは述べています。
[1] Elwood JM, Jopson J. Melanoma and sun exposure:
an overview of published studies. Int J Cancer
1997; 73: 198-203.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/htbin-post/Entrez/query?db=m&form=6&uid=9335442&Dopt=r
また、著者らはこの件に関して以下のように述べています。
「1995年にイングランドとウェールズで、 697人の男性と 698人の女性が、悪性黒色腫が原因で死亡した。太陽光曝露を避ける強力な運動を展開することで、この死亡数をある程度減らすことは可能と思われる。しかし例えば、人々が早期発見と早期治療判断の認識を増すことによって、太陽光曝露を減らさなくても、悪性黒色腫による死亡率を減らすことができるかもしれない。」
2)他の悪影響
他の悪影響として、以下の疾病に関して著者らは述べています。著者らは致命的疾病になるかどうかといった観点で考察しています。
「良性型皮膚腫瘍(例えば、有棘細胞癌(SCC)や基底細胞癌) 、白内障、皮膚老化の疾病率の増加が、断続的あるいは累積的な太陽光曝露に関連している。これらの疾患は疾病率全体の増加の重要な原因である一方、たいてい治療で治癒でき致命的にはならない。1995年におけるイングランドとウェールズでの 264人の男性と 175人の女性の死亡は、非黒色腫の皮膚腫瘍によるものであった。しかし最近、太陽光曝露は、非ホジキンリンパ腫発生率を増加することが示唆された。この仮説は推測であり、まだ確認されわけではない。」
3,太陽光曝露による有益性
日光浴と言う言葉があるように、太陽光の下で健康的にレクレーションすることは、精神衛生上、大切なことだと思います。以下に太陽光曝露による有益について、本論文からの報告を示します。
1)冠状動脈性心臓病(CHD)
冬季に太陽光曝露を減少することで、心血管死亡率と心血管リスクを減少できる可能性が報告されています。また以下の研究では、急性心筋梗塞症発生率減少との関連性が示されています。
<Scragg らによる急性心筋梗塞症の患者対照研究>[2]
急性心筋梗塞症の患者対照研究において、平均値未満の濃度の25-ヒドロキシコレカルシフェロールD3(ビタミンD3が肝臓内で酸化された物質)濃度と比較して平均値以上の濃度の25-ヒドロキシコレカルシフェロールD3濃度を有すると、急性心筋梗塞発生率が 0.43 (95% 信頼間隔 0.27 - 0.69)になると報告しています。
つまり上記の場合では、太陽光曝露でビタミンD3が平均値以上の濃度を有すると、急性心筋梗塞発生率がおよそ半減することを示しています。
著者らはこの報告について、以下の見解を述べています。
「この発見は仮説的ではあるが、冠状動脈性心臓病(CHD)は重要な死亡原因である。例えば1995年において、イングランドとウェールズで 73,129 の男性、 60, 732の女性の死亡は、虚血性心疾患(IHD)が原因であった。太陽光曝露による緩やかな保護効果は、かなりの死亡率減少効果をもたらすことが可能である。」
[2] Scragg R, Jackson R, Holdaway IM, Lim
T, Beaglehole R. Myocardial infarction is
inversely associated with plasma 25-hydroxyvitamin
D3 levels: a community-based study. Int J
Epidemiol 1990; 19: 559-563[Medline].
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/htbin-post/Entrez/query?db=m&form=6&uid=2262248&Dopt=r
2)精神衛生
快晴の日は、すがすがしく気持ちの良いものです。太陽光曝露と精神衛生について、著者らは以下のコメントを述べています。
「太陽の下で、寝そべったり座ったりしながら、楽しんだりくつろぐことは、精神衛生上とても重要なことである。太陽光曝露の季節変動は、鬱病などの季節性情動障害(SAD)と関係があるかもしれない。また、早春に自殺行動がよく増加するのは、他にも考えられるが、昼間の長さや太陽光の曝露傾向に関連しているかもしれない。精神病は、国民の健康にとって重要な問題である。そして太陽光曝露による有益な効果は、国民の病気による苦しみをかなり減らすことができるだろう。」
3)他の病気
太陽光暴露に関して、以下の病気への有益性を著者らは述べています。
「太陽光曝露はビタミンDを増加させ、子供の骨軟化症や幼年時代のくる病のリスク、骨軟化症リスク、成年期における骨折リスクを減少する。加えて紫外線(太陽光に含まれる紫外線、医療で用いられる紫外線、)は、ヨーロッパ系の人々の 2%が患っている乾癬のような皮膚状態を治療することに用いられる。太陽光曝露が多発性硬化症 (MS)発生率を減少させることが、これまで報告されている。」
4,結論
著者らは以下のように結論を述べている。
私たちは、何千年、何万年も前から太陽光の下で働き暮らしてきています。太陽光を浴びることは、曝露量と曝露時間、また断続性と累積性によって有害であったり有益であったりします。炎症を起こすほどに曝露することは避けるべきでしょう。しかし有益性を考慮し、ほどよく健康的に日光に当たることが重要だと思います。夏なら日陰で、冬なら日当たりの良い所で浴びることが良いのではないでしょうか。
東 賢一