EPAによるダイオキシン類再評価報告書
2000年7月10日
CSN #143
アメリカの環境保護庁(EPA)は1991年以来、ダイオキシン類への曝露と人の健康影響に関する再評価を行ってきました。そして2000年6月12日に、そのドラフト[1]を発表しました。
ダイオキシン類は、性質がよく似た化合物の総称で、次に示す化合物があります。
・ 塩素化ジベンソ-p-ダイオキシン(CDDs)
・ 塩素化ジベンソフラン(CDFs)
・ コプラナーポリ塩化ビフェニール(Co-PCBs)
ダイオキシン類の中で最も毒性が高い化合物は、2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(TCDD)で、最もよく研究されている化合物でもあります。EPAの報告書では、「TCDDとその他の関連化合物の再評価」という題目が用いられています。この報告書の主な内容について、以下に概説します。詳細は原本を参考にして下さい[1]。
1.ダイオキシンの毒性
生殖系及び発達系、免疫抑制、クロアクネ(皮膚の塩素座瘡)、がんなどへの影響に関する再評価を行い、がんに関して、動物実験の結果や高濃度に曝露した人たちの研究報告から、次のように分類しました。
TCDD:人に対して発がん性を示す
その他の関連化合物:人に対しておそらく発がん性を示す。
2.ダイオキシン類への曝露状況
ダイオキシン類は、主に大気中へと排出され、広く環境中に分布しています。その主な排出源は、ごみの焼却施設からであり、さまざまな対策が行われてきました。その結果、1970年代からアメリカでは環境中へのダイオキシン類排出量は減少し、1987年:13,564 g TEQdf -WHO98に対して1995年:2,835 g TEQdf -WHO98と約80%減少しています。
しかしダイオキシン類は、環境中で分解しにくい化学物質であり、環境中での残留性や、動物の脂肪組織への蓄積性が高い化学物質です。私たちが摂取するダイオキシン類の95%以上は、食物から摂取しています。これは、土壌、水、大気中へ排出されたダイオキシン類は、小さなプランクトンから小魚、大きな魚、鳥類、哺乳類まで食物連鎖を経由して徐々に濃縮されていき、私たち人間がそれらの魚や鳥類や哺乳類を食べるからです。EPAの報告書から、アメリカにおける年齢別のダイオキシン類摂取量を表1に、成人の摂取経路を図2に示します[1]。
表1 アメリカにおける年齢別のダイオキシン類摂取量
年齢 |
摂取量 (pg TEQDFP-WHO98 /日) |
摂取量(体重1kgあたり) (pg TEQDFP-WHO98 /kg-日) |
1−5歳 |
54 |
3.6 |
6−11歳 |
58 |
1.9 |
12−19歳 |
63 |
1.1 |
成人 |
70 |
1.0 |
3.一般の人たちへの影響
EPAは、動物実験や人の疫学調査報告から、一般の人たちのダイオキシン類への曝露による発がんリスクの上限が、5×10―3から5×10−4/pgTEQ/kg体重/日の範囲内であると試算しました。これは、1日あたり体重1kgあたり、1pgTEQのダイオキシン類を一生涯摂取し続けた場合、発がんリスクの上限が、100,000人のうち2人から20人の範囲であるということを意味しています。つまりこのレベルの摂取量では、大多数の人々は発がんリスクがほとんどないと想定されると報告しています。
しかし、現在の一般の人たちの体内蓄積量は5ng/kg体重(血漿液1gあたり20pgの濃度とほぼ同じで、1日あたり体重1kgあたり3pgTEQのダイオキシン類を平均的に摂取して得られる)と試算されており、この濃度と現在の摂取量を考慮した場合、発がんリスクの上限(95パーセンタイル)が、1,000人のうち1人から10人の範囲であると試算しました。この数値は、1994年に行ったリスク評価における発がんリスクの上限値の10倍となっており、今回の再評価によってダイオキシン類による発がんリスクが高く評価されました。
しかし実際には一般の人たちにおいて、何らかの疾病が増加したという明白な兆候はなく、これまでの科学データや科学的解析手法に制限があることが原因である可能性があると報告しています。
表1に示すように、EPAが試算した現在の成人のダイオキシン類摂取量は、1.0 pg TEQDFP -WHO98 /kg-日です。EPAはこの数値の低減目標値を0.1 pg TEQDFP -WHO98 /kg-日とするよう報告しています[2]。
4.子供などへの影響
成人よりも発育や発達が速い子供たちは、よりダイオキシン類への曝露による影響が懸念されます。表1に示すように、子供たちは成人よりもダイオキシン類の摂取量が多いと試算されています。特に、日本をはじめ世界各国の工業国の報告から、母乳が高濃度のダイオキシン類に汚染されていることが明らとなっています。そのため母乳栄養を受けている乳児は、成人や母乳を飲まない子供たちよりもダイオキシン類の摂取量が多くなっています。そして母乳栄養を受けている乳児の脂肪組織中のダイオキシン類濃度は、成人25ppt TEQDFP -WHO98に対して、20から40ppt TEQDFP -WHO98の間と試算されました。
しかしEPAは、これまで一般の子供たちが、日常レベルのダイオキシン類の摂取によって、何らかの影響が示されたことがわかっておらず、母乳はダイオキシン類の重要な汚染源ではあるが、母乳の有益性を支持すると報告しています。
5.今後の予定[1][3]
1)2000年7月25日、26日にワシントンDCで専門家会合を開催し、この報告書の内容を審議します。その内容はインターネットで公開されます。また、2000年6月12日からパブリックコメントを受け付けています。
2)専門家会合での審議結果及びパブリックコメントを受けて再度報告書の内容を再検討し、2000年9月に最終報告書としてアメリカ科学諮問委員会(SAB: Scientific Advisory Board)に提出されます。
3)2000年10月または11月に、アメリカ科学諮問委員会(SAB)による会合が開催されます。そして2000年末までに、アメリカ科学諮問委員会(SAB)が、一般公開用のEPAのダイオキシン再評価最終報告書として承認します。
Author:東 賢一
<参考文献>
[1] Environment
Protection Agency (EPA), Dioxin Reassessment
(Draft Documents), June 12, 2000
http://www.epa.gov/ncea/pdfs/dioxin/dioxreass.htm
[2] Status of Dioxin Reassessment and Policy Response, Environmental Protection Agency (EPA)
[3] アメリカ連邦公報, Federal Register, Vol. 65, No. 113, June 12, 2000