英国学士院による内分泌攪乱化学物質(EDCs)報告書


2000年7月17日

CSN #144

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の問題が国内で大きく取り上げられてから数年が経過しました。最近はマスコミに取り上げられることが少なくなりましたが、研究レベルでは活動がさらに活発化しており、徐々に研究が進行しています。この問題は、生物の生殖系への影響が懸念される非常に重要な問題であり、本当に何が起こっているのかを明らかにする必要があります。現時点ではまだまだ不明な点が多い内分泌攪乱化学物質問題ですが、今後の研究成果を注意深くみていく必要があると思われます。 

ダイオキシン・環境ホルモン問題に取り組む国内最大のNGO「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」では、環境ホルモン委員会が中心となって、市町村別の男女の出生性比に関する調査を開始しました。200078日にその中間報告が発表されましたが、男女の出生性比が微妙に変化している地域や時期が見いだされています。その原因の調査はこれからですが、今後多くの国や専門家たちに協力を呼びかけて、環境汚染化学物質との関連性があるのかどうかについて、明らかにしていく予定となっています。 

英国学士院(The Royal Society)2000628日に、「Endocrine Disrupting Chemicals (EDCs)という報告書を発表しました[1][2]。その内容は、'gender benders'(ジェンダー・ベンダ、性差をあいまいにする)化学物質に対して油断してはいけないということ、そして国家間及び国際的な内分泌攪乱化学物質問題への取り組みに対する協調を求めています。この報告書は、ケンブリッジ大学で行動生物学を専門とし、英国学士院の副院長であるPatrick Bateson教授が率いるワーキンググループによって作成されました。そして特に、妊婦が内分泌攪乱化学物質の疑いがある化学物質への接触を避けるよう強く勧告しています。そして、今後の研究に関して次のキーワードを掲げています[2]。 

1)     内分泌攪乱の性質を示す化学物質

2)     化学物質間の相互作用

3)     環境中におけるこれらの化学物質の寿命と作用

4)     これらの化学物質に対する人や野生生物の曝露レベル

5)     これらの化学物質が悪影響を生じる可能性のあるレベル 

日本も同様ですが、英国内には農薬などの特定の化学物質に対する使用・製造・販売などの規制がありますが、各々その規制を担当する省庁が異なります。この報告書では、各省庁が同一歩調をとって研究をすすめ、科学的知見に基づいて必要性を明確にし、必要があれば素早く規制を行うよう提言しています。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] Natasha Loder, Nature, Vol. 406, No. 6791, 2000 

[2] The Royal Society, Endocrine Disrupting Chemicals (EDCs), June 28, 2000
http://www.royalsoc.ac.uk/


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