廃棄物焼却施設からの灰による土壌汚染
2000年7月24日
CSN #145
2000年6月29日環境庁は、日本のダイオキシン類の排出量目録(排出インベントリー)を発表しました。その概要を図1に示します[1]。
*WHO-TEF(1998)
1)塩ビ、セメント、鋳鍛鋼、伸鋼品、電線・ケーブル、ダイカスト、製紙
2)火葬場、火力発電、自動車排ガス、たばこ煙
図1から明らかなように、ダイオキシン類排出量は、廃棄物焼却施設からの割合が多いことがわかります。ごみなどを焼却した時に発生する灰のうち、排出ガス出口の集塵装置で収集された煤じんと、ボイラなどに付着して払い落とされた煤じんを総称して飛灰(fly ash)と呼びます。また、焼却施設の炉底などに残留して排出される灰を、焼却残灰(主灰、bottom ash)と呼びます。廃棄物焼却施設で生成されたダイオキシン類は、排出ガスとともに飛灰や焼却残灰にも含まれます。
2000年4月7日、英国ニューカッスル大学Tanja Pless-Mulloli博士らは、ニューカッスル市にあるByker焼却施設から排出された灰を使用して作られた貸出農園のフットパス(歩道)や、焼却施設周辺の貸出農園の土壌中における、重金属類とダイオキシン類の分析結果を発表しました[2]。そして、高濃度の重金属類とダイオキシン類が検出されました。
Byker焼却施設から排出された灰の排出経路と曝露経路を図2に示します。
*異食症(pica):食欲の倒錯で普通食べないもの(土、砂、虫)を口にすること。
Byker焼却施設では、1994年から1999年までの間、隣接した再生工場で、石炭・ゴムタイヤから作られたごみ固形燃料(RDF)を主に焼却し、そこで得られた熱を地域暖房や発電のために利用していました。(ただし1999年1月からは、石炭のみを燃料として使用)
Byker焼却施設では、乾燥石灰を利用して飛灰を収集し、スラグや焼却残灰と混合(灰と略す)していました。そしてニューカッスル市は、市の貸出農園などの歩道用材料に、その混合した灰を使用してきました。そして1994年から1999年まで、最小10トンから最大150トンの灰が、ニューカッスル市にある44のサイトに運び込まれました。
Pless-Mulloli博士らは、汚染レベルやコントロール地域を含めて表1に示す地点を選択し、2000年2月に深さ2-25cmの場所から土壌サンプルを採取しました。そして重金属類とダイオキシン類を測定し、表2の結果を得ています。
表1 サンプルを採取したサイトの概要([2]をもとに作成)
|
サイト数 |
概要 |
A |
16地点 |
Byker焼却施設の灰が運び込まれた貸出農園などのフットパス |
B |
4地点 |
Byker焼却施設周辺の貸出農園の土壌 |
C |
2地点 |
Byker焼却施設から残灰を受け取っていないと記録されている貸出農園のフットパス |
*フットパス:農園や公園などにある歩道や散歩道
表2 重金属類とダイオキシン類の測定結果([2]をもとに作成)
|
ヒ素 |
カドミウム |
クロム |
銅 |
水銀 |
ニッケル |
鉛 |
亜鉛 |
ダイオキシン類 |
単位 |
mg/kg |
ng/kg I-TEQ |
|||||||
基準値1) |
20 |
1 |
100 |
50 |
0.5 |
50 |
50 |
200 |
52) |
A |
11 |
5.7 |
93 |
1045 |
0.2 |
45 |
407 |
548 |
918 |
B |
25 |
1.6 |
63 |
250 |
0.9 |
52 |
708 |
602 |
35 |
C |
14 |
0.7 |
47 |
109 |
0.8 |
55 |
429 |
274 |
15 |
1)Dutch list: オランダのガイドライン値
2)Basler list: ドイツにおける土壌の目標値(PCDDs+PCDFs)
土壌中のダイオキシン類濃度 |
勧告内容 |
5ng 未満 |
目標値 |
5−40 未満 |
作物の栽培に対する制限は必要ないが、クリティカルな土地への使用は避けること |
40−100 未満 |
定められた農業や園芸への使用制限、ダイオキシンの吸収が非常に低い作物のみ制限の必要がない。 |
100−1,000未満 |
遊び場の場合、修復が必要(立入禁止、浄化、土壌の入れ替え) |
1,000以上 |
住宅地域の場合、修復が必要 |
表2から明らかなように、Byker焼却施設からの灰が運び込まれたAグループの土壌から高濃度のカドミウム、銅、ダイオキシン類が検出されました。また、BグループであるByker焼却施設付近の貸出農園の土壌からも、ガイドライン値や目標値を越える銅、鉛、亜鉛、ダイオキシン類が検出されました。
これらの結果を受けてニューカッスル市議会は、ただちに全ての関連サイトから灰を取り除きました。そして2000年4月7日、ニューカッスル保健局とニューカッスル市議会は、事前予防策として次の助言を行い、保健省、環境庁、食品標準庁で研究チームを結成するよう勧告しました。そして今後、卵、肉類、野菜を分析し、健康に対するリスク評価を行う予定となっています。
廃棄物焼却施設やごみ固形燃料(RDF)による発電施設から排出される灰は、焼却する廃棄物や原料の組成、焼却条件などによっては、高濃度の有害化学物質が含まれる場合があります。排出された灰は適切な処理を行うこと、焼却する廃棄物や原料に可能な限り重金属が含まれないようにすること、ダイオキシン類が生成しないように適切な焼却条件を構築すること、焼却する廃棄物の量をできるだけ減らすことなどによって、廃棄物焼却施設などから排出される灰によって環境汚染や健康影響が生じないようにする必要があります。
Author:東 賢一
<参考文献>
[1] 環境庁によるダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー), June 29, 2000
[2] Newcastle City
Council (英国ニューカッスル市議会), FULL REPORT ON ASH FROM
BYKER HEAT STATION, May 25, 2000
http://www.newcastle.gov.uk/newsrel.nsf/b8da7086f70880de8025677c002ee58d/3375c612f32bf745802568ea003a920d?OpenDocument