生分解性プラスチックへの取り組み


2000年7月3日

CSN #142

1910年にフェノール樹脂を使って世界で初めてプラスチックが実用化されて以来、天然素材に比べて安定性に優れる、軽くて丈夫、成形加工が容易、応用分野が広いなどの各種特性を活かし、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂など様々なプラスチックが開発されました。そして私たちの生活に深く入り込み、さまざまな用途に使用されています。 

プラスチック開発の歴史において、安定性が低いプラスチックに対しては使用中の品質の安定性を高めるため、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤など様々な安定剤の開発も行われました。そのためプラスチックは一般的に、廃棄物として自然環境中に排出された場合、分解することなく蓄積されていくことになり、私たちは廃棄物として排出されたプラスチックを焼却、埋め立て、リサイクル等の処理を行っています。図1にプラスチックの生産量と排出量を示します[1]

 

このような状況の中、廃プラスチックによる海洋汚染、製品使用中における有害化学物質の溶出、埋め立て処理における有害化学物質の浸出、焼却処理における有害化学物質の排出など、プラスチックが環境へ与える負荷が懸念されています。そしてリサイクル率向上のための技術開発や環境整備、代替素材への転換などが行われています。 

廃棄物処理という観点で考えた場合、「生分解性」という技術が注目されています。これは、ある環境中において、微生物の作用により分解する性質を示すものであり、安定を求めてきたプラスチックに対しても、廃棄物処理問題を考えるうえで、廃棄後の生分解性に関わる研究が行われてきました。このような生分解性を有するプラスチックは「生分解性プラスチック」と呼ばれています。生分解性プラスチックは、次のように定義されています[1]。また図2に、生分解性プラスチックの分解サイクルの概念図を示します[1][2] 

「使用中は従来のプラスチックと同等な機能を持ちながら、使用後は自然界に存在する微生物の働きによって低分子化合物に分解され、最終的には水や二酸化炭素などの無機物に分解される高分子素材」

 

図2に示すようなサイクルを有する生分解性プラスチックには、次のような特徴があります[1] 

1)     自然界に排出された場合、自然環境中に残留せずに水や二酸化炭素などに分解されるため、自然環境に影響を及ぼさない。

2)     埋立ててから一定期間経過後、水や二酸化炭素などに分解するため、埋立処分場の延命化に役立つ。

3)     生ごみと一緒に処理してコンポスト化(堆肥化)することが可能。

4)     既存のプラスチックよりも発熱量が低いため、焼却炉に与える負荷が小さい。

 

1920年代に欧米で研究が開始され、1970年代に米国では医療分野で生体吸収性を有する手術用縫合糸で使用され始め、1990年代には日欧米で商品化が始まり、現在は離陸期と言われています。表1に生分解性プラスチックの種類や特徴、表2に期待される用途と採用実績を示します[1] 

表1 生分解性プラスチックの種類、価格、分解率[1]をもとに作成)

製法分類

生分解性プラスチック

現在の価格

(/kg)

好気的土壌中

20日後の分解率(%)

微生物合成

脂肪酸ポリエステル系

1,000-1,500

35

多糖類

500-800

90以上

天然物誘導

デンプン複合物系

デンプン

化学合成系

脂肪族ポリエステル系

800-1,000

20-60

ポリエステルアミド系

ポリカプロラクトン系

2,000

40-70

ポリ乳酸系

700-2,000

80以上

酢酸セルロース系

(参考)汎用樹脂

ポリエチレン、ポリプロピレン

100-150

*価格、分解率は代表製品を例にあげた。 

表2 生分解性プラスチックの期待される用途[1]をもとに作成)

分野

用途

製品事例

採用実績(’99国内外)

環境中で利用される分野

農林水産業用資材

フィルム、苗ポット、釣り糸、漁網

農業フィルム、釣り糸、ルアー、釣り餌袋

土木・建設資材

断熱材、保水シート、土嚢

 

野外レジャー製品など

ゴルフ、釣り、登山などの商品

 

使用後の回収・再利用が困難な分野

食品包装用フィルム、容器

食品トレー、食品容器、弁当箱

使い捨て食器

有機廃棄物のコンポスト化に有効な分野

衛生用品

紙おむつ、生理用品

 

事務用品・日用品・文具・雑貨など

ペンケース、封筒、歯ブラシ、ひげ剃り、ごみ袋、水切り、各種カード素材

コンボストバック、緩衝材、シャンプーボトル、歯ブラシ、ひげ剃り、買物袋、封筒、ボールペン、クリアファイル、キャッシュカード、会員カード

特殊な機能を活かした分野

徐放性

医薬品、農薬、肥料などの被覆材

 

保水性・吸水性

砂漠地帯の植林用素材

 

生体内分解吸収性

手術用縫合糸、ギプス、医用不織布

手術用縫合糸

小さい酵素透過性と非吸着性

食品用包装フィルム

 

低融点

包装、製本に用いる接着剤

 

現在、表1に示す種類の生分解性プラスチックが開発されていますが、汎用樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)と比べて高価格であることが普及のネックとなっています。今後、用途が拡大して量産技術が確立すれば、汎用樹脂並の普及価格帯まで価格が低下すると予想されています。 

表2に示すようにさまざまな用途が期待されている生分解性プラスチックですが、科学技術庁の研究機関である科学技術政策研究所による第6回技術予測調査結果によると、既存プラスチック市場の10%が生分解性プラスチックで代替可能と予測されています。 

現在、生分解性プラスチック研究会が、生分解性プラスチックの「製品構成」、「生分解性」、「環境安全性」に関する基準案を提案しており、この案が採択されれば、この基準を満たすプラスチックがグリーンプラ製品として認証されます。このような識別表示・認証制度の運用が開始されれば、生分解性プラスチックへの理解が深まり、生分解性プラスチックの普及にも寄与できると思われます。 

生分解性プラスチックは、プラスチック廃棄物の減量化に対する1つの方策となり得ます。今後、生分解性に対する技術開発、識別・認証制度の整備、特に食品包装用途を想定した安全性評価方法の確立、低価格化といった課題を1つずつクリアーしてくことが重要となっています。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] 株式会社住化技術情報センター 生分解性プラスチック研究会, February 23, 2000 

[2] 川本和弥, 工業材料, Vol. 46, No. 1, pp22- 25, January 1998


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